第52話 エルファリア、また会う日まで


 レガルスさんの「行かないでくれ、ルル」コールは、壊れたオルゴールのように延々と繰りかえされた。


 あまりに煩くて、ミミが三角耳を押さえたほどだ。さすがに俺も、彼が少しかわいそうになってきた。

 点ちゃん、何とかならないかね。


『(・ω・)ノ こんなのはどうでしょう』


 板(パレット)が出ると、そこにルルが映っていた。ただ、静止画だけどね。


『(・ω・)ノ□ これなら、ご主人様がポータルを渡っても消えませんよ』


 お! いいね。まさに写真みたいだね。


 魔道具には、静止画を写すものもあるみたいだが、白黒だと聞いている。しかも、ぼんやりとしか映らないらしい。

 この『点ちゃん写真』は、カラーだ。しかも、驚くほど鮮明に撮れている。俺は、にっこり微笑んだルルの写真を、レガルスさんに渡した。


「な、何だこれは! 

 中にルルがいるぞ」


 レガルスは、一人で大騒ぎしている。


 ◇


 そこへ、二十人くらいの日に焼けた男が、どっと現れた。


「あ、カズノ船長!」

「船長!」


 ミミとポルが、駆けよる。


「帰るって聞いたんでな。

 挨拶に来たんだ」


 二人から聞いていた、帆船の乗組員らしい。


「船長さん、パーティ・ポンポコリンのリーダー、シローです。

 うちの二人が、いろいろお世話になったそうで、ありがとうございました。

 あ、それと、コケットのお買いあげも、ありがとうございます」


「ははは、あのベッドは、最高だな。

 場所を取らないのもいい。

 それから、その二人には、こちらも楽しませてもらった。

 いいメンバーを持ってるな」


 ミミとポルが誇らしげに、ニコニコしている。


「あー、船長。

 コケットの付録で差しあげたミミの動画ですが、その後、見えなくなっていませんか?」


 あれから、学園都市に行くのに、ポータル渡っちゃってるからね。


「そうなんだ! 

 俺のミミちゃんが!」

「なんで、ミミちゃんが消えちゃったんだよ? 

『キモチイ~』ってやつ」

「本物のミミちゃん、置いてけ!」


 船員たちが、騒ぎだした。さすが海の男たち、豪快な抗議の仕方だ。


「それで、映像は動かないんですが、こんなものはどうかと……」


 俺が船長を木陰に呼んで、あるものを見せる。


「こ、これは!」


「いかがですか?」


「これが、もらえるのか?」


「ええ、パーティメンバーがお世話になったお礼です」


 船長は、その「ぶつ」を船員たちに見せてまわる。


「「「おおー!!」」」


 歓声が上がる。どうやら満足してくれたようだ。さっそく、人数分コピーする。

 出来る端から、船員が奪っていく。中には、大事そうに胸に当てている者までいる。まあ、喜んでくれてるなら何よりだ。


「シローさん、何渡したの?」


 ポルが訊いてきたが、口に指を当てて黙っておいた。


 ◇


 ルルの写真を眺めていたレガルスが、はっと何かに気づき、こちらに駆けてくる。


「シロー! 

 お前、これやるから、ルルを置いてけ!」


 やるって、その写真は、俺があげたものでしょう。


 スパパーン


 エレノアさんの白い棒がいい働きをする。


「いい加減にしなさい」


 エレノアさんの静かな声が、かえって怖いよ。

 俺は、レガルスさんを慰めるために、もう一つの写真を渡した。それを手にしたレガルスさんが、ピタッと動きを停める。


「お、お、お」


 おおお?


「おいシロー!

 なんで貴様は、こんな写真を!!」


 レガルスさんが、俺に詰めよろうとする。


 スパパポ~ン


 白い棒がうなる。

 今、最後に変な音したよね。レガルスさんは、パタリと倒れた。

 最後の音は、彼の意識が、飛ぶ音だったらしい。


 ◇


「では、ミランダさん、エレノアさん、船長さん、みなさん。

 またいつか、お会いしましょう」


 ルルは、母親であるエレノアさんとしっかり抱きあった後、俺たちの方に駆けてきた。

 俺は左右の手をナル、メルと繋ぎ、神樹様の口にあるポータルに踏みこんだ。



 史郎たちがポータルに消えると、残された皆はぞろぞろとギルド本部に向かった。これから、反省会を行うらしい。

 船員たちの手には、ミミとコルナが水着で笑っている写真が、エレノアに背負われたレガルスの手には、ルルが白い水着で恥ずかしそうに微笑む写真があった。

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