第4話 ハウスウォーミング・パーティー(下)


 大物ゲストの登場で盛りあがったパーティは、いよいよ家族の出し物となった。


 まずは、庭のへいに沿って、円形に場所を空けてもらう。


「では、ここからは、俺の家族が、それぞれ一芸を披露します」


 俺の合図で、コルナ、ナル、メルが点ちゃんボードを持って位置に着く。ルルが旗を振ると、ボードに乗った三人が、ゆっくり滑りだす。

 パーティーに来ている子供たちが、身を乗りだして見ている。


 三人のスピードが、だんだん上がりだす。

 見ている子供たちから、歓声が上がる。

 やがて、コルナ、ナル、メルは、姿がぼやけるほどのスピードで滑りはじめた。


「「「わーっ!!」」」


 子供たちの興奮が凄い。

 スピードが落ち、ボードから三人が降りると、あっというまに子供たちにとり囲まれた。


「乗せて!」

「僕にも、教えて!」


 あまり時間が無いので、三人が子供を一人ずつボードに乗せ、庭を一周した。


 初めてボードを体験した子供たちは、目がキラキラ輝いていた。


 ◇


 次は、ルルとリーヴァスさんによる演目だ。


 舞台の中央に、青いドレスを着たルルが静かに立っている。

 リーヴァスさんは、そでの所で椅子に座っている。その手には、よく磨かれ、飴色になった笛がある。

 彼が、それを横笛の要領で口に当てると、素晴らしい音色ねいろが流れだした。

 最初はゆっくり、そして、だんだんテンポが上がってくる。

 ルルは、それに合わせて優雅に踊る。青いドレスのすそがひらひら舞って美しい。


 俺の目は、初めて見る彼女の踊りに、釘づけだった。

 曲が終わり、ルルが最初の姿勢に戻っても、観客はしばらくシーンとしていた。マスケドニア王が立ちあがり拍手したのをきっかけに、みなの拍手が嵐のように起こった。


 二人は礼をして舞台を降りた。


 ◇


 次は、コリーダの番だ。


 痩せていた彼女も、この世界に来てからよく食べ、よく眠り、かなり体力も出てきた。

 黒いドレスを着た彼女が舞台に立つだけで、ざわついていた皆が静まる。コリーダは人を惹きつける、強烈なカリスマをオーラのように身にまとっている。

 その足元に、猪っ子コリンがちょこんと座った。


 静かに、低く、そして豊かに、彼女の歌が始まる。それは、エルファリアの神話を題材にした歌だった。

彼女の声、そのバイブレーションが、辺りを満たす。

 それを聴く者は、知らぬ間に涙を流している。

 歌は、サビの盛りあがりを迎えたあと、穏やかに終わった。


 俺も初めて耳にした、彼女の魅力、人としての力だ。

 誰も動こうとしないので、仕方なく俺が拍手した。

 沸きあがった拍手は、津波のようにパーティー会場に広がった。


 ◇


 家族の出しものが終わると、ハピィフェローの皆が近づいてきた。


「凄い出しものだったなあ」

「ボク、鳥肌立っちゃった」

「私、あの歌、もう一回聞きたいな」

「そうね、私も聞きたいわ」

「俺はルルちゃんの踊りが、また見てみたい」


 最後のは、言わずとも知れたブレットだ。

 そこへ、ちょうど飲み物を両手に持った、コリーダがやって来た。


「はい、シロー」


 俺は、彼女の手からエルファリアのジュースを受けとる。ついでだから、ハピィフェローの皆に、彼女を紹介する。


「こちらは、エルフのコリーダ。

 俺の新しい家族です」


「凄い歌だった!」

「また聞きたいわ!」


 ハピィフェローの女性二人は、コリーダと握手している。

 俺は、男たち三人に、取りかこまれた。


「シロー君、彼女との関係は?」

「すごくきれいな人だね。オレ、あんな綺麗な人初めてだ」

「おい! 

 もしかして、エルフの姫って?」


 握手を終えたコリーダが、こちらに来る。


「初めまして。

 シローの妻、コリーダです」


「コ、コ、コ、コリーダさん。

 お、お、お、俺はブレットです」


 コ、コ、コ、ってニワトリみたいになってるな、ブレット。


 その後、俺は、ブレットに庭の隅へ連れていかれ、散々嫌味を言われた。


 ◇


 パーティーのしめは俺と点ちゃんによる、打ちあげ花火だ。


 暗くなりかけた夜空に、大輪の花が続けざまに咲く。参加者は、それを心から楽しんでくれた。

 俺が「たまやー」と叫ぶと、皆もなぜか、「たまやー」とまねている。


『(*ω*)~* たまやー』


 おいおい、点ちゃんもかい。

 異世界に、変な言葉を流行はやらせてしまわないか心配だ。


 パーティーが終わると、ギルドの人々と俺の家族が片づけを始める。

 俺はナルとメルを寝かせると、マスケドニア王とショーカを送ることにした。


「シロー、帰りもあの飛行機に乗れるのかな?」


 ショーカは、点ちゃん1号が気に入ったようだ。


「帰りは、別の方法を使います。

 きっと、驚きますよ」


 俺が言うと、マスケドニア王が、喜んでくれた。


「おお! 

 また、驚かせてくれるのか。

 楽しみじゃな」


「では、さっそく」


 点魔法で、二人と共にマスケドニア王宮の貴賓室に移動した。


「えっ!?」


「こ、これは、どういうことじゃ……」


 二人が、呆然としている。


「俺の新しい魔法です」


「「……」」


 しばらく呆然としていた二人が、やっと動きだす。


「シローには、いつも驚かされるばかりじゃな」


「全くです」


 陛下に置き場所を聞き、点収納からコケットを出しておいた。


「では、シロー。

 酒とふわふわベッドのこと、よろしく頼むぞ」


「はい、分かってます。

 では、勇者は、二三日借りておきますね」


「ああ、久しぶりの再会なのだろう。

 ゆっくりさせてやってくれ」


「では、良い風を」


「「良い風を」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る