第34話 再び獣人世界へ


 加藤、舞子、ミツの三人が、王城にやって来た。


 彼らが女王陛下に謁見している間、俺は、獣人たちと出発の打ちあわせをしていたから、玉座の間でどういう話がなされたのか知らない。

 特に畑山さんとミツさんの間で。

 ただ、その後、加藤が青い顔をしてブルブル震えていたのが印象的だった。


『((・ω・)) ご主人様ー、あれってガクブル?』


 そうだよ、点ちゃん。あれがまさにガクブルだ。

 ミツさんは、俺の前にやってくると、頭を下げた。


「シローさん。

 私のために、二つの世界を渡ってくださり、本当にありがとうございました」


 彼女は、顔を上げると、俺の目を見た。


「私の命を救ってくれたのは、聖女様はもちろん、シローさん、あなたもです」


「ははは。

 加藤があなたを助けようとつっ走ってたから、それにあおられただけですよ。

 それより、西門であなたを炎から助けられなくて本当に申しわけない」


「ふふふ、ユウの言った通りですね。

 シローさんは、そう言うだろうと、彼が教えてくれました」


 まあ、性格を見ぬかれちゃってるからね。


「まだ少し本調子ではないのでしょう? 

 お大事になさって下さい」


「聖女様が、何度か治癒魔術を掛けてくださいましたから、もうすっかり元気です。

 それより、またすぐにポータルを渡られるとのこと、お気をつけて行ってらしてください」


「ありがとうございます」


 俺と舞子は、加藤、ミツを、ウサ子や獣人たちに会わせるため、城内にある森へ入っていった。

 獣人は、ウサ子の周りに集まり、お祈りしたり、エサらしいものを捧げたりしている。

 舞子がウサ子に近づいていくと、ウサ子が頭を低くして甘えた声を出している。

 ポルのお母さんが、俺に尋ねる。


「シローさん、この方は?」


 あー、どうせばれるなら、早い方がいいよね。


「聖女様です」


「えっ!」


 それを聞いた獣人のみんなが、舞子に向かって平伏している。


「皆さん、顔を上げてください。

 私は、獣人世界で、獣人の方々にとてもお世話になったのです。

 グレイルが、私の故郷ふるさとだと思っています。

 これから皆さんは、故郷に帰られますが、私もご一緒します」


 舞子がそう言うと、獣人たちが歓声を上げる。


「聖女様が、ご一緒してくださる!」

「ありがたや~」

「聖女様、聖女様」


 お礼を言ったり、祈ったり、忙しいことになっている。


「舞子、いいのか?」


「うん。

 もう獣人世界に家もあるし、向こうが落ちつくまでは、協力するつもりだよ」


 俺は、背筋せすじを伸ばし、きりっと立つ舞子を見て、本当に嬉しかった。


「じゃ、一緒に行こうか?」


「うん!」


 ふと見ると、哀れにも加藤がウサ子に触ろうとして、サッと逃げられている。だって、最初に会ったとき、彼はウサ子を殴りたおしてたもんね。

 俺は、家族を連れて貴賓室に行き、畑山さんにも挨拶する。


「ボー、獣人たちの力になってあげて」


「ああ、分かってる」


「相変わらず、頼りない返事ねえ。

 ご家族の皆さん、ボーをよろしくお願いします」


「はっ」


 リーヴァスさんが頭を下げたのを見て、娘たちも頭を下げている。

 畑山さんは、ナルとメルの頭を撫でる。

 二人は、初めて見た女王様に、眩しそうな眼を向けている。


「お父さんが嫌なことしたら、お姉さんに言いなさい。

 叱ってあげるから」


 いや、畑山さんには、いつも怒られているから、これ以上叱られるのは、もう勘弁してほしい。

 モリーネは、女王陛下に伝えることがあるらしく、部屋の隅で二人ヒソヒソと話していた。話が終わると、モリーネがこちらにやってくる。


「では、参りましょうか」


 ◇


 女王陛下、勇者、聖女が姿を現したので、城前広場しろまえひろばは黒山の人だかりだ。


 その後を獣人たちが行進すると、民衆が大きくどよめく。

 女王陛下が演台に上がる。


「皆さん、この度、アリスト王国は、獣人の方々とよしみを結ぶことができました。

 私は、獣人の国と友好条約を結ぶつもりです」


 一瞬、場が静かになる。

 勇者加藤が、拍手をする。

 民衆は、一気に歓声を上げ、拍手を始めた。


「今から、友好使節として、聖女をかの国に送ります。

 皆さん、この国にとっての歴史的瞬間を、共に祝おうではありませんか」


 前もって用意されていた紙吹雪が舞う。

 魔術による花火も上がった。

 俺は、畑山さんの許可を取り、城前広場に、点ちゃん2号を出した。

 観衆がさらに盛りあがる。


 獣人たちが乗りこみ、次に俺の家族とモリーネ、ミミ、ポル、そして、最後に舞子が乗る。舞子が、2号のステップで手を振ると、町の人たちは大きな歓声を上げた。


「では、皆さん、またお目にかかりましょう。

 行ってきます」


 点ちゃん2号のドアが閉まり、ゆっくり動きだす。

 温かい声援が、いつまでも俺たちの後ろを追ってきた。


 ◇


 俺は、鉱山都市のギルド前で、点ちゃん2号を消した。


 ギルドから、化粧っ気が無い中年女性が出てくる。

 彼女が、ここのギルマスだ。

 俺たちの中に聖女の姿を見つけ、駆けよる。


「聖女様! 

 いつぞやは、甥を治していただき、ありがとうございました。

 ケン、出ておいで。

 聖女様だよ」


 ギルドの中から、いつか俺と舞子を案内してくれた男の子が出てきた。


「せ・せいじょさ・ま。

 あ・りがとう!」


「まあ! 

 練習したのね! 

 偉いわ」


 舞子が彼の頭を撫でると、まっ赤になりながらも、少年はとてもいい笑顔を見せた。いつか、聖女に褒められたくて、頑張ったにちがいない。

 俺は、胸が熱くなった。


 彼の案内で、ポータルへと階段を上っていく。

 ポルは、お母さんを背負って登っている。

 お年寄りや足が悪い人は、重力付与で浮かせ、点で引っぱりあげる。

 元気な人が、うらやましそうにそれを見ていた。

 やっぱり、自分の足で登れるなら、登らなくちゃね。


 男の子に許可証をチェックしてもらい、いよいよポータルを潜る。

 俺とルルは、片手をつなぎ、空いた方の手で、それぞれナルとメルの手を握る。


「パーパ、怖くない?」


 ナルは、少し不安そうだ。


「怖くないよ。

 だって、パーパ、マンマと一緒だろ」


 ナルとつないだ手を、ブンブン振ると、やっと笑ってくれた。


 俺は、家族と一緒に獣人世界へ向けポータルを渡った。

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