第2話 ギルド本部


 一行を乗せた馬車が三十分ほど走ると、ひらけた土地に出た。


 森に囲まれた小さな村のような集落だが、各家がしっかりした造りになっており、まるで高級住宅地のように見える。その集落の中心にある、大きな三階建て家屋の前で馬車が停まった。


「ようこそ、ギルド本部へ」


 エレノアさんが先に馬車から降り、俺たちをギルドへ招きいれてくれた。

 入ってすぐの部屋は、学校の教室二つ分くらいの広さがあり、丸テーブルが十脚ほど備えつけられている。

 受付カウンターが一つだけあるが、人は並んでいない。他のギルドと異なり、壁には依頼の紙が貼られていない。

 奥の壁には、枠が額縁のように飾られた大きな窓があり、はめ込まれたガラス越しに神聖神樹の姿が見えていた。

 エレノアさんとレガルスさんは、窓の前に二人して並ぶと、手を胸に当て何か祈っているようだ。


 俺たちは窓際まで呼ばれ、窓枠の下にある、大きな白銀色のプレートを見せられた。


『聖樹の元に』


 誰かが手書きした文字を、ったものらしい。俺が、もの問い気な顔をしていると、レガルスさんが説明してくれた。


「これが、ギルドの存在理由だ。

 ギルドは、元々、神聖神樹様、そして神樹様を守るために作られたんだ」


 ◇


 レガルスが、ギルド成立の大まかな歴史を話してくれた。


 時は、約二百年前。

 ポータルズの世界群が、まだ落ちついていなかったときにさかのぼる。


 その頃は、各世界の中で、そして、世界間に争いが絶えない時代だった。それはまた、魔道具の素材として貴重な神樹が、しきりに伐採された時代でもあった。

 各世界の神樹が激減し、中にはほとんど採りつくされた世界もあった。


 しかし、異世界から現れた英雄により、事態は一変する。

 彼は各世界の争いをそれぞれ収めてまわり、それぞれの世界に神樹を保護する機関を設置した。

 これがギルドの始まりだ。

 先ほど見たプレートは、その英雄が書きのこしたものだそうだ。


 俺は、英雄の偉業に心を打たれるとともに、彼がなぜそこまでして神樹を守ろうとしたのか、そこに思いを巡らせた。


 ◇


 ギルドから斡旋された住居は、大木の上にあった。


 周囲が三十メート以上ある大木が、S字を描き上空に伸びている。

 そのS字の空間部分に、部屋がしつらえてあった。

 だから、床と天井、片側の壁は大木そのものだ。

 開口部には、大きな窓があり、それから外へも出られるようになっている。これぞ本物のウッドデッキといえるだろう。


 驚くことに、この住居には二階もあって、ウッドデッキ部分から上に梯子が渡してある。それを登ればS字が形づくる上側の空間へ行けるようになっている。


 ナルとメルは、あっという間に梯子を上がってしまった。コルナが、すぐ後を追う。上の部屋は、やはり大きな窓があり、そこからは神聖神樹様が見える。

 子供たちは、すでに部屋の中を駆けまわってコルナに遊んでもらっている。

 二人は、この家が気に入ったようだ。


 せっかくだから、点魔法で二階と一階とをつなぐエレベーターを作った。 

 名づけて、『点ベーター』

 細長いポールに付いたステップを踏むと、自動的に二階に上がってくれる。

 二階から降りる時も同様だ。

 エレノアさんが、それを見て目を丸くしていた。


「前にも、そういうの作ったことあるの?」


「いえ、初めてです」


 そう答えると、さらに驚いていた。


 一階のリビングのテーブルに、香草茶を出す。

 香草茶セットは、常に複数を点ちゃん収納してある。

 今回は、「旅の疲れをとる」香草茶だ。

 エレノアさんとレガルスさんも、美味しそうに飲んでいる。


 二階から、ナルとメルが降りてくる。

 さっそく、『点ベーター』に二人乗りしたらしい。


「パーパ、おっきな木が見えるよ」

「マンマ、お腹すいた」


 いつもの二人だ。

 しかし、それを聞いたレガルスさんの手がピタッと止まる。手にはお茶のカップを持ったままだ。


「パーパ、マンマ……。

 ど、どういうことだ」


 ルルが説明する。


「この子がナル、この子がメル。

 私とシローさんの子供です」


 「……。。。」


 動かないと思ったら、レガルスさんが白目をむいて気絶していた。

 誰かに似てるよね?

 エレノアさんが、夫の手からカップを取り、自分が飲んでいる。

 なんか、自然だね。


「あなたの活躍は、ギルドを通して、かなり詳しく知っているつもりよ。

 たいしたものね」


「いえ。

 全て友人たちの助けがあってのことです。

 ルルやリーヴァスさんはもちろん、このコルナにも助けてもらいました」


 俺がコルナの方を向く。

 コルナが、珍しく照れて顔を赤くしている。


「コルナちゃん、あなたも神樹の巫女ね?」


 エレノアさんに指摘されたコルナが、びっくりしている。

 神樹の巫女?


「すごいわね。

 神樹の巫女が三人も揃うなんて」


 え? 三人?


「エレノアさん、ルルも神樹の巫女なんですか?」


 思わず俺が尋ねる。


「いいえ。

 ルルも神樹様から加護をもらっているみたいだけど、この子は違うわよ」


 となると……。


「コルナちゃん、モリーネ姫、そして、私ね」


 えっ!? モリーネ姫とエレノアさんが神樹の巫女?

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