第3話 ハウスウォーミング・パーティ-(上)
俺は、点をつけた女の足取りを追っていた。
パレットに映った映像には、頭から茶色いフードをかぶった彼女が、森の中の道を走っている。あれは、俺が最初に異世界に転移してきた『霧の森』だな。
俺には、彼女がいる場所の見当がついた。
さて、どうするか。
捕らえるのは簡単だ。なにせ、すでに点はつけてあるのだから。しかし、彼女が、どうやって俺の事を知ったのか、宝玉の事を知ったのかという謎が残る。このまま泳がせておけば、その手掛かりが得られるかもしれない。
俺は、とりあえず、女を泳がせることに決め、家族に事件の報告をおこなった。
◇
予期せぬ訪問者があった翌日、新築なった俺とルルの家では、ハウスウォーミング・パーティーが開かれていた。
庭とリビングとの境を開けはなち、その両方を会場とした。
パーティーは、正午からだが、ほとんどの料理は、午前中に作っておき、家族全員が参加できるようにした。その分、デロリンとチョイスは大変だろうが、彼らが張りきっているので、任せることにした。
「シロー、ルルちゃん。
新築、おめでとう!」
最初に来たのは、ブレットのパーティ、ハピィフェローだった。マックも一緒だ。
「ガハハハッ、何か手伝えることねえかと思って、早めに来たぜ」
ごつい身体に反して、マックは、気遣いの人だからね。
彼らには、庭のテーブルへ料理を運びだす、手伝いをしてもらう。
次にキツネたちが現れた。何も言わなくても、すぐ全員が手伝いを始めている。
ホント、助かるよ。
正午前になると、キャロ、フィロとギルドの冒険者たち、受付のお姉さんたちが、やって来る。彼らも手伝いを申しでたが、すでに仕事は無かった。
カラス亭のおじさん、おばさんも、やって来た。
「はーっ!
何だい、こりゃ。
まるで、お城だね。」
おばさんが、家を見あげ、驚いている。
「これ、おばさんの三段重ねのケーキからアイデアもらったんですよ」
「ふう~ん、ケーキと家ねえ」
おばさんは、しきりに感心している。
「おい、あのコケットってのは、思った以上にすげえな」
おじさんが、俺の肩を叩く。
「まさに、ふわふわ~って、すぐ寝ちゃうのがもったいねえけどな」
「そうなんです。
俺も、それだけが残念で。
それより、今日は思いっきり、食べたり楽しんだりしてください」
「ありがとうよ」
二人は、初めて見た、余所行きの服を着て笑っている。
さて、いよいよパーティの始まりだ。
◇
「えー、本日は、私たち家族の新しい家、『くつろぎの家』においでいただき、ありがとうございます。
ウチ自慢の料理人デロリンと我々が作った料理を、お楽しみください」
立ち上がったデロリンが、皆に拍手を受ける。
「また、彼、チョイスが作った紙細工も展示してあります。
お帰りの際に、好きなものを、お持ちかえりいただけます」
チョイスが礼をすると、歓声が起きた。
「後ほど、自己紹介も兼ね、家族がそれぞれ出しものを行います。
では、お楽しみください」
パーティーが始まると、皆それぞれに、談笑したり、料理をつついている。
「美味しいっ!
オレ、こんな旨いもん食ったことねえ」
食べ物に感動しているのは、ハピィフェローの巨漢ダンだ。
「シロー、あなた『フェアリスの涙』飲み放題って、どうなの?」
キャロは、こちらの懐具合を心配してくれる。
キツネがつれて来た子供たちは、エルファリアのジュースに群がっている。
「シュワーッってするんだぞ」
「ホント?
……うわっ!
ホントだ!
でも美味しいねー」
開始から三十分ほどしたところで、ゲストの登場だ。俺がカウベルのような楽器を鳴らすと、みんなが舞台上の俺に注目した。
この舞台は、家族が出しものをする舞台として、土魔術で作っておいた。
「では、本日のゲストをご紹介します」
チョイスが、小太鼓を連打する。
「最初のゲストは……マスケドニア国国王陛下!」
俺が告げるともに、上空から白銀色の点ちゃん1号が降りてくる。地上五メートルくらいのところで停まると、ボードに乗り、国王と軍師ショーカが降りてきた。
あまりの大物登場に、会場から音が消えたが、リーヴァスさんが拍手を始めると、皆もそれに続いた。
「次は、アリスト国は、我らが女王陛下!」
レダーマンを従え、畑山さんがボードで降りてくる。皆の熱気が上がる。
「そして、獣人世界、パンゲア世界共通の至宝、聖女様!」
舞子は、よく似合う白いドレスに身を包み、ピエロッティを従えている。皆から歓声が上がる。
「そして、最後はこの人、黒髪の勇者だ!」
加藤が、ミツと一緒に降りてくる。もの凄い歓声が上がった。
まあね。この世界ではスーパースターだから、勇者は。
ゲストそれぞれが、参加者に取りかこまれている。
◇
「それでは、ゲストの方々にも、食事や飲み物を召しあがっていただきましょう」
俺の合図で、参加者は、囲みを解いた。
マスケドニア王とショーカが俺の所に来る。二人とも手には、『フェアリスの涙』が入ったグラスを持っている。
「シローよ。
迎えにまで来てもらって、すまぬな」
彼らは、午前中に王宮から、点ちゃん1号で連れてきたからね。
「いえいえ。
わざわざ遠くからご参加いただき、ありがとうございます」
「シロー、この酒はもしや……」
さすが軍師ショーカ、分かってらっしゃる。
「ええ、『フェアリスの涙』です」
「やはり!
陛下、これは、ぜひシローから、お買いつけを」
「やけに上等の酒と思ったが、それほどのものだったか」
「はい。
幻の種族、フェアリスが作ると言われる、最高の酒です」
「ほう!
シロー、分けてもらえるか?」
「大丈夫ですよ。
『ポンポコ商会』から、優先的にお譲りします」
「かたじけない」
「あと、今日のお土産として、これをお持ちかえりください」
俺は、コケットをその場に出す。
「陛下、ぜひ横になってみてください」
「では、まず、私が」
ショーカが、コケットに横たわる。
「なっ!
なんだこのふわふわ感は!」
「ショーカ、早う代われ!」
陛下も、コケットの寝心地を試す。
「おおっ!
なんだ、これは!
心地良いどころではないぞ」
「王宮に、お送りするときに、お持ちします」
「かたじけない。
これも買えるのか?」
「ええ、金貨二枚ですが」
「安い!
ショーカ、買えるだけ買っておけ」
「ははっ」
こうして、またまた『ポンポコ商会』の販路拡大をしてしまう史郎だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます