第6話 エルフの国


 俺たちが乗った点ちゃん3号は、暗くなる前に「東の島」の港町に到着した。


 港町の名前は、ポーラ。

 出発したセント・ムンデの港町と較べると、遥かに大きい。モリーネ姫によると、人口も二万人程いるらしい。

 白銀の船が桟橋に着くと、大勢のエルフが集まってきた。


 最初に、俺、ルル、ナル、メル、リーヴァスさんが甲板に姿を現すと、エルフたちにどよめきが起きた。この大陸では、人族がかなり珍しいらしい。

 続いて現れたコルナを目にすると、群衆がより一層騒ぎだした。


「獣人だぞ!」

「獣人だ! 

 気をつけろ」

「何が目的だ!?」


 大変な混乱だ。

 しかし、コルナの後ろから現れたモリーネ姫の姿を見ると、辺りが急に静かになった。


「皆さん、私はある事情で他の世界に行っておりました。

 そこで私を救ってくれたのが、この方々です。

 どうか温かい歓迎を」


 彼女がそう言うと、辺りは歓声に包まれた。


「姫様ーっ!」

「おかえりなさい!」

「おかえりー!」


 人ごみをかき分けて、胸に飾りをたくさんつけたおじさんエルフがやってきた。後ろには、剣や弓を持ったエルフの兵士を従えている。


「姫様! 

 よくぞご無事で。

 いったい、どこにいらっしゃったのですか?」


「マウラムか、今はとにかく急いで城へ行きたい」


「当然です。

 我らが、お供しますぞ」


「不要じゃ。

 護衛はこの者たちに頼んである」


 心なしか、モリーネ姫の声が冷たい気がする。


「しかし、姫に万一のことがあっては……」


「このすでに、万一の目に遭うたわ! 

 下がれっ!」


「ははっ」


 ふむ。この男、姫から嫌われてるな。何か理由があるんだろう。


「では、シロー、頼むぞ」


 モリーネ姫が俺の方を向いてそう言うと、マウラムと呼ばれた男がこちらを睨んでくる。

 あっという間に敵を作ってる気がする。なんか、くつろぎとは程遠いな。

 そんなことを考えながら、俺は点ちゃん3号を消した。

 群衆がまたざわついたが、ここは気にしなくていいだろう。


 バス型の点ちゃん2号を出す。またまた、ざわめきが起こる。

 エルフの人たち、反応いいね。

 全員が乗りこむと、モリーネの指示に従って出発する。

 点ちゃん、さっきのおじさんに点をつけておいてね。


『(・ω・)ノ もう、付けましたよー』


 まあね。俺の考えてること筒抜けだもんね。

 点ちゃん、ありがとう。また、3号で航海しようね。


『(^▽^)/ わーい!』


 史郎たちを乗せた点ちゃん2号は、街道を東に向かって進んでいった。


 ◇


 学園都市世界との連絡が途絶え、いらいらしていたマウラムは、衝撃の報告を受けることになる。


 港湾関係者からの連絡で、港にモリーネ姫が現れたというではないか。

 彼は、まずそんなはずはあるまいと思ったが、念のため部下を連れ、港へ向かった。そこで彼を待っていたのは、本物のモリーネ姫か、あるいは本物そっくりの少女だった。

 すぐにも拘束したかったが、周囲には群衆がおり、「姫」を守るように冒険者らしい人族の姿があった。

 護衛を申しでるが、冷たく拒絶されてしまう。もしかすると、「姫」は何か気づいているのかもしれない。


 港にある隠れ家に戻ったマウラムは、通信用魔道具を取りだした。


「マウラムです。

 モリーネ姫が現れました」


「そんなはずがなかろう。

 別人ではないのか?」


 魔道具から聞こえてきたのは、女性の声だった。


「いえ、私が見る限り、本物に見えました」


「まあ、そんな可能性はまずないが、万一に備えて準備しておくか」


「彼女は、モロー街道を城へ向かっております」


「よし。

 後のことは、こちらで準備する。

 お前は、その女がどこから来たか、足取りを追え」


「はっ、分かりました」


 魔道具の通信は、一方的に切れた。

 恐らく、彼より立場が上の相手だったのだろう。


「やれやれ」


 マウラムは、姫が港まで来た航路が無数にあることを考え、頭を抱えた。


 ◇


 俺は、街から少し離れたところで、「土の家」を造った。

 その夜は、そこで過ごした。


 早朝に起き、街道を東に向かう。

 点ちゃん2号は、舗装されていない道を順調に進んでいた。

 窓から見える風景は、なだらかにうねる草原だ。


「モリーネさん、この道の名前は、『モロー街道』で合っていますか?」


 俺が質問すると、モリーネは不思議そうな顔をしていた。


「シローは、ここに来たことがあるの?」


「いいえ、初めてですよ」


「よくこの道の名前を知ってたわね」


「ええ、ちょっとした事情で」


 俺は、2号の後ろの方の座席に座っているリーヴァスさんとルルの所に行った。

 ナルとメルは、船旅ではしゃぎ過ぎたからか、朝から寝ていた。


「シロー、何かあったのですね」


 さすが、ルル。 


「リーヴァスさん、ルル。

 よく聞いて下さい。

 敵が、この先で待ち伏せているようです」


「ふむ。

 で、どうしますかな」


「子供たちは俺が守りますから、迎撃の用意をしてほしいのです」


「分かりました。

 ルル、ここはシローと一緒に、ナルとメルを守りなさい」


「おじい様、お一人で戦われるつもりですか」


「一人の方が、かえって戦いやすいこともあるのだよ。

 ここは、私に任せておきなさい」


 そういうことなら、リーヴァスさんに任せてみよう。


「分かりました。

 何かあれば、声を掛けてください」


 リーヴァスさんはニッコリ笑うと、隣に置いたマジックバックから薄青く光る剣を取りだした。いつかピエロッティの首に突きつけた、あの魔剣だ。


「では、敵の攻撃を合図に、俺とルルは防御、リーヴァスさんは攻撃でお願いします」


 俺はそう言うと、情報収集のために点ちゃんを展開した。


 ◇


 俺は、念話を通し、コルナにも危険を伝えた。


『コルナ、敵が襲ってくる可能性が高い。

 万が一に備えて、モリーネ姫に付いていてくれ』


『分かったわ。

 お兄ちゃんは、どうするの?』


『俺は、情報収集と防御だな。

 今回は、リーヴァスさんだけが外に出る』


『一人だけで大丈夫?』


『まあ、任せてみよう』


『こちらも、任せてもらって大丈夫よ』


『頼むぞ』


『ふふふ、後で「お座り」おねだりしちゃお』


 俺の膝に座ることを、コルナは「お座り」と名づけたらしい。まあ、ここは仕方がないか。

 点ちゃん。周囲の状況はどう?


『(・ω・)ノ まだ、何もいませんよー』


 何か近づいたら教えてね。


『(^▽^)/ はいはーい』


 最近、この点ちゃんの落ちつきというか、緊張感の無さが心地よくなってきたな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る