第3話 報告 渡辺家
俺は、次に渡辺家を訪れることにした。
舞子の実家は神社で、父親はそこの神主をしている。俺は何度か、舞子の巫女姿を見たことがある。
木々に覆われるように建つ、神社の境内へ降りる。神社は小山の上にあるから、普通なら長い階段を昇らなければならない。
境内を掃いている、
「おじさん!」
俺が声を掛けると、彼は眼鏡越しに、いぶかしげにこちらを見ていたが、誰だか分かると、箒を投げすてて駆けよる。
「史郎君じゃないか!」
「お久しぶりです」
「一体、今までどこにいたんだい?」
「それも含めて、舞子さんのことについて、伝えたいことがあって来ました」
「そうか!
まあ、とにかく、上がってくれ」
小学生までは良くお邪魔したが、中学生からあまり来なくなった家だ。俺は、初めて訪れる家のような感覚で、中に入った。
広い座敷に通される。
おじさんは、頭に巻いていた手ぬぐいを外すと、冷えたジュースを持ってきてくれた。俺が好きなジュースだ。
「まだ、これが好きならいいんだが」
彼は、そう言うと、俺の前にジュースを置いた。
「舞子が、このジュースだけは、切らさないようにしててね。
あの子がいなくなっても、これだけは、いつも冷蔵庫に入れておいたんだ」
俺は、舞子のお母さんの容態を聞くことにした。
「おじさん、おばさんは?」
「うん、あの子がいなくなって、元気が無くなっちゃってね。
とにかく、声だけは、掛けてくるよ」
「舞子さんの様子をお知らせしますから、できるなら、ぜひ」
「ああ、ありがとう」
おじさんが部屋を出ていって少しすると、廊下をパタパタ走る音がした。ガラッとフスマが開いて、舞子の母親が立っていた。
舞子が、そのまま年齢を重ねたような容姿だ。青いパジャマに、白いカーデガンを羽織っている。頭は、寝ぐせが付いたままだ。
「史郎君!
舞子の話が聞けるって、本当!?」
「ええ、最初から、詳しくお話しますね」
俺は、ポータルで転移した経緯から、アリストの王城に行くところまでを話した。
「それで!
それで、あの子は、今どうしてるの!」
「俺が説明するより、この映像を見てもらった方が、早いでしょう」
俺は点魔法で壁にシートを出すと、それに舞子の動画を映した。それは、舞子が獣人世界を訪れた時、歓迎を受けている様子が映ったものだ。獣人の群衆を前に、演台に登った舞子が、堂々と話している姿が映っていた。
「こ、これがあの子?」
腰を浮かせ、映像に見いっていたおばさんが、ペタリと腰をつく。
「史郎君、これ、特撮映像じゃないよね」
まあ、これだけ変わっている舞子を、すぐには信じられないのだろう。
「違いますよ。
俺も、この場にいましたから」
「なんで舞子は、こんなにも、歓迎されているの?」
「それは、もちろん、この国の人たちに、好かれているからですよ」
「ど、どうしてそんなことに……」
二人は、我が娘ながら、立派になった彼女が、信じられないのだろう。
「この群衆が集まっている広場がありますよね。
ここ、実は、建物が立っていたんですよ」
俺は、驚いた顔のままの二人に話しかける。
「舞子さんを歓迎するために、現地の人たちが、それを全部壊して、広場にしちゃったんです」
「こんなにも、立派になって……」
おばさんは、スクリーン上で動いている舞子の顔に手で触れている。
「私たちは、この世界に行けないのかい?」
おじさんが聞いてくる。
「残念ながら。
一定時間が過ぎれば、俺も向こうに帰らなければなりません」
「そうか。
ねえ、
おじさんは、彼女の背中に手を置き、優しく語りかけた。
「史郎君、それができると思う?」
おばさんが、すがるような目を、俺に向ける。
「今すぐには、無理です。
でも、なんとか、その方法を探してみます」
「史郎君の事は、小さいころから、よく知っているだろう。
舞子の事で、嘘をつくような子じゃない」
「ええ、分かってるわ。
舞子に会えるように、元気にならなくちゃ」
舞子のお母さんは、さっきより顔色が良くなっている。この様子なら、きっと床から離れる日も近いだろう。
舞子が、聖女として多くの人を救い、病気を治していることも伝えた。
「人を治す聖女の母親が、病気じゃいけないものね」
最後には、彼女にも微笑みが戻っていた。
俺は二人から舞子へのメッセージを映すと、畑山の家に向け、空へと昇った。
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