第35話 歓迎
俺たち家族は、獣人を連れ、ポータルから獣人世界へ降りたった。
「おかえりー!」
「「おかえりなさい」」
ポータルを出ると、何人かの獣人が出迎えてくれた。
先頭にいるのは、コルナの妹、狐人コルネだ。彼女はまだ若いけれど、この大陸の最高行政機関、獣人会議の議長をやっている。
その後ろには、犬人族族長およびケーナイのギルドマスターをやっている、アンデの姿もある。
コルネとコルナは、久々の再開ということもあって抱きあっている。
俺は、アンデと握手した。
「「「ようこそ、グレイルへ」」」
ナルとメルは、さっきまでと違う風景に戸惑っているようだ。
俺の家族は、見覚えあるギルドメンバーに案内され、地下から地上へと向かった。ここのポータルは、地下にあるのだ。
地上に出ると、ケーナイの町は、もっとすごいことになっていた。
『(@ω@) な、なんじゃこりゃー!』
点ちゃんの決まり文句が出るのも当然だね。
地上に出た所は、町がすっかり様変わりしていた。
広い範囲にわたり、
「すごいだろ。
聖女様をお迎えするために、ここを広場にしたんだぜ」
アンデが説明してくれる。この世界にとって、「神様」のような存在、聖女が帰って来たのだから、まあ納得できないこともない。
ポータルの出口は、「聖女広場」と名づけられ、円形状にひらけていた。
そこが、獣人で埋まっている。
「「「聖女様ー!」」」
皆が口々に聖女の名を叫んでいる。
舞子が、演台に上がった。
「皆さん、ただいま戻りました」
群衆が、一斉に声を上げる。
「「「お帰りなさい!」」」
「約束通りこの地に帰ってこれたことを、心から嬉しく思います」
群衆から、嵐のような拍手が起こる。
「この度は、ある世界で捕われていた、皆さんのご家族を連れてくることができました」
聖女が手招くと、演台の上に小さな犬人の少女が上がった。
聖女が少女を自分の横に立たせる。
「ただいま、テル」
テルというのは、少女の友達だろう。
群衆が静まる。
「今回は二十名ですが、これからたくさんの方々が帰ってきます。
みなさん、彼らを温かく迎えてあげてください」
聖女の声で、人々が割れんばかりの拍手をする。
「では、みなさん、よろしくお願いします」
聖女がペコリと頭を下げると、地鳴りなような拍手とともに、魔術花火が撃ちあがる。
そして、『聖女様、おかえりなさい』と書かれた、大きな横断幕が上がる。『がんばったぞ、ポンポコリン』の小さな垂れ幕も見える。
聖女舞子と俺の家族は、二台の馬車に乗りこみ、ケーナイ郊外にある舞子の家に向かった。
沿道は全て、獣人で埋めつくされていた。
舞子が客車の窓から手を振りながら、町を通りぬけた。
町の人々で話しあって決めてあるのだろう。
舞子の屋敷周辺は、誰も人が居なかった。
御者役のアンデが、皆を屋敷内に案内する。
ドアを開けたところには、数名の犬人メイドと、執事姿のピエロッティが並んでいる。
「お帰りなさいませ」
ピエロッティの声で、メイドたちがテキパキと上着や手荷物を部屋に運んでいく。
俺たちは、食事用の大部屋に案内された。
部屋には、ミミママとミミパパが、食事処ワンニャン亭の仕事着で立っていた。
「ママ!」
ミミが母親に抱きつく。
「みんな、元気そうだな」
ミミパパが、笑っている。
「今日は、腕によりをかけたぞ」
聖女、俺の家族、コルナとコルネ姉妹、モリーネ、ミミ、ポル、ポルのお母さんが大テーブルに着く。
メイドが、料理を載せたワゴンを押して入ってくる。
「あ、この料理は!」
俺は、その料理に見覚えがあった。
「これのために、ギルドからわざわざ討伐隊が出たんだぜ」
ミミパパが説明してくれる。
皆の前には、食前酒とマティーニグラスに入った前菜が置かれた。
「では、いただきましょう」
舞子の言葉で食事が始まる。
食いしん坊のメルが驚いている。
「パーパ、これ美味しいっ!」
「ははは、美味しいだろう。
でも、この後もどんどん美味しいのが出てくるよ」
「わーい!」
子供たちも、ゴールデン・スライムの美味しさに驚いたようだ。
俺たちは、コース料理をゆっくり楽しんだ。
皆、美味しさに言葉を失い、黙々と食べている。
ナルとメルは、デザートのプルプルゼリーを何杯もおかわりしていた。
食後、子供たちはすぐに寝てしまった。まあ、慣れない旅で疲れていた上に、お腹いっぱい食べちゃったからね。
ルルは、様子を見に娘たちの部屋に行っている。
俺たちはソファーがある部屋に移り、お茶を飲みながら話をした。
コルネに獣人解放までの経緯を説明する。今まで大まかな事しか話していなかったので、リーヴァスさんも興味深くその話を聞いていた。
コルナとモリーネ姫は、相変わらず何か話している。知りあってそんなに経たないのに、この二人はなぜか仲がいいんだよね。
旅行中なので、この日は遅くならないうちに寝た。
◇
次の日、俺の家族は狐人領へ向かうことになった。
エルフが住む世界、エルファリアへのポータルは、狐人領にあるのだ。
家族とコルナ、コルネ姉妹、モリーネ姫と共に、点ちゃん1号に乗りこむ。
ミミとポルは獣人世界にしばらく留まり、後からエルファリアに向かうことになっている。
舞子、ピエロッティ、ミミ、ポルの四人に見送られ、点ちゃん1号は空に舞いあがった。
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