第5話 初めの四人


 大いに盛りあがったハウスウォーミング・パーティーの後、畑山さん、舞子、加藤、俺の四人は、『くつろぎの家』屋上に来ていた。


 俺たちは、あずま屋のテーブルを囲んで座り、お茶を飲んでいる。あずま屋は、夜露に濡れないように、透明なシールドで覆っておいた。

 テーブルの上に用意した、ロウソクの灯りが、俺たち四人を照らしていた。


「しかし、あのおにぎり、美味しかったなあ」


 畑山さんが言っているのは、先日俺が地球世界から持ちかえった、加藤の母親からのお土産だ。


「私も、食べたかったな~」


 あの時、舞子は、獣人世界にいたからね。


「かあちゃんも、もう少し沢山、にぎってくれてたら良かったのに」


 おいおい、加藤。お前が十個も食べたからだろう。お陰で、俺は一つしか食べられなかったぞ。


「それより、ボー。

 お前、ルルさんがいるのに、あの超絶美人なエルフさんはないだろう」


「いや、あれはエルフ王が、無理やりにだな……」


「女性に気が多いのは、加藤だけかと思ってたのに、ボーまでねえ。

 コルナさんも、一緒に住んでるんでしょ?」


「史郎君、何でそんなことに……」


 舞子が、絶望の表情を浮かべている。


「いや、俺は、まだ何もしてないからな」


 三人が、ギロッと俺の方を向いた。


「そ、それより、これ作っといたぞ」


 点ちゃんシートの端を百枚ほど張りあわせ、本のようにぴらぴらめくれるようにしたものに、地球世界で撮った、点ちゃん写真を貼りつけておいた。

 写真はシートの上に置くだけで、ぴたっとくっつく。


 三人が、写真をのぞきこんだ。


「あっ、林先生だ。

 なんだか、以前より老けてない?」


「俺たちがいなくなって、心配で白髪が増えたらしいよ」


「これは、舞子の家だよね」


「うん。

 空の上から撮ったものだね。

 この掃除してる人、お父さんだと思う」


「この男の子は?」


「ああ、弟の翔太ね」


「えっ。

 写真で見たことあるけど、すごく大きくなったのね」


「もう、小学五年生だから」


「へえ、この和服の人は?」


「ああ、それは、畑山さんのお父さんだ」


「なんか、貫禄あるな」


 まあ、あり過ぎて困ったけどね。

 

「うわあ、加藤のお母さん! 

 変わらないなあ」


 三人に、地球であったことを、話してやった。地球から帰ってすぐ、瞬間移動で、加藤と畑山を訪れたのだが、その時は、お土産と各家族からのメッセージを渡すだけで、すぐ帰ったからね。


「そんなことが、あったの。

 翔太を助けてくれて、ありがとう」


 畑山さんが、珍しく、しおらしいことを言った。


「あと、お菓子と、これありがとう」


 畑山さんは、ドレスの手元をめくった。俺が買って来たアクセサリーが、手首に巻きついている。


「史郎君、私には?」


「もちろん、舞子にも買ってあるよ」


「嬉しい! 

 ありがとう」


 アクセサリーが入った箱とチョコレート、それから、舞子の両親から託された手紙を渡した。


「ボー、あんたの魔法レベルが上がれば、異世界転移が出来るようになるんじゃない?」


「畑山さん、それは俺も考えてるんだけど……。

 簡単ではないはず。

 なんせ、今回の一時帰国は、聖樹様のお力添えあってのことだから」


「ボー、聖樹様って誰だ?」


 俺は、三人にエルファリアであったことをかいつまんで話した。


 ◇


「はーっ! 

 あんた、エルフの世界で、そんなことしてたの。

 よく生きてたわね」


 畑山さんは、呆れ顔だ。


「まあね。

 ダークエルフの『メテオ』とか、点ちゃんがいなかったら、どうしようもなかったな」


「しかし、無数の魔獣に、二万の兵士、巨大魔術に百のグリフォンか。

 よく、何とかなったな」


 加藤が、感心したように言う。


「ああ、俺一人じゃなくて、ナルやメルが活躍したからな」


「えっ! 

