第8部 ダークエルフとの接触

第31話 再び『南の島』へ


 俺は、ポルにメリンダの相手をさせることにした。


 天涯孤独の体験を持つ彼なら、仲間から理不尽に見捨てられた彼女に何かできるかもしれない。まあ、命を救ったのが彼だから、というのもあるけどね。


 ポルは、さっそく二階の部屋で、いろいろ世話を始めたようだ。

 どうしてもの時は、ミミも手伝っている。

 きっと、メリンダは、大丈夫だろう。


 俺は丸顔を再び尋問し、大規模攻撃についていろいろ情報を仕入れた。

 エルフの貴族の中にも、肌の色が褐色の者がいて、それをモーフィリンで隠しているそうだ。彼らが中心になり、現国王を追いおとそうという動きがあるそうだ。

 それと呼吸を合わせ、『東の島』南部を奪還するのが目的らしい。

 いずれにしても、王都は戦場になりそうだ。


 俺は、いよいよ、ダークエルフの権力者と接触する、ミッションを開始することにした。


 ◇


 俺、ミミ、ポルは、点ちゃん1号に乗り『南の島』上空にいた。


 ポルはメリンダの側に残しておきたかったのだが、彼がどうしても一緒に行くと言って聞かなかったのだ。

 機体には、フェアリスから学んだ透明化の闇魔術がかけてある。


「うわっ! 

 本当に大陸がある!」


 ポルは、『南の島』をの当たりにすることで、再び驚いている。


「意外に、町が多いわね」


 ミミは、もっと荒涼とした土地を想像していたようだ。

 フェアリスたちが捕らえられていた研究所がある、中央都市へ向かう。


 上から見ると、ほぼ円形に発達した都市の中心に、さらに円形に囲まれた建物群がある。

 あれが、中央の行政府だろう。

 俺は高度を下げ、丸顔から聞いていた奴の自宅を探しだす。目標が見つかると、観測用に設定した点を、その建物の上からばらまく。

 すぐに高度を上げ、透明化の闇魔術を解いた。

 後は待つだけだ。


「うーん、暇だからポータルの確認でもしておくか」


 俺は、学園都市世界へのポータルがあると聞いている、『緑山みどりやま』に行ってみることにした。


 ◇


 中央都市から、南東へ飛ぶこと十五分。氷雪地帯が、見えてきた。


「うう~、見るからに寒そうね」


 ミミが眉を寄せている。まあ、猫は、寒いの苦手だからね。猫人も、そうなのかもしれない。


 目的地に近づくと、白い風景の中に、緑の山がくっきりと浮かび上がった。上空から見ているので、白いキャンバスに、緑の円が描かれているように見える。

 ポータルがある洞窟を探しながら、降下する。

 あった。緑の山肌に、黒い穴が見える。


 俺は、穴から少し離れたところに機体を下ろすと、防寒用に自分たちに点をつけ、ドアを開けた。一気に室温が下がったからだろう、コップの水が凍りかけている。

 ミミ、ポルを連れ、緑の地面に降りたつ。

 機体に透明化の魔術を付与してから、洞窟まで歩く。


「寒そうなのに寒くないって、変な感覚ね」


 ミミが、困惑したような顔をしている。点魔法で寒さを遮断していなかったら、一瞬で凍えてしまうだろう。


 降りてみて分かったが、この山が緑に見えるのは、こけの一種が生えているからだ。きっと、この苔の生態に、雪を解かすような仕組みがあるのだろう。


 俺は、苔を手にとった時、ひらめいたことがあったので、それをたくさん点収納に確保しておいた。


 ◇


 ポータルがある洞窟は、緑の斜面に、ほぼ円形に口を開いていた。


 中に入ると、苔が生えていないせいか、氷柱つららが垂れている。俺たち三人は、それを避けるように奥へと入っていった。


 三十メートルほどで、洞窟が終わる。行きどまりは、やや広い空間になっていた。空間のまん中には、鏡台のような形をした石造りの建造物がある。

 鏡台の鏡に当たるところが、黒く渦巻いている。


 ポータルだ。


 ミミとポルが、恐る恐るポータルに近づく。


「ふわ~、本物みたいですね」


「馬鹿ね、本物なのよ」


「あまり近づかないようにね。

 近づいただけで、引っぱりこまれることもあるみたいだから」


 俺は、最初に異世界に転移していた時のことを思いだしていた。

 あの時は、ポータルに直接接触していたのは、加藤だけだった。だが、結局は俺を含め、三人が転移に巻きこまれた。

 俺の言葉で、二人が慌ててポータルから距離を取る。


 捕えた複数のダークエルフが、ここは学園都市世界の群島に繋がっていると証言した。実際に渡って確かめてみてもよいのだが、ここは我慢しておこう。

 その時、突然ポータルが回転を始めた。


「ミミ、ポル、壁際に。

 急いで!」


 俺たち三人は、壁際に貼りついた。点魔法で、それぞれに透明化の魔術を付与する。

 俺たちの姿が消えてすぐ、ポータルから研究服を着たダークエルフが現れた。中年の男性で、手に一メートルほどの細長い箱を抱えている。

 後から、さらに二人のダークエルフが出てくる。こちらは、二人で大きな箱の両端を抱えていた。


「島の倉庫に、こんなものがあるとはな。

 行ってみた甲斐かいがあったというものだ」


 先頭の男性が、低くつぶやく。


「所長、本当に、これを使ってもいいのでしょうか」


 若いエルフが、青い顔をして尋ねる。


「お前が、心配することじゃない。

 さっさと運びだせ」


 若いエルフは、ボスのご機嫌を損ねたようだ。

 三人は、洞窟の外に向かう。

 俺は、あることに気づき、点ちゃんに指示を出す。


 三人の足音が消えると、俺は闇魔術を解いた。ミミとポルの姿が現れる。二人から見たら、俺の姿も現れたはずだ。


「ひゃ~、凄いです! 

 さすが、シローさん」


「ホント、毎回驚かせてくれるわ」


 ミミは、呆れたようにそう言ったが、何かに気づいて声を上げた。


「あっ!」


「どうしたの、ミミ?」


 ポルが尋ねる。


「私たち、苔の上を歩いて洞窟まで来たけど、足跡が残ってるんじゃないの?」


「えっ! 

 そう言われてみれば、そうだね」


 ポルが思いだすように言う。


「ボクらが歩いた後に、足跡が残ってた」


「シロー! 

 急がないと」


 俺は、二人を安心させる。


「足跡は、点ちゃんに消してもらったよ」


「は~、それならそうと、早く言ってよ。

 焦って、損しちゃったじゃない。

 リーダーは、ぼーっとしてるようで、そういうとこ、抜け目ないわね」


 誰かも、そんなこと言ってたな。


「よし、丸顔邸の点もうまいこと拡散したみたいだし、そろそろ帰るか」


 俺は、帰りがけに、さらに大量の苔を点ちゃん収納に入れてから『緑山』を後にした。

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