第19話 それぞれの事情


「ケーシー、助手の行方は、まだ分からんのか?」


 賢人会議長ブラムは、苛立っていた。


「は、まだです」


「範囲が限られておるのに、なぜ見つからん?」


「あの区域は、極秘研究が行われる関係上、監視カメラ等を設置しておりませんでした。」


 まあ、それは当然だろう。

 情報漏洩の恐れがあるものは、全て排除せねば。


「それから、学園からの報告があります」


 学園からの報告など、重要度は低い。

 ブラムは、一瞬、ケーシーの能力を疑った。


「黒髪の勇者が、現れたということです」


「なにっ!?

 ダンと言ったか。

 ヤツではないのか?」


「全くの別人で、少年のようです」


「そうか。

 政府は、どうしている?」


「すでに、中央区への招待を決めております」


「ふむ、何かに利用できるかもしれんな。

 調査隊の方は、どうなっておる?」


「すでに、ギルドが調査隊を編成し終わっております。

 三日後には、獣人世界へ向け、出発の予定です」


 さすがに議長から目を掛けられるだけはある。ケーシーの答えには、淀みがない。


「引きつづき、助手の捜索を怠るな」


「はい」


 ブラムは椅子を回し、窓から外を見た。クリスタルガラスごしに見える都市は、陽光をあび、キラキラ輝くクリスタルの様だった。手塩にかけて育ててきたこの都市を、何としても守らねばならん。

 ブラムは、賢人会議長としての決意を新たにするのだった。


 ◇


 普段、本格的な依頼が来ない学園都市中央ギルドは、突然の調査依頼に混乱した。

 しかも、研究機関からの依頼だ。ギルドマスターのマウシーは、ストレスで髪の毛が薄くなったほどだ。

 しかし、シローが加わってからは、あっという間に調査隊が編成された。獣人世界に必要な物資も、シローが選別した。


 マウシーは、初め『黒鉄くろがねの冒険者』の能力を疑っていた。しかし、調査隊編成の手際を見てからは、考えを改めていた。「黒鉄」の名は、伊達ではない。


「シロー様、人員は二十名ということですが、名簿には十六名しか名前がありません」


 だから、このように質問したのも、あくまで形式的なものだった。


「ああ、俺と仲間も参加するから」


 そういえば、彼は他の三人の獣人と一緒に、この世界に来たのだったな。


「おお! 

 助かります。

 シロー様が、ご一緒してくださるなら安心です」


「隊長は、カービンに任せてあるから、俺は手伝い程度だよ」


「それでも、安心感が違います。

 本格的な任務は、今回が初めてという者が多いので、心配していたのです」


「まあ、カービンなら、うまくやるだろう」


 カービンというのは、俺がこの世界に来た当初に出会った、義手のギルドメンバーだ。ちなみに、俺のパーティ四人が別行動してもよいと、すでに彼から了承を取ってある。


「三日後には、出発するから。

 ああ、それと、当日俺はぎりぎりの到着になるから、すぐにポータルが利用できるようにしておいてくれ」


「はい、分かりました」


 そうそう、マウシーの口ひげは、また元に戻っていた。

 きっと、つけひげを探してきたのだろう。


『(・ωシ)』


 お、点ちゃん、カッコいいね。お髭が、ピンと立ってる。


『(*'▽') エへへへ』


 そろそろ、忙しくなるから、また助けてね。


『(^▽^)/ わーい、また遊べるー』


 点ちゃんは、相変わらずだな

 自分の事は棚に上げて、そんなことを思ってしまった。


 ◇


 パルチザンのダンも、多忙を極めていた。


 今まで、首輪の故障によって記憶を取りもどした獣人たちをかくまってきたが、今回は彼らにも働いてもらうことになる。

 シローの言葉を疑うわけではないが、ダンは、必ず何らかの危険はあると思っていた。

 彼らの安全確保のため、いろろな装備や通信機器を揃える必要がある。

 ダンはパルチザンの資金を、ここで全て使いきってもいいと考えていた。

 もし、今回の作戦が成功したら、パルチザンの存在理由は無くなる。


 ただ、人手不足だけは、どうしようもない。

 彼は、眠たいのを我慢し、壊れた通信機器の修理をおこなっていた。

 ドーラが、食事や身の回りのことをやってくれるから、仕事に打ちこめる。

 彼女のためにも、何としてでも作戦を成功させねば。


 ダンは、愛するドーラを故郷に帰すためなら、自分の命がどうなってもいいと考えていた。

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