第32話 ダークエルフの議長


 点ちゃん1号に乗りこんだ俺は、ミミ、ポルと一緒に、再び『南の島』中央都市上空にいた。


 機内の壁には、何枚かの映像が映っている。

 中には、女性がキッチンで虫を追いかけている映像とか、おじさんが入浴中の映像とかあったが、そういうのは消しておく。

 太ったダークエルフの男性が映った映像に、執事だろう男性が現れた。


「旦那様、ダリル様がいらっしゃいました」


「そうか。

 すぐに通してくれ」


 会話からして、この男がこの館の主、つまりは丸顔の父親だろう。

 部屋に、三十歳くらいのダークエルフが入ってくる。


「ダリル、待っていたぞ」


「はあ。

 それが、あまりいい知らせではありません」


「どういうことだ?」


「息子さんが率いたグリフォン隊からの連絡は、その後ありません」


「何だと! 

 二十匹のグリフォン隊だぞ。 

 それに『西の島』には、少人数の敵しかいなかったそうではないか」


「はい。

 報告の段階では、初老の人族一人だけしか確認されていません」


「一体、どういうことだ! 

 あれから、何日たったと思ってる!」


「何分、『東の島』への総攻撃が控えていますから、あまり人を動かしてもらえないようなのです」


「もういい! 

 ワシが直接、議長と話してやる!」


 丸顔の父親は、どかどかと足音を鳴らし、部屋から出ていった。

 ダリルと呼ばれたダークエルフは、ため息をついてから部屋を後にする。


 俺はダリルにも点を着けたが、そちらは点ちゃんに任せ、丸顔の父親を追う。点は彼の頭上一メートルの所に位置するよう設定してある。意味が無いところに落ちた点も、彼の所に集めてある。

 他の映像は消し、彼の映像を画面いっぱいに映すことにした。


 ◇


 丸顔の父親は、庭に出ると、うまやのようなところに駆けこんだ。

 そこには、手綱を付けられた大型のトカゲがいた。

 それは、『西の島』中央山岳地帯に生息するものに似ているが、やや小ぶりだ。

 男は器用にトカゲの背に登ると、手綱を使い、それを走らせはじめた。


 かなりのスピードで、街中を駆ける。

 時々、同様のトカゲに騎乗しているダークエルフの姿がある。通りすぎる家々は、土魔術で作ったのか、継ぎ目がない。

 俺は、街並みをもっとよく見たかったが、ここは男に集中することにした。

 ミミとポルも、食いいるように画面を見ている。


 男が乗るトカゲは、町の中央をぐるりと囲っている壁の所で、一度警備兵に止められたが、それ以外は、ずっと走りづめで、ある建物の前まで来た。

 二階建てで、瀟洒しょうしゃたたずまいだ。

 建物には、やはり、継ぎ目はなく、うす茶色をした外壁のあちらこちらに、曲線を多用した模様が彫ってある。


 丸顔の父親は、思わぬほど身軽にトカゲから飛びおりると、突きでたお腹を揺らしながら、建物の中に駆けこんだ。

 入り口で、執事のような男にさえぎられるが、お構いなしに中へ入っていく。よくここを訪れているのだろう、勝手知った様子で、あるドアをばっと開けた。


 中は十五畳くらいで、中央にテーブルがある。

 恐らくこの家の住人だろう。四人のダークエルフが食事をしているところだった。

 脇に控えていた二人のメイドが、闖入者ちんにゅうしゃに慌てている。


 テーブルの奥に座っていた初老の男が、落ちついた声で尋ねる。


「おやおや、今日は、約束がありましたかな」


 その声にカチンときたらしく、丸顔の父親は、まっ赤な顔で怒鳴る。


「ナーデ! 

 ジャスティの調査はどうなってる! 

 連絡が途絶えたのが、いつだと思ってるんだ」


「まあ、とにかく座ってください。

 このままでは、話もできません」


 メイドの一人が気を利かせ、椅子を運んでくる。丸顔の父親は、ドカッとそれに座った。

食事をしていた初老の女性と、若い男女が、さっさと部屋を出ていく。


「ジャスティ君の件でしたな」


「それ以外に何がある!」


「今この国は、『東の島』侵攻作戦のため総力を挙げています。

 その中で、息子さんには二十ものグリフォンをご一緒させた。

 それの何処がご不満で?」


「いや、まあ、それはそうだが……」


 丸顔の気勢が、急にがれる


「だが、少しくらいは調査隊を出してくれてもいいだろう」


「その結果、息子さんがグリフォンを何頭かでも失っているとどうなると思います?」


 父親の顔が青くなる。


「島送りは、まぬがれんでしょうな」


 恐らく、島送りとは、メリンダが受けた、『西の島』の魔獣による処刑だろう。


「ま、待ってくれ。

 ちょ、調査隊は、ワシ自身が用意する。

 許可だけ出してくれ」


「そうですか。

 明日の議会で、議題に入れましょう。

 それで、よろしいですかな」


「ああ、すまない。

 ナーデ殿、感謝する」


 すでに、勢いを失った父親は、すごすご引きあげていった。ナーデというこの議長、なかなかのやり手のようだ。

 俺は、彼にも点を着けておく。


 点ちゃん、そろそろ出番が増えそうだよ。


『(^▽^)/ わーい、いっぱい遊べるー』


 俺は、このあとの仕事を考えると、頭が痛くなった。

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