 あんな小さな子が? 

 ボー、あんたまさか、あんな子供を、戦場に連れていってないわよね?」


 畑山さんは、二人がドラゴンだって、知らないからね。


「ちょっとだけ姿を現して、すぐに瞬間移動させたよ。

 ルルも、サポートしてたし」


「まあ、無茶をさせてなければいいんだけど」


「史郎君、あのエルフの女性は?」


 舞子は、コリーダの事が気になるようだ。ジト目で、こちらを見てくる。


「コリーダだね。

 彼女は、モリーネ姫の姉だよ」


「え? 

 でも、肌の色が……」


「そうなんだ。

 そのことで、城で居づらくなっていてね」


「なるほど、それで連れだしたって訳か。

 でも、モリーネさんの姉ってことは、王女様だろうが」


 なぜか、こういう時、加藤は、鋭い突っこみを見せるね。


「ああ、そうだよ」


「雷神の孫娘に、獣人会議元議長、それにエルフの姫君か。

 お前んの女性陣、すげえな」


 言われてみれば、そうだな。


「史郎君、コルナとモフモフするくらいはいいけど、コリーダさんに変な事しないでよ」


 舞子が、釘をさしてくる。


「分かってるよ、舞子」


「それなら、いいけど」


「それより、二人とも言ってたもの持ってきた?」


 言ってたものっていうのは、水着の事だ。


「持ってきたわよ。

 でも、こんなもの、どうするの?」


 俺は、女性二人を、屋上の反対側にある、もう一つの東屋に案内した。


「ボー、これって、もしかして……」


「まあ、とにかく、体験してみてよ。

 二人が最初に使うから、感想を聞かせてほしいんだ」


 点魔法で覆っていた、お椀の覆いを外す。畑山さんと舞子が、歓声を上げる。


「じゃ、こちら側からは見えないようにしとくから、ゆっくりしてよ」


 二人は、俺の声も聞かず、いそいそと用意を始めた。


 あずま屋の中には、かなり大きなジャグジーバスがあった。


 ◇


 俺は二人の入浴を準備すると、加藤がいる、あずま屋に戻った。


「あれ何だい?」


「そのうち、お前とミツさんにも体験してもらうさ。

 何かは言わないから、そのとき驚いてくれ」


「まあいいか。

 それより、何か他にも、話があるんじゃないのか」


 加藤は、時々、妙に鋭いことがある。

 俺は、彼に、恩賞でもらった三つの宝玉と、最近訪れた予期せぬ訪問者について話した。


「やっかいなことに巻きこまれそうだな」


「そうなんだ。

 お前たちの手を借りるかもしれない」


「お前には、世話になってるからな。

 かあちゃんのおにぎり、持ってきてもらったし」


 おいおい、手伝ってくれる理由は、おにぎりか。


「今日は、来てよかったよ。

 この世界に転移した、初めの四人が集まれたからな」


「なるほど、『初めの四人』か。

 確かにな」


「次も、何かあったら呼んでくれ。

 ミツが、地球のお菓子に夢中なんだ」


 おにぎりの次は、お菓子と。


 シールドを消してくれという畑山さんの声が、あずま屋から聞こえる。俺と加藤が、点ちゃんアルバムをゆっくり見おえるくらい、時間がたっていた。


「ボー! 

 あれ、お城にも造れない? 

 もー、気持ちよかった~」


「うん、すごく気持ちよかったね」


 とりあえず、二人には、好評のようだ。


「何か、改良するところはないかな?」


「そうね。

 頭を載せる、枕のようなものがあるといいかも」


 さすが、お風呂のスペシャリスト、畑山女王様だ。俺は、点ちゃんノートに、彼女のアドバイスをメモしておいた。

 改めて、畑山さん、舞子の二人にも、宝玉を巡る事件について話しておく。


「私は国の事があるから、あまり力にはなれないと思うけど、できることはするからね」


「私の力が必要になったら、いつでも言ってね」


 畑山さんと舞子も、協力を約束してくれた。


 不安な気持ちが、ぬぐいさられるような、そんな気がした。

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