第19話 意外な才能


 相変わらずの、ルルを巡るエレノアさんとガリウスさんの夫婦めおと漫才があった後、俺たちは『聖樹の島』を後にした。


 ここから『西の島』までは、点ちゃん3号で行く。


 デッキ部分には、ワイバーンが休めるような仕掛けをこしらえておいた。


『(^▽^)/ ヒャーッハー!』


 点ちゃんが、ものすごい勢いで船を走らせる。

 デロリンが、あまりにも怖がるので、船室から外が見えないようにしてある。

 チョイスは、思ったより気が利く青年で、船のあちこちを掃除してまわっている。


 ナルとメルは、新しく作った階段を上がり、デッキの上にある風防の中にいる。これは、二つ目の風防で、ワイバーンたちが入れるだけの大きさに作ってある。

 二人とワイバーンは、思う存分スキンシップがはかれ、ご満悦だ。


 俺、リーヴァスさん、ルル、コルナの四人は、『西の島』の地図を広げ、上陸前の打ちあわせをしていた。


「魔獣は、それほど大きいのですか?」


 俺の問いかけに、リーヴァスさんが答える。


「私がかつて訪れた時のままなら、そうですな」


「例えば、資料には『島ネズミ』という一メートルを越えるネズミが出てきますが、全ての種族のサイズが、通常より何倍も大きいと考えていいのでしょうか?」


「私が目にした最大の『島ネズミ』は、二メートル以上ありましたから、資料は参考程度に考えた方がよいでしょうな」


「に、二メートル……」


 リーヴァスさんの話を聞いたコルナが、絶句している。


「おじい様、私たちが食べるものや水は確保できますか?」


「果物のたぐいは、豊富にあるよ。

 魔獣には、食べられるものと食べられないものがいるな」


 リーヴァスさんは、そこで少し考えているようだった。


「水か……。

 水は、何本かある川の水を沸かして飲んでいたが、体に合わない者もいたから、工夫が必要かもしれんな」


 点ちゃん収納の中に、二週間分の水と食料は用意してある。

 問題は、二週間で結果が出せるかどうかだ。

 もし、『西の島』での滞在が長びけば、現地調達しなくてはならないだろう。

 点ちゃん収納の中で物が腐らなければ、もっと食料を持ちこめたのだが……。

 とにかく、二週間を目処に調査するしかないね。


 俺は、不十分な情報に少し不安を覚えると同時に、新しい冒険にワクワクする気持ちを抑えきれなかった。


 ◇


 『西の島』に近づくと、さっそく問題が起きた。


 デッキに出ている子供たちが、船の周りをぐるぐる回る、大きな三角ひれを見つけたのだ。ひれの数は、七つだ。

 岸が近づき、船のスピードを落としたとたんにこれだ。

 ひれの大きさから考えて、魚の全長は三メートルから五メートルくらいありそうだ。


 メルがやってきて、服の裾を引っぱる。


「パーパ、トンちゃんたちが、出して欲しいんだって」


「トンちゃんは、遊びたいの?」


「ううん、あのお魚が獲りたいんだって」


 まあ、ここは、ワイバーンの好きにさせておくか。

 念のため、各ワイバーンには点をつけておこう。


「じゃ、二人は、少しだけ下に降りていてね」


 俺が言うと、娘たちは、すぐに階段を下りていった。

 船を停めてから、風防を開放する。

 待ちかねていた五匹のワイバーンは、一斉に空に舞いあがった。

 少しの間、空中で羽ばたいていたワイバーンだが、その一匹が海面に急降下する。


 ザバッ


 両足で、巨大な魚をつかんで持ちあげる。

 他のワイバーンも、次々に魚を獲る。

 そして、風防があった辺りに、魚を降ろしている。

 感心なことに、魚が暴れないように、頭の部分を一噛ひとかみしている。


 デッキは、すぐに魚が山盛りになった。

 魚は鋭い歯があり、マグロのような形をしていた。

 ワイバーンがその周りに着陸したのを見計らい、再び大きめの風防を張る。


「ナル、メル。

 来てごらん」


 階段の下で待っていたのだろう、二人は、すぐデッキに現れた。


「うわー! 

 お魚さんが、いっぱい!」

「トンちゃん、すごい!」


 二人は、ワイバーンの頭を撫でている。

 階段を上がって来たデロリンが、間近にワイバーンの姿を見るなり、白目をいて気絶する。

 あちゃー、そう言えば、彼がワイバーンを近くで見るの、初めてだったか。


 俺は、デロリンの身体を魚の側に横たえ、調理道具を出す。

 包丁とナイフは、普通サイズのものしかない。これで解体できるかな。

 悩んでいると、デロリンが目を覚ました。


「ううう、び、びっくりしたー」


 まあ、こっちはアナタにびっくりしましたよ。


「旦那、この魚、さばいちまっていいですかい?」


「え? 

 デロリン、これさばけるの?」


「ええ、これくらいならお安い御用です」


 彼は包丁を使う許しを得ると、手際よく魚を解体しはじめた。

 小さな包丁をクルクル使い、見事に魚をさばいていく。

 魚の山は、あっという間に頭やワタ、身と骨に分けられた。


「デロちゃん、すごいー!」

「すごーい!」


 ナルとメルも、彼の手際に驚いている。

 ワイバーンが、頭やワタを食べたがったので、それ以外を点収納に仕舞う。お腹を空かせていたのか、五匹は山のようにあった頭とワタをあっという間に平らげてしまった。


「美味しかったって言ってるー」


 メルが、ニコニコして報告する。


「じゃ、メルも、お魚食べてみる?」


「食べるー!」


 ワイバーンの食事を見て、お腹が減ったらしい。

 全く、ナルとメルには敵わない。


 俺たちは、船室へ降り、食事することにした。


 ◇


 広めに作ったキッチンで、俺はデロリンに調理器具と調味料を見せていた。

 最初は、何もないところから次々と現れるものに驚いていたデロリンだったが、すぐ鋭い目になって道具を触りだした。


「なかなかいいものが揃ってやすね」


 彼は、調理器具を我が物のように扱っている。


「デロリン。

 任せるから、みんなに食事を作ってくれないか?」


 彼は、ニッコリ笑うと頷いた。


「へい、お任せ下さい」


 いつもの自信がない彼とは大違いだ。

 俺は、彼が必要だというもの以外を点収納に仕舞い、リビングに戻った。


 それから三十分程して、デロリンが料理を持ってくる。

 点魔法で作ったボウルに、澄んだスープが入っている。

 俺たちは、全員でテーブルに着く。


「「「いただきます」」」


 皆が、スープを一口飲んで絶句する。 

 旨い。いや、旨すぎる。

 俺と感覚を共有している点ちゃんが、『な、なんじゃこりゃー!』と叫ぶぐらいの味だ。

 皆に絶賛され、デロリンが照れている。


「デロちゃん、どうしてこんなにすごい料理が作れるの?」


 コルナが、みんなの訊きたかったことを尋ねる。


「私は、港町の料亭のせがれでして、さんざん親不孝をやって、家を追いだされたんでさ」


「それにしても、この料理の腕はすごいね」


「親父に死ぬほどしごかれましたから。

 それが嫌で、ポータルに飛びこんじまったんで」


 彼は、少し悲しそうな顔をした。きっと、故郷に帰りたいんだろう。

 俺は、そのことを心に留めておいた。

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