第12 黒竜王の涙

第53話 黒竜王の涙


 俺たち一行は、『聖樹の島』のポータルから入り、狐人領のポータルへ出てきた。

 そこでは、コルナの妹、コルネが待っていた。


「お姉ちゃん!」


 コルナとコルネが、抱きあう。


「コルネ、コルナは、向こうで大活躍だったんだよ。

 君にも、見せてあげたかったなあ」


 俺が言うと、さっそく姉が活躍した話をせがまれる。評議会でコルナがエルフの大男を黙らせた場面にくると、コルネは、歓声を上げ喜んだ。


「この方は、エルフ国で子爵位を授けられました」


 コリーダが、優雅な礼をしながら説明する。


「え! 

 お姉ちゃん、貴族になったの?」


「そうだよ、すごいだろう」


 俺が言うと、さらに飛びあがって喜んでくれた。


「ところで、この方はどなた?」


「ああ、俺たちの仲間になった、コリーダだよ」


 コルネが、ちらりとこちらを見る。


「で、シローとの関係は?」


「妻です」


「えっ!?」


「私は、シローの妻です」


「ええっ!」


 コルネが、絶句している。彼女は、やっと自分を取りもどすと、叫びだした。


「お姉ちゃん、だからシローは、やめとけって言ったのよ! 

 この、女たらし!!」


 最後の言葉は、俺の顔に向かって投げかけられた。

 理不尽じゃない? 女たらしでもないのに、そう言われるのって。


『( ̄ー ̄) やれやれ、これが、典型的な女たらしですね』


 えっ! 点ちゃんまで、そんな……。


 そのとき、文官のホクトが現れた。


「皆様、お帰りなさい。

 うたげの用意がしてあります。

 こちらへ、どうぞ」


 ホクトの言葉に救われた俺は、素早くその後についていく。


 ◇


 大広間は、今回も円形に座布団が敷いてあり、そこに獣人各部族のおさが待っていた。


 皆が、こちらに向け、深々と礼をする。この礼は、ナルとメルに対するものだ。彼らは、二人が古代竜だと知っているからね。


 憮然ぶぜんとした顔のまま、コルネが席に着く。


 食事が始まると、皆がエルファリアでのことを聞きたがった。

 俺は、コルナの活躍中心に話をした。皆、身を乗りだして聞いている。コルナが活躍する場面になると、わっと歓声が上がる。


 獣人のこういうとこ、好きだな。

 俺は、そういうことを考えていた。


 すると、コルナが立ちあがり、他のメンバーの活躍を語りだした。どのメンバーも目の前にいるので、説得力がある。

 コルナの語りが、またうまい。抑揚をつけ、時には歌うように話を進める。

 ダークエルフ大侵攻の場面は、皆が手に汗握る様子で聞きいっている。

 ナルとメルが、百匹のグリフォンを支配した場面に来ると、ものすごい歓声が上がった。


「さすが、古代竜様!」

「百のグリフォンを! 

 凄すぎる」

「さすが『伝説の知恵』。ニャッ!」


 恩賞の話になり、コルナがエルフ国の領地と子爵位をもらったというところで、また拍手が起こった。

 ルルと娘たちがもらった恩賞の話になったとき、猫賢者が、突然パッと立ちあがった。


「そ、その黒い玉を見せてもらえるか。ニャ?」


 いつも冷静な彼にしては、珍しい。

 ルルが、腰のポーチから三つの玉を出す。恭しくそれを手に取った、猫賢者の顔色が変わる。


「こ、これは!!」


「賢者様、それは何ですか?」


 コルナが尋ねる。


「ま、間違いない! 

 これは、『黒竜王の涙』だ。ニャン」


「その『黒竜王の涙』とは、何です」


 俺は、その名前が娘たちと関係あるような気がして、不安になる。


「伝説の宝玉じゃ。

 これ一つを争い、いくつの国が滅んだことか」


「それが三つも?」


「長く行方が知れなんだが、エルファリアにあったとは。ニャニャ。

 これは見かけは宝玉じゃが、実は、普通の宝石ではない」


「では、何です?」


「はっきりしたことは分からんが、ポータルに関係ある力を秘めているらしい」


「ポータルに?」


「伝説の一つでは、こう言われている、ニャ。

『三つの宝玉が揃えば、竜人国への門が開く』と」


 なるほど、貴重なもののようだ。


「ワシに財力があれば、一つ買い取って研究するのじゃが……」


「一つが、いくらくらいするのです?」


「安く見積もって、金貨一億枚かの」


 それって、三つで三億枚か! 日本円に換算すると約三兆円。どんだけ高いんだよ。


「しかし、伝説通り三つ揃ったとなると、三億枚ではきくまい」


 ひーっ! なに、それ!?


「コルネ殿。

 このことを秘密にするよう、さっそく獣人会議を開いた方がいいの」


「分かりました」


「シロー殿、その宝玉を狙い、ありとあらゆる者が現れるぞ。

 気をつけたほうがいい。ニャン」


 最後の一言で、緊張感台無しだけど、アドバイスしてくれるのはありがたい。彼から三つの玉を受け取った俺は、さっそく点収納にしまっておいた。


 猫賢者の勧めに従い、俺たちは、すぐに空路で犬人族の町、ケーナイに飛んだ。


 ◇


 俺たちは、アンデと舞子に挨拶する間も惜しんで、ポータルに向かった。


 俺、ルル、二人の娘、リーヴァスさん、コルナ、コリーダ、コリン、デロンチョコンビの二人。これにフィロさんを加えて総勢十人と一匹がポータルを渡る。

 ミミとポルは、家族に会ってから、アリストへ向かう予定だ。


 ポータルがある、狭い部屋は、人で一杯だ。さすがにこれだけいると、書類の手続きも大変のようだ。一時間ほど待ち、俺たちは、やっとポータルを渡る許可をもらった。

 リーヴァスさんを先頭に、ルル、ナルとメル、コルナ、デロンチョコンビが、次々とポータルへ入る。フィロがポータルを潜ると、後は俺とコリーダ、コリンだけになった。


 コリンを片手で抱えたコリーダが、もう一方の手で俺の手を握る。俺たちは、互いの目を見て、同時にこう言った。


「「一緒に」」


 こうして、全員がポータルに消えた。


 ◇


 ポータル部屋の係官である犬人ワンズが、書類を整理していると、突然ドアが開けられた。

 冒険者姿の犬人が、血相を変え、入ってくる。


「ギルドから来た。

 シロー殿とその一行は?」


「たった今、ポータルを渡りましたよ」


「なにっ! 

 遅かったか……」


 男は、書類を揃えているワンズの首筋をチラリと見る。手が腰の短剣に掛かっている。

 ちょっと考えてから、冒険者は、短剣から手を離した。ポータルがある建物を出ると、『聖女広場』が広がっている。


「何としても、宝玉を手に入れなければ……」


 男の姿は、にぎわう聖女広場の人ごみに紛れてしまった。

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