第40話 ダークエルフ侵攻(下)
ダークエルフに投降を呼びかける声は、城の前面に展開したエルフの軍勢にも届いた。
両手を上げたダークエルフの兵士が、森から次々に現れる。
エルフ軍からは、歓声と
史郎が予想していた通り、若いエルフの指揮官に率いられた一団が、投降したダークエルフたちへ、駆け足で近づいていく。
「ヤツらに、目にもの見せてやれ!」
ヨレヨレで泥まみれの軍服を着た、ダークエルフの兵士たちは武器も無く、それに抗える
勢い勇んで駆けよるエルフ兵の前に、銀髪の老人が現れる。
「貴様、人族だな!
ヤツらの味方をするなら、生かしてはおかんぞ」
若い指揮官が目を吊りあげ、老人に詰めよる。
「やれやれ。
馬鹿な若者は、どこにでもいますな」
老人は、苦笑いしている。
落ちつきはらったその態度に、若い指揮官は一瞬ひるんだが、剣を抜いて叫んだ。
「こいつもろとも、殺してしまえ!」
若い指揮官の剣が老人を
剣を抜いていた者一人残らず、手首から先が宙を舞った。
剣を抜いていなかった者も、あっという間に見えない何かに取りおさえられた。
エルフの軍勢から、騎乗した一人の文官が駆けつける。
「リーヴァス殿、お手数をおかけします!」
「ははは。
まあ、彼らには良い教訓になるでしょう」
利き手を失った者は、突然姿を現した三人の獣人が応急手当している。
「なんか、面倒を押しつけられてる気もするけど……」
「ミミ、何言ってるの?
リーダーは、二万人の兵士を無力化したんだよ!
ぐずぐず言わずに手を動かす」
「はいはい。
もー、ポン太ったら、ほんと偉そうなんだから!」
リーヴァスの所に、大柄なダークエルフの武人が近づく。
彼だけは、腰に剣を差したままだ。
彼は胸に手を当て、軽く礼をした。
「さぞや名のあるお方とお見受けする。
部下の命を助けていただき感謝する。
私は、プーダと申すもの。
ぜひ、お名前をお聞かせねがいたい」
リーヴァスは、軽く会釈を返した。
「リーヴァスと申します。
部下の方々のことは、お礼には及びませんぞ。
彼らを守るのが、エルフ王からの依頼ですからな」
「依頼……冒険者ですか。
冒険者でリーヴァスという名前……。
もしや、雷神リーヴァス殿では?」
「ははは。
誰かが付けた二つ名ですが、確かに私の名ですよ」
「リーヴァス殿、あなたを見こんで頼みがある。
ぜひ、私と手あわせ願いたい」
「手あわせ?
なぜですかな?」
「わが軍は、すでにエルフ軍に
しかし、私は、どうしても戦ってから身を処したい。
愚か者のたわごとと、お笑いください」
「私が受けねば、どうするおつもりかな?」
「エルフ軍に切りこんで、彼らを一人でも倒します」
「……うむ。
分かりました。
お相手しよう」
「おお!
受けてくれるか!
雷神殿ならば、相手にとって不足は無い」
二人は、五メートルくらいの距離を取って対峙した。
「リーヴァス様、無駄なことは止めてください」
ミミが叫ぶ。
「ミミ、武人の血により、これはやむないこと。
黙って見ていなさい」
プーダ、リーヴァスともに、その手が剣の
一瞬、二人の姿がぶれたと思うと、それぞれの位置が入れかわっていた。
「見事!」
ダークエルフの将軍は、そう言うと、前のめりに倒れた。
「コルナさん、頼めるかな」
コルナがプーダに駆けより、彼に治癒魔術を掛ける。
「……大丈夫です」
彼女には、リーヴァスが急所を避けて剣を振るったことが、すぐに分かった。
こうして、王城付近で行われた戦闘は全て終わった。
◇
どうして、戦闘があのようなことになったか知りたいって?
最初、城に向け襲いかかった魔獣の群れを、闇魔術から解き放ったのは、俺の点魔法だった。
聖属性の魔術を点に付与し、それを魔獣に付けた。
魔獣を操っている闇魔術を、その魔術が打ちけしたというわけ。
グリフォン隊の上空に現れた二体の飛行獣は、ナルとメルだ。
透明化の魔術をかけたボードにルルが乗りこみ、サポートしていた。
ナルとメルがグリフォンのコントロールを奪うとすぐに、俺は娘たちとルルを、『西の島』フェアリスの集落にある、『土の家』の二階に転送した。点魔法の「連結」と「付与 空間」の合わせ技だ。
この合わせ技は、『メテオ』を地面に誘導するときにも使った。一つの点で魔術を吸いこみ、もう一つの点から出したのだ。
ダークエルフには、吸収した『メテオ』を使うと脅したが、実のところ、点に収納した魔術が時間をおいて再び使えるかどうか、それは定かでない。
だから、あそこでダークエルフが降参しなかったら、いろいろ面倒な手順が必要になっていた。
結局、その手順は不要になったんだけどね。
点ちゃん、今回も大活躍だったね。
『(^▽^)/ いっぱい遊べて楽しかったー!』
まあね。いつもの点ちゃんだね。
俺は1号機の中でコケットに横になり、明日からいかにゴロゴロ怠けるか、その計画を練っていた。
いつもゴロゴロする計画を練っている、この史郎という少年、実のところ勤勉なのでは?
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