第3話 神樹の巫女


 エレノアさんは、神樹の巫女について説明を始めた。


「神樹の巫女はね、ある種族で神樹様と会話できる女性が選ばれるの。

 なぜか会話できるのが女性だけなので、『神樹の巫女』と呼ばれるようになったの」


 エレノアさんは、少し離れて話を聞いていたモリーネ姫を手招きした。


「エルフでは、モリーネ姫が選ばれたの。

 まだ小さな頃にね」


「神樹の巫女は、どのくらいの数いるのですか?」


「種族によって違うわ。

 狐人には、巫女の素質を備えた者が比較的多く生まれる。

 人族は、非常に稀ね。

 エルフは、その中間、でも、決して多くはないわ」


 彼女は俺の方を見ると、ゆっくりした口調で言葉を続けた。


「神樹様は巫女を通して、いろいろなことを教えてくれるの。

 天災がいつ、どこで起こるかとか。 

 そういう大きな規模の予知が多いわ」


 エレノア、モリーネ、コルナが視線を交わす。


「でも、ごく稀に個人についても予言することがあるの。

 シロー、あなたが、そのケースよ」


「え!? 

 俺ですか?」


 そういえば、狐人領の神樹様が、俺について含みのあることを言ってたな。


「神樹の巫女である私から生まれたルルが、あなたと近しい関係になったのは偶然ではないかもしれないわね」


 何か大きな力が働いているっていうことか。


「あなたが獣人を救い、学園都市世界を変えた事は、これからのポータルズに大きな波を起こすわ。

 私たちは自分に出来ることで、あなたのお手伝いをするつもりよ」


 コルナもモリーネ姫も、初めて会った時に俺を知っている素振(そぶり)りだった。あれは、そういう事だったのか。


「依頼も受けていますし、まずはモリーネ姫をお城へ連れていくつもりです」


「ああ、意識して行動する必要はないわよ。

 あなたが、したいことをすればいいの」


 エレノアが微笑んだ。ルルが時々する微笑みにそっくりだ。こういうところを見ると、さすが、親子だと思う。


「じゃ、シロー。

 お城までよろしくね」


 モリーネ姫が、俺の腕を取る。


「お兄ちゃんを助けるのは、私だから」


 コルナが、もう一方の腕を取る。


「シロー……」


 お茶のおかわりを持ってきたルルが、固まっている。


「ルル、これは、誤解だから……」


「ふぁふぁふぁー!

 ルル、見よ、この男の姿を。

 さあ、諦めてパパのところに帰ってきなさい」


 気絶から覚めたレガルスさんが、男前らしからぬ変な笑い声を立てる。


「ややこしくなるから、あなたは黙ってて!」


 スパパーン!


 しかし、あのハリセン棒、どっから出してるんだろう。

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