第33話 議長との会談


 俺は、ここのところずっと休んでいないミミとポルを寝かせるため、特製ベッドを作ってやった。

 点魔法で、自立型のハンモックを作り、そこに張ったネットに『緑山』から採ってきたこけを載せる。

 苔は繊維が長く、ふわふわしている。

 まず、ポルを寝かせてみる。


「な、なんですか! 

 この気持ち良さは!」


 さっそく驚いている。


「えっ! 

 リーダー、私のも早く作って」


 ミミにせがまれ、すぐ同じものを作る。


「なに、これ! 

 ふわふわ~」


 二人の「ふわふわ~」の合唱は、すぐに寝息へと変わった。

 シローは、新しいくつろぎグッズを手に入れた、ピロロ~ン。


『♪(?ω・) ご主人様、ピロロ~ンって、何?』


 ああ、点ちゃん、それはまた今度ね。それより、さっそく仕事に行くよ。


『(^▽^)/ はーい!』


 ◇


 俺は上空から議長の家を調べた後、一人用ボードで降下した。


 屋根に降りると、そのままボードで建物の壁を下向きに滑る。

 通常の重力を、壁の方向に変えてあるから、下に落ちることはない。


 壁をするりと滑り、ある部屋のベランダに立つ。部屋の周囲に、見張りはいないようだ。

 開いている窓から、室内に入る。

 ベッドには、初老の男女が並んで寝ていた。俺は、女性に睡眠の闇魔術を掛ける。

 

 男の肩を軽く叩く。目が覚めて俺を見た男は、全く動揺する気配が無かった。


「今晩は。

 このような、やり方で失礼します」


「君は、人族だね。

 誰だい?」


「俺は、冒険者でシローと言います。

 あなたと、少しお話したくて来ました」


「妻は、どうなってる?」


「睡眠の魔術を掛けてあります。

 安全な魔術ですから、ご安心を」


「そうか……。

 何の話がしたい?」


「あなた方は、『東の島』を攻撃するつもりですか?」


「……ああ、そのことか。

 状況が変わらないなら、そうなるだろうな」


「状況とは?」


「ある筋からの援助が、途絶えてね。

 この国は、放っておくと、滅亡するしかない」


 学園都市世界からの援助だな。


「俺は、エルフ王と話したのですが、彼はあなた方との関係改善を望んでいましたよ」


「時すでに遅し、だね。

 私一人がそのことで動いても、この国はもう止まるまい」


「どうやっても、無理でしょうか」


 ダークエルフの議長、ナーデは、少しの間、黙って考えていた。


「エルフ王に、その気があるなら、もしかすると、全ては解決していたかもしれないね。

 しかし、問題は、先ほど言ったように、すでに事態が動きはじめているということだ」


「明日の議会で、エルフ王の意見を他の議員に知らせることはできますか?」


「どうやって明日議会があることを知ったか知らないが、そんなことをしても無駄だろうね」


「そうでしょうか?」


「我々ダークエルフの中には、心の底からエルフを憎んでいる者もいるからね。

 そして、それがゆえ無き事ではないから、始末が悪い」


「それだけで、国全体が動くものですか?」


「人々の憎しみをかきたて、戦争に向かわせる者がいる。

 君は、他の世界から来たようだが、どの世界にもそういう者がいるはずだ。

 自分の利権のために、数えきれないほど多くの命を悪魔に売りわたす者がね」


 俺は、彼の正論に、言いかえすことが出来なかった。


「どうすば、戦争が止められるでしょうか」


「そうだね。

 どちらかが、圧倒的な力で片方の武力を排除するしかないね」


「……」


 俺の予想を超えて、事態は進んでしまっているらしい。


「出来るなら、議会の力で戦争回避に動いてもらいたかったのですが……」


「君はどうやら、エルフだけに肩入れしている訳ではないようだね。

 だけど、もう、どうしようもないだろう」


 彼はそう言うと、無念そうに眼を閉じた。


「なんとか、ぎりぎりまで戦争回避を模索してみます。

 何かの時には、力になっていただきたい」


「ははは。

 私が言うべきセリフを、先に言われたようだな。

 いいだろう。

 君が命懸けで我々のために働いてくれるなら、私は約束を守ろう」


「俺は、どちらのためにも働きませんよ。

 戦争を止めたいだけです」


「その言葉で十分だ。

 我々の事は、かなりのところまで把握できてるんだろう?」


 さすが、切れ者議長だ。


「ええ、情報をいただく必要はありません。

 エルフ王と関係ある人物と接触したと知れたら、あなたの身が危ないですから」


「ははは。

 人族の少年から、命の心配をしてもらうとはな」


「じゃ、俺は、もう帰ります。

 どうしても俺と連絡を取りたい事柄ができたら、他人に聞かれないところで、俺の名前を口に出してください」


「シローだったな。

 君は、勇者か何かか?」


「ははは。

 俺は、しがないただの魔術師ですよ」


「まあ、いいか。

 それでは、命があれば、またどこかで会おう。

 よい風を」


 よい風か。まさに、今の俺に必要なものだな。


「ナーデ議長、あなたにも、よい風を」


 俺はベランダに出ると、ボードに乗り、一気に空へ上がった。チラリと下を見ると、ベランダに人影が見えた。月明かりでは、はっきりしないが、きっとナーデだろう。

 ナーデからは見えないだろうが、俺は彼に手を振ると、さらに高度を上げた。

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