第20話 調査隊出発
学園都市中央ギルドから獣人世界へ、調査隊が出発する日が来た。
普段、閑散としているギルドは、人と物資であふれかえっていた。
調査隊二十名の内、十六名がポータル前に集合する。今回は、慣れない人員も多く、その多くが緊張した顔をしている。
調査隊隊長カービンが手にするシートが、ブザー音を立てる。
「では、調査に出発する。
パンゲア世界のマスケドニア国を経由して、アリスト国へ。
アリスト国のポータルから、獣人世界へ向かう。
各自、学園都市からの許可証と、ギルド章を確認せよ」
部屋の中に、カチャカチャという音が満ちる。
「調査隊、出発!」
カービンの声で、ギルドメンバーが、次々とポータルを潜る。最後の一人、カービンがポータルを潜るちょうどそのタイミングで、四つの人影が部屋に入ってくる。
先頭は、史郎だ。他の三人は、フード付きローブを羽織っている。
彼は、ポータルの横に立っていたマウシーに向かって頷く。史郎以外の獣人が、次々に黒い渦に入っていく。
最後に、史郎の姿がポータルに消えた。
マウシーは、自分の責任がある仕事が終わってほっとした。
(ああ、そういえば、シローたちの許可証は調べなかったな。
今日は、早く家に帰って寝よう。
もちろん、寝る前にヒゲの手入れをして)
マウシーはそんなことを考えながら、足早にポータル部屋から出ていった。
◇
調査隊は、無事に獣人世界に着いた。
シローと三人の仲間は、ケーナイの町で調査隊と別れ、一路、南西へと向かった。
二頭立ての馬車を借りたため、三日後には目的の村に着いた。
村の名前は、『ホリートリィ』
神樹に因んで、付けられた名だ。
史郎は馬車から降りると、三人を引きつれ、ある場所へ向かった。
それは、比較的大きな木造の平屋で、広場に面して建っていた。
三人の獣人が、ローブを脱ぐ。
一人がミミなのはいいとして、もう一人は、テコだった。
そして、最後の一人は、なんと獣人ではなく、人族の女性ソネルだった。
「やっと、着いたわね」
ミミが、ほっとした顔をしている。
この四人の中で、実質的なリーダーは彼女だった。
任務が果たせ、ほっとするのは当然だ。
こちらに面した建物の引き戸が開き、一人の獣人女性が出てきた。
驚いたことに、その女性は猿人だった。
史郎が前に出ると、女性が話しかけてきた。
「ええっと、確か、シローさんでしたか?」
「ははは、ジーナ先生。
ボクですよ、ボク」
史郎が、くるりと身をひるがえす。
ポンッ!
小さな音がすると、史郎の姿が消え、後には獣人の少年がいた。
「ポ、ポルナレフ様っ!?」
猿人の女性が、目を大きく見開いている。
それはそうだろう。
人が、一瞬で狸人になってしまったのだから。声色から身長まで変わってしまうのだから、その能力の高さがうかがえる。
「これは、ボクの一族が持つ、秘密の力なんです」
そう。これこそが、狸人たちが隠してきた秘密であり、それを知った人族に狙われた理由でもある。
ミミとテコは、すでにポルの変身を目にしたことがあるのだろう。特に、驚くこともなかった。
一方、人族の女性ソネルは、ジーナ以上に驚いていた。
「シローさんじゃなかったんですね……」
「ええ、
シローさんからの指示だったんです」
ソネルは、狸人の変身能力については知っていたが、変身を目の前で見るのは初めてだった。
「狸人の変身能力は、それほどのものだったんですね」
「まあ、今回の計画が終われば秘密ではなくなるので、それまでは誰かにしゃべらないよう、お願いします」
「それは分かりましたが、この場所は?」
ポルは、ジーナの方を向いた。
「ジーナ先生、ここがどんなところで、今、あなたが何をしているか。
それを、この方に教えてもらえませんか」
「ええ、分かりました。
ここは、かつて狸人族の集落があったところです」
ジーナは、ちょっと俯いて言葉を続けた。
「その住民を、猿人族が襲いました。
捕まった住民は、全員、学園都市世界へ送られてしまいました。
その結果、誰もいない廃村になっていたのです」
ソネルは、当然、彼女が何を言っているか気づいた。なぜなら、彼女自身が猿人を使い、獣人をさらわせていたからだ。
「今、ここには、少ないながら、狸人も戻ってきました。
狸人と猿人が共存する村づくりが、ここで始まっているのです」
ジーナはそう言うと、広場、つまり、運動場に面した教室の引き戸を開けに行った。
歓声を上げ、子供たちが出てくる。
彼らは、ジーナの周りに、それから、四人のお客さんをとり囲んだ。
年齢も種族も異なる獣人の子供が、二十人ほどいた。
「この子は、テコ。
今日から、しばらく皆の仲間になります」
ポルが言うと、辺りに歓声が満ちた。
「テコです。
みなさん、よろしく」
「わーい!
何して、遊ぶ?」
「どっから、来たの?」
「名前は?」
「名前は、もう言ってたよ」
テコは、子供たちに、もみくちゃにされる。
腕白な猿人の子供が、ミミの尻尾に触ろうとして、追いかけっこになっている。
ジーナは、両手両足に子供が、ぶら下がっている。
それは、心温まる光景だった。
しかし、その光景を、全く違う視点から見ている者もいた。
ソネルだ。
子供たちとジーナの姿は、まさに自分が理想としていた教師と生徒のものだった。
「!」
そう。彼女は、気づいてしまったのだ。今まで、獣人に己が行ってきたことを。全身を震わせていた彼女は、地面にうずくまり、やがて号泣しはじめた。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさいーっ!」
突然の彼女の行動に、遊びをやめた子供たちが、集まってくる。
「どうしたの?」
「大丈夫?」
「聖女様は、こうやって治してくれるんだよ」
狸人の少女が、ソネルの背中に小さな手を当てる。
その手は、彼女にとり、断罪の焼き
「ああーっ!!」
さらに声を上げ、泣きだした彼女を、子供たちがてんでに撫ではじめた。
ソネルの泣き声は、運動場を越え、村へと広がっていった。
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