第39話 ダークエルフ侵攻(中)


 ダークエルフ軍二百、魔術部隊を率いるプーダ将軍は、森の中を南東から王城に近づいていた。


 攻撃成功の合図が、魔獣部隊、グリフォン隊それぞれから入る予定なのだが、いくら待っても連絡がない。

 痺れを切らした将軍は、自分の部隊単独で、大規模魔術をエルフ王城に打ちこむことにした。


 森の中に展開した、二百人の魔術師が、詠唱を始める。

 プーダ将軍自らが担いだ、魔道武器の先端が、白く光りだす。

 今こそ時は来た。エルフに目にもの見せてやる。


 彼は、大規模複合魔術『メテオ』発射の呪文を唱えた。

 強い光を放つ、魔道武器の先端部分が、発射される。

 光は、王城上空に向け、飛んでいく。

 それが、放物線の最も高い位置まで来ると、はじけて、巨大な火の玉となった。


 ◇


 ギルド近くの屋台を冷かしていた、エルフの冒険者パリスとロスは、上空で音がしたので、そちらを見た。


 城の上空に、巨大な火の玉が、浮かんでいる。

 祭りに来ている民衆から、歓声が上がる。

 しかし、パリスは、そのあまりの大きさに、恐怖を感じていた。

 次の瞬間、シュポッと音を立てて、火の玉が消えた。


 祭り用の、大きな魔術花火だわ、きっと。


 彼女は気を取りなおし、次の屋台へ向かった。


 ◇


 プーダ将軍は、魔術が消えて呆然としていた。


 な、何が起きた!?


 ところが、消えたと思っていた『メテオ』は、意外な場所に現れた。


 最初に魔獣が森から出てきた、荒れ地のすぐ上に、巨大な火の玉が浮かぶ。

 火球が、地面と接触した。


 ズウーンンッッ


 腹に響くような振動が、森の中を走る。

 解放された魔術の力から生み出された突風が、森の中を吹きあれる。魔獣を避け、木の上に登っていたダークエルフの多くが、風に吹きとばされた。


「ええいっ! 

 諦めるな! 

 二発目を、用意しろ」


 プーダ将軍の掛け声で、再び二百人のダークエルフが、詠唱を始める。

 二人の兵士が、箱に入った魔道武器を、将軍のところまで運んでくる。箱から、太い槍のような魔道武器を出した将軍は、再びエルフ王城に狙いを定めた。


 魔道武器の先が、王城へ向け飛んでいく。

 再び、空に巨大な火球が生まれた。


 ショポッ


 火球が、再び消える。


 プーダ将軍は、髪の毛をきむしった。魔道武器は、あと一つしかない。しかし、このまま諦めることはできなかった。

 三度みたびの詠唱、そして、魔道武器の先端が、王城に向け、美しい弧を描いて飛んでいく。

 空中に、火炎の花が咲く。


 シュポッ


 さすがのプーダ将軍も、がっくりと地面に両手を着いた。


「な、なぜだ……」


 彼の言葉が、魔術部隊全員の気持ちを代弁していた。


 ◇


 二万人の兵が吹きとばされた、森の上空から声がした。


『ダークエルフの諸君、諦めて降参したまえ。

 君たちの命は、保証しよう。

 降参しないなら、先ほどの魔術を、そこに落とすぞ』


 無機質な声が、森の木々を震わせる。


『降参を決めた者は、武器を捨て、森から城側の空き地に出たまえ』


 森の中に、武器を地面に落とす、ガチャガチャという音が響く。

 兵士たちは両手を上げ、森から出てきた。

 いつの間に現れたのか、エルフの軍勢が、城側の荒れ地に並んでいる。


 ダークエルフの兵士たちは、むしろ一様に、ほっとした表情をしていた。


 ◇


 ダークエルフの統合本部がある、森の上空からも、同じ声がした。


 スコーピオ総帥は、戦闘の続行を諦めた。

 大規模魔術『メテオ』の威力は、彼自身が一番よく知っている。

 あれを頭上に落とされたら、生き残れるはずはない。

 今は、恥を忍んでも、生き残るのが先だ。


 彼はそう考え、降伏を決めた。


 ◇


 プーダ将軍は、空から聞こえてきた声に、ホッとするとともに、武人として自分の身をどう処するか考えていた。


 部下を生きのびさせるためにも、魔術部隊が投降するのは、仕方がない。しかし、自分自身の事となると話は別だ。彼自身の矜持が、それを許さなかった。


 プーダ将軍は部下に投降するよう呼びかけると、空からの声が指示したように、王城に向け歩きだした。


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