第11話 竜人の村(下)


 青い髪の竜人、ルンドに連れられた俺たちは、十五分ほど歩き、竜人の村にやって来た。


 村の家々は、非常に屋根が低く、地面から一メートルくらいしかない。きっと半地下の構造になっているのだろう。板葺いたぶきの屋根には、漬物石のような大きな石が沢山載せてあった。

 この地は、強風が襲うのかもしれない。


 俺とポルの姿が珍しいのか、村人が次々に家から出てきた。


「お姉ちゃん、あれ誰?」

「あいつ、尻尾しっぽがあるぞ!」

顔鱗がんりんが無いわ!」


 村人は俺たちを取りかこむと、口々にしゃべりだした。

 彼らをかきわけ、白ヒゲを伸ばした大柄な竜人が現れると、皆が静かになった。


「ルンド、そいつらは、誰じゃ?」


村長むらおさ、異世界から転移してきた人族と狸人族だそうです」


「そこに横たわっておるのは、黒竜族じゃな。

 そっちの三人は、どうした?」


「はい。

 その人族と戦って、このような姿に」


「なに! 

 人族に負けたじゃと? 

 部族の面汚つらよごしがっ!」


 村長は、ボードの上に横たわっている、若い竜人の頭を蹴ろうとした。


 ガン


「痛たたっ!」


 村長が足を抱え、うずくまる。俺がとっさに張った、点ちゃんシールドを蹴っちゃったんだね。


「それで分かったろう。

 こいつらは、弱くて負けたんじゃないんだよ」


 村長にそう言うと、彼は顔まっ赤にして、片足で立ちあがった。


「ええいっ! 

 こやつを打ちのめせっ!」


 比較的体が大きい竜人が数人、俺を取りかこんだ。

 また治療するのも面倒くさいから、点をつけ空に吊りあげる。


「あわわわわ!」

「ひいっ、降ろしてくれー!」

「……」


 ああ、一人は気を失っちゃったか。二十メートルくらいしか上げてないんだけどね。とりあえず、地面に降ろしておく。みんな、足腰が立たないようだ。


「村長、あんたも、空にがっとくか?」


 俺が尋ねると、首をブルブル振っている。


 ともあれ、俺たちは、村で歓迎(?)を受けることになった。


 ◇


 俺たちは、村長の家に招かれた。

 その家は他の家を二棟くっつけたサイズで、広い客室もある。よそから来た者は、その客室に泊まるのだそうだ。


 囲炉裏の周りに敷物が置いてある。

 俺は、村長の隣に、ポルと並んで座った。

 腕を失った竜人の女は、薬師くすしの家に寝かせてある。

 車座に座っているのは、ルンドを始め、がっしりした体格の竜人たちだ。

 俺たちを警戒しているのだろう。


 食事が始まろうとするとき、村長の前にある料理と俺のを取りかえる。村長は嫌な顔をしていたが、俺は気にも留めなかった。その料理を、ポルと半分ずつする。

 給仕をしているのは、女の竜人だけだ。どうやら、かなり原始的な社会形態のようだ。


 村長が乾杯の合図をすると、食事が始まる。食事は何かの肉を香草と一緒に焼いたもののようだが、なんだかひどくまずい。

 気がついたのは、塩を使っていないのでは、ということだ。


 地球にいたころ、塩を忘れてキャンプしたとき食べた料理の味に似ている。

 点ちゃん収納から塩を取りだし、自分の料理に振りかけてみる。なかなかいける。少なくとも、普通レベルの香草焼きになった。

 顔をしかめながら食べていたポルも、料理に塩をかけてやると、にっこり笑った。


「これなら食べられます」


 ルンダが塩に興味を持ったので、少し料理にかけてやる。


「な、何だこれは! 

 うまいぞ!」


 他の竜人たちも欲しがったので、料理にかけてやった。


「おお! 

 本当だ。

 いつも食べてたジジ肉が、こんなに旨くなるなんて!」


「ああ、こりゃ旨いな!」


 好評だ。


「なあ、シロー殿、それは何だ?」


「ああ、これは塩だよ」


 なぜか場が凍りつく。

 え? 俺って何かいけないこと言った?


「塩って、あの塩か?」


「ああ、単なる塩だよ」


 車座の男たちが騒ぎだす。


「塩だ!」

「俺、初めて食べたぞ!」

「母ちゃんに自慢するぞ!」

「すげーな! 

 白いから、塩なんて思わなかった!」


 聞くと、この国では塩が非常な貴重品らしい。ほんのわずかに採れる岩塩は、中央の貴族が独占しているそうだ。

 おそらく、この世界の海水からは、あまり塩が取れないのだろう。


 ハウスウォーミングパーティーで使った色紙いろがみが残っていたので、それを薬包紙のように使い、塩を少しずつ分けてやった。本当は沢山あるのだが、あまり目立つことをしたくないからね。

 竜人の皆は、折り紙で包んだ塩をそっと懐に入れている。どんだけ塩が貴重なの、この世界。


「このようなモノをもろうて、申しわけないの。

 都までは、若いのに案内させよう」


「助かる」


 気にかかっていたことを、尋ねることにした。


「この世界の竜人には、いくつかの種族があるのか?」

 

「ええ、四つありますじゃ」


「四つとは?」


「黒竜族、赤竜族、白竜族、そして我ら青竜族じゃ」


「本当の竜は、いないのか?」


「恐れ多いことじゃ。

 天竜様は、天空にいらっしゃると言われとる」


 村長は天竜という言葉を口にするとき、うやうやしく平伏していた。

 天空ね。どういう意味だろう。


 そもそも、本当に竜なんているのかね。

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