第33話 姫君からの指名依頼 -- 点ちゃんボード登場 --
次の日、俺は家族を連れ、河原に遊びに来ていた。
コルナとモリーネも一緒だ。
俺は、ナルとメルに、とっておきのお土産を渡した。それは、幅四十センチ、長さ八十センチくらいの、長方形の板だった。もちろん、点ちゃんと作ったものだ。
厚さが三センチ程のこの板は、点魔法「付与 重力」を使い、その下にあるものから十センチくらいのところに浮くよう設定してある。
バランスを取り、上に乗る。板を、ほんの少しだけ行きたい方へ傾けると、そちらに進むようになっている。
地面からの距離や、傾け具合とスピードに工夫し、散々苦労して作りあげた力作だ。
さすがに、これはリーヴァスさんに任せるわけにいかず、俺が教えることにした。
最初、何の変哲もないお土産にガッカリしたナルとメルだが、俺が板の上に乗って、サーフィンのように水面をスーッと滑って見せると、すぐに夢中になった。
深いところで練習しないように注意したが、二人はすぐに乗り方をマスターしてしまった。
わずか三十分後には、俺よりうまく滑れるようになった。
コルナが興味を示したので、同じものを出してやる。点魔法で作ったものは、一つ出来さえすれば、後は一瞬でコピーできる。
コルナは、獣人の能力を発揮し、あっという間に乗れるようになった。
三人が並んで水面を「ボード」で滑る
誰のものか分かるように、色違いにしてある。
少し練習すると、全員が乗れるようになった。作った方からすると嬉しいのだが、乗るのが一番下手なのが自分だということに気づいた。
『ワクワク(*ω*) ご主人様ー、やってもいい?』
お、点ちゃん、そう来ますか。皆が、乗ってるのを見て、やりたくなったんだね。
よし、点ちゃん、任せた。
俺は、体の力を抜き、点ちゃんに操作を任せた。
その瞬間、俺の身体が、一気に前方へ動きだす。
点ちゃん、ちょっと怖いよ。
『(*'▽')/ ヒャッホーッ』
点ちゃんは、ノリノリだ。
ボードは、川の下流へ向け、どんどんスピードを上げる。
て、点ちゃん、スピードがちょっと……。
『(≧▽≦) ヒャッハー!』
俺を乗せたボードは、水しぶきを上げ、物凄いスピードで水面を突きすすむ。
俺は恐怖のあまり、点ちゃんに「停めてくれ」と言うこともできない。ボードは、いくつかの橋の下をくぐると、一気に湖の上に出た。
こうなると、点ちゃんが、停まるわけがない。縦横無尽に、湖面を走り、俺がへとへとになって板の上にうずくまると、やっと遊ぶのをやめてくれた。
『(^▽^)/ ご主人様ー、これ、今までで一番楽しい!』
ま、点ちゃんが喜んでくれたなら、それでいいけどね。
かなりの距離を下って来たから、重力を付与した点ちゃん1号を水面に浮かせ、それに乗りこんだ。
元の河原に戻ると、皆がちょうど心配しはじめたところだった。
「パーパ、これ、すごく楽しいね!」
「私、これ好き!」
ナルとメルは、お土産が気に入ったようだ。
俺は娘たちに、道では乗らないこと、スピードを出しすぎないことを約束させた。
◇
家に帰ると、ナルとメルはすぐに寝てしまった。
例のごとく、子供部屋のマットで、コルナと川の字だ。
リーヴァスさんとマックは、モリーネを連れ、ギルドへ行った。
俺は、やっとルルと二人きりになれた。
リビングのソファに、並んで座る。
「ルル、君のおかげで、ミツを助けることができたよ」
この世界を出発する前に、ルルには旅の目的を話しておいた。
「きっと、そうなると信じていました」
ルルは、俺の顔を見上げ、微笑んでいる。
「獣人世界、学園都市世界と、長いこと留守にしたけど、これからは、この家にいたい」
ルルが俺の胸に顔を埋める。俺は、ルルの背中をそっと撫で、本当に家に帰って来たことを実感していた。
しかし、俺の望みは敵わなかった。
◇
ギルドから、リーヴァスさんとモリーネが帰ってきた。
マックは、やることがあるとかで、そのままギルドに残ったらしい。
「シロー、ちょっと、よろしいですかな」
リーヴァスさんと向い合うかたちで、ソファーに座った。
「実は、モリーネ姫が、ギルドを通して指名依頼を出しました」
俺は、嫌な予感がした。
「依頼は、パーティー・ポンポコリン宛てです。
内容は、姫をエルファリア王城まで護衛するというものです」
俺は、なんとか抵抗しようとした。
「しかし、俺はすでに、獣人を彼らの世界に連れていくという依頼を受けていますし……」
「ああ、それは、姫も了解しております。
エルファリアへのポータルは、獣人世界にあります。
獣人をグレイル世界に帰してから、依頼を受けることになります」
「しかし、俺も、家を長いこと留守にしてきたので……」
俺は、なおも食いさがろうとする。
「この依頼は、私からも、お願いいたします」
あちゃー、リーヴァスさんに、頼まれちゃったよ。
これは、もう観念するしかないか。
「実は、今回の依頼には、ナルとメルも同行させたいのです」
これには、俺が驚いた。
リーヴァスさんは、
「もちろん、私とルルも、ご一緒します。
いかがかな」
ああ、これは、もうしょうがないな。
「分かりました。
お引きうけします」
リーヴァスさんは、ニコリと笑うと、さらに驚くことを言ってきた。
「任務中、私とルルも、あなたのパーティに入りたいのですが、できますかな?」
うはーっ! 雷神リーバス in ポンポコリンって、なんか凄くない?
「もちろんですが、新米二人の世話をすることになりますよ」
まあ、ミミとポルも、かなり経験を積んできたから、もう新米とは呼べないかもしれないけどね。
「教育係は慣れております。
よろしく、お願いします」
リーヴァスさんが、俺に頭を下げる。
はい、もうこうなったら、参ったするしかない。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺も、頭を下げた。
こうして、俺は、家族と一緒にモリーネ姫の指名依頼を受けることになった。
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