ポータルズ ～ 最弱魔法を育てよう ～

第３話 学園地区

　俺たちは、四人で学園都市ギルドに来ていた。

　コルナ、ミミ、ポルの首には、点魔法で作ったニセモノの首輪がつけてある。

　ギルドの建物は大きいのに、受付の窓口は一つしかない。壁の依頼を見ると、ペット探し、引越しの手伝いなどで、採集依頼も討伐依頼も無い。変わったところでは、家庭教師の依頼がある。

　どうやら、この町のギルドは、便利屋のようなことだけしているらしい。

　俺は、ベテランっぽく見えるギルドメンバーに話しかけてみた。

「こんにちは」

「おう、新人か？」

「いえ、別の世界から来たばかりで」

「ああ、なら調子狂っただろう。

　他の世界とはちょっと違うからな、ここのギルドは」

「ええ、依頼を見て、ちょっと驚いたところです。

　ところで、俺は黒髪の少年を探す依頼を受けて、この世界に来たのですが、何か心当たりはないですか」

「黒髪？　

　このギルドにゃいねえな。

　そいつの年は？」

「十七です」

「なら、『学園』にいるんじゃねえか？」

「『学園』ですか？」

「まあ、『学園』って言っても、数限りなくあるから、そのどこにいるかは分からねえけどな」

「いえ。

　それでも助かりました。

　ありがとうございました」

「この世界じゃ、『学園』に属してない若者は、人と見なされねえからな」

「そうなんですか？」

「ああ、そりゃもう、獣人扱いだぜ」

　そこで彼は、俺の後ろに立つ三人を見た。

「おっと、こりゃ、余計なこと言っちまったな。　

　じゃ、人探し、うまくいくといいな」

　彼が席を立つとき、その左手が義手であると気づいた。

「ありがとうございました」

　俺は、そう言って頭を下げた。

　◇

　他の三人が依頼の紙をチェックしている間に、受付の女性から情報を引きだすことにした。

　まず、カウンターにギルド章を出す。受付の若い女性は、黒鉄のギルド章に驚いたようだが、すぐに平常心を取りもどした。

「いらっしゃいませ。

　ご用件は、何でしょうか？」

「人を探してるんですが」

「何か、その方の特徴はありますか」

「十七才、人族の少年で、黒髪です」

「十七才なら『学園』にいるはずです。

　黒髪なら、すぐに見つかると思いますよ」

「しかし、『学園』は無数にあると聞きましたが」

「魔道具、錬金術、魔術など、地区によって大きく分かれていますから、分野が分かれば、探すのは可能だと思います」

「そうですね……魔術の学区は、どこになