第7話 雷神リーヴァス


 点ちゃん2号は草原を抜け、丘陵地帯に入った、


 ところどころ、斜面を切りひらいて道が通っている。

 点ちゃんから警告が出た時、俺たちは深い切通しを通っていた。


『ご主人様ー、来たよー。

 あと三百メートル。

 前に十人、左右の崖の上に五人ずつだよ』


 点ちゃん、ありがとう。

 すぐに、その情報をリーヴァスさん、ルル、コルナに念話で伝えた。

 点ちゃん2号は、その外郭自体がシールドになっているのだが、その外側にシールドをさらに二重に展開した。

 スピードを落とし、襲撃に備える。

 襲撃予想地点の少し手前で2号を停める。


『(・ω・) ご主人様ー、相手が慌ててるみたい』


 それは、そうだろうね。まるで襲撃されるのが分かってたような行動だもん。


「リーヴァスさん、開けます」


「どうぞ」


 ちょうどリーヴァスさんが座る席の横、窓側の壁が、ドア型に開く。

 彼は、ひらりと外に飛びだした。


 前方に覆面をした集団が見える。

 土色のローブを着ているのは、姿を目立たなくするためだろう。

 半分が弓、半分が剣を持っているようだ。


 彼らの前に、鞘入りの剣を左手に持つリーヴァスさんが静かに立っている。

 距離は百メートル程か。

 俺とルルは固唾を飲んで、これから起こることを見守っていた。


 敵のリーダーだろう、大柄なローブ男が片手を上げた。

 左右の崖上から、矢が雨のように降りそそいだ。

 腕がいいのか、ほとんどがリーヴァスさんに当たるコースを飛んでくる。風魔術と弓の合わせ技、『風弓かざゆみ』だろう。


 一瞬、リーヴァスさんの身体が何本もの矢に串刺しになったように見えた。しかし、その姿は高速で動く彼の残像に過ぎなかった。

 右の崖の上から、何かが落ちてくる。

 それは、敵の死体だった。

 ほとんど時間をおかず、左の崖からも敵の身体が降ってくる。


 前方の十人がリーヴァスさんを見失い、右往左往している。

 雷神は、すでに奴らのすぐ後ろにいた。

 一人の敵がそれに気づき、悲鳴を上げた。


「ひっ!」


 恐るべきことに、敵が発したのはこの一言だけだった。

 次の瞬間、十人全員が地に伏していた。


 雷神リーヴァス。 


 俺は、その二つ名の意味を知った。


 ◇


 敵の死体を全て点ちゃん収納に入れおえると、俺は点ちゃん2号を再び動かした。


 リーヴァスさんは、戦いなど無かったように、静かに座席に座っている。

 返り血一つ付いてない。


 俺は、信じられないくらいの剣の冴えに、畏怖するしかなかった。

 リーヴァスさんの名を聞いて、気を失う人たちのことを大げさだと思っていたが、これなら頷ける。さすがは、黒鉄くろがねの冒険者だ。


 戦闘についてあらかじめ知らせていなかったモリーネ姫は、しばらく混乱していたが、コルナが話しかけて、やっと落ちついた。

 姫には、なぜ戦闘前に知らせてくれなかったのかってなじられたが、戦闘に慣れていない場合、冷静な対処はできないからね。

 お陰で娘たちが目を覚ますことなく、戦闘を終えることができた。


 丘陵地帯を抜けた点ちゃん2号は、森の中を進んだ。

 進むにつれ、木が太く大きくなっていく。

 空中で枝と枝が絡みあい、複雑な模様を作っている。

 点ちゃん2号は、木々が織りなすアーチの中をどんどん進む。


 やがて、枝の間に、不思議なものが見えはじめた。

 空中に絡まった枝と枝を利用し、その隙間に鳥の巣のようなものがあるのだ。

 モリーネ姫によると、それがエルフの住宅だそうだ。

 枝の上に作るので、重量を減らすため、軽い素材でできているそうだ。


 更に進むと、球状住居の数が次第に増えはじめた。

 木々の上を歩く、エルフの姿も見える。


 エルフの子供たちは、見慣れない銀色の乗り物に驚き、こちらを指さしている。

 モリーネ姫は、懐かしい風景にくつろいだ様子だ。


 広場のような場所に出る。

 広場の中心には巨大な四本の木が生えており、その間をつたのようなものが覆っていた。


「エルフの王城、イビスです」


 モリーネ姫が指さす。

 彼女の指示で、四面ある壁の内、ある面の中央に点ちゃん2号を乗りつける。

 壁の一部が、するすると持ちあがったので、そこを通りぬける。

 俺たちは、2号に乗ったままだ。


 巨大なトンネルのような通路は、ずっと奥へと続いていた。

 再び緑の壁が現れた時、モリーネ姫が俺たちに降りるように指示する。


 皆が降りると、壁の一部が上がり、ドア型の開口部となった。

 そこから、騎士姿のエルフが数名出てくる。

 最後に女性が現れた。エメラルド色のドレスをまとい、頭は宝石の飾りで覆われている。

 モリーネ姫によく似ている。


「お母さまっ!!」


 あまり感情を表さないモリーネ姫が、溜めていたものを吐きだすように女性に抱きついた。

 女性の目には、涙があった。


「モリーネ、おお、モリーネ。

 帰って来てくれたのね……」


「お母様……」


 二人は、しばらく抱きあっていた。

 そのうち、女性がはっと気づいたようにこちらを見た。


「あなた方が、娘を?」


「おきさき様、リーヴァスです。

 ご無沙汰しておりました」


「まあ! 

 リーヴァス、あなたなの!」


「モリーネ姫をお助けしたのは、こちらの若者でございます」


 リーヴァスさんが、俺の方を手で示す。


「あなたが?」


「聖樹様(神聖聖樹)のお導きで、初めてお目にかかります。

 シローと申します」


 俺は、点ちゃんノートの中から、この場に相応しい挨拶を選んだ。


「娘を救ってくれたこと、感謝するわ。

 ここでは何だから、しかるべき場所にご案内するわ」


 お后は振りかえると、騎士の一人に向かい、小さく頷いた。

 騎士は、それだけで彼女の意図を察したのだろう。

 俺たちを連れ、城の中に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る