第8部 エルフからの依頼

第32話  エルフ少女の秘密 


 俺は、加藤と舞子をマスケドニアに残し、アリストへ向かった。


 蘇生してすぐは、体が動かしにくく、言葉もしゃべれなかったミツの様子をみるため、舞子も、マスケドニア王宮にしばらく滞在することになった。


 獣人の護送があるので、俺は獣人世界グレイルに向かわなければならない。

 陛下の許可をもらい、点ちゃん2号を使うことにした。アリストへの幹線道路まで、馬車で送ってもらった後、俺たちと獣人は、再び点ちゃん2号へと乗りこむ。

 今日は、一旦、アリストの王城へ行く。


 故郷の世界がだんだん近づいて来ていると分かっているから、道中、獣人は、みんなニコニコしていた。

 若い獣人は、すでに物見遊山モードに入りつつある。窓から見えるアリストの風景に、興味深そうに目をやっている。

 巨大なアリスト城の城門を潜るときには、皆がポカーンとしていた。そういえば、獣人国には、巨大な建造物が少なかったからね。


 女王陛下への謁見では、みんな緊張していたけれど、何とか粗相をせずに済ませることができた。

 女王との謁見後、獣人たちを連れ、城内にある森へ行く。

 やはり、ここは、神獣様に会わせておきたいじゃない?


 巨大な白いウサギを目にした獣人たちは驚き、次にそれが神獣様と分かって、もっと驚いていた。全員が平伏したのは、言うまでもない。

 立ちあがってくれそうにない獣人たちの横で、俺は女王陛下と向きあっていた。


「ボー、おかえり!」


 やっと、友達の顔になった畑山さんが、俺の手を握ってくる。


「よくやったわね!」


 大まかなことは、マスケドニアから念話で告げておいた。


「ああ、何とかなったよ。

 加藤と舞子は、ミツさんが動けるようになったら、三人でここに来るってよ」


 俺の手を強く握る彼女の目には、涙があった。


「大変だったでしょ」


「まあ、いろいろあったが、点ちゃんもいるし、今回は加藤もいたからね」


「獣人のみなさんは、出発までお城に泊まってもらうといいよ。

 あんたは、ルルさんのところへお帰り」


「ああ、お言葉に甘えさせてもらうよ」


「あの、のほほんとしたボーがね。

 よく、これだけ変われるわね」


「いや、変わってないつもりなんだけどね」


「まあ、いいわ。

 とにかく、加藤を連れかえってくれてありがとう」


 俺は積もる話もあったが、獣人を女王陛下に任せて家へ急いだ。もちろん、点ちゃん1号で、ひとっ飛びだ。

 ミミとポルは、獣人の世話に残してきたので、俺とコルナ、モリーネの三人だけが乗っている。


 念話でルルに伝えておいたから、家の庭には家族の姿があった。着陸した点ちゃん1号を消すと、さっそくナルとメルが、俺に飛びついて来た。


 「パーパ、おかえりー!」

 「パーパ!」


 二人が俺から離れないので、コルナがモリーネを三人のところへ連れていく。

 三人というのは、リーヴァスさん、マック、ルルだ。


 驚いたことに、モリーネが近づくと、リーヴァスさんとマックが片膝をついた。


「リーヴァス、久しぶりですね。

 マックも変わりませんね」


 モリーナが、声を掛ける。


 え? 三人は、知り合い?

 しかし、リーヴァスさんが口にした言葉で、俺はもっと驚くことになる。


「姫様、お久しぶりです」


 姫様!? 


 点ちゃんの、『な、なんじゃこりゃー!』が聞こえてきたのは、言うまでもない。


 ◇

 

 マックは、俺が用意していた報告書を持ち、ギルドへ行った。


 ナルとメルは、やっと俺から離れ、今は興味深そうにモリーネを見ている。

 なぜか、少し離れた椅子の陰から見ているのが面白い。娘たちも、モリーネの美しさには、何か感じたようだ。


 俺とルル、モリーネとリーヴァスさんが、それぞれ二人掛けのソファーに並んで座った。

 コルナは、ナルとメルを連れ、二階へ上がっている。

 テーブルの上には、俺が入れた香草茶が出してある。


「姫様、なぜこのような所へ?」


 リーヴァスが、尋ねる。


「……それは、シローに聞いてください」


 俺は、学園都市で起こったことのあらましと、最後に秘密施設で彼女を見つけたことを話した。


「リーヴァスさん。

 なぜ、モリーネさんのことを、ご存じなんですか?」


「そうですね。

 もう、十年になりますか……」


 ギルドの指名依頼でエルファリアに行くことがあり、その依頼主がエルフ国王だった。

 そのため、城にも招かれ歓待を受けたが、その時、モリーネにも会った。

 彼女は、エルフ国の第三王女で、まだ幼かった彼女が、子供あしらいのうまいリーヴァスに付いてまわったそうだ。


「しかし、モリーネは、どうしてあんな所にいたの?」


 学園都市世界で彼女が答えなかった質問を、もう一度してみた。


「エルフの王族について知っているリーヴァスがいるのなら、話してもよいでしょう」


 モリーネは、そう言うと、彼女の事情を話してくれた。



 エルフの王、つまり、モリーネの父が病にかかり、床に伏せた。

 王には、五人の王女がいた。

 その後、彼女たちの周りで、不審なことが起こるようになった。高いところから物が落ちてきたり、馬車の車輪が緩んだり、最初は小さなことだったらしい。

 ところが、第二王女が原因不明の病で寝込むようになると、事件が次第にエスカレートしていった。


 第四王女の乗った馬車が崖から落ち、彼女は九死に一生を得た。

 第五王女が、物陰から狙撃された。命は助かったが、左手に障害が残った。

 第三王女のモリーネも、離宮へ行く旅の途中、馬車が襲撃を受けた。顔に布を当てられ、薬を嗅がされた後は、覚えていないそうだ。

 次に目が覚めたのは、学園都市上空だったということだ。

 エルフの国は、かなりきな臭いことになっているようだ。


 俺は、目の前の美しい少女の境遇をうれうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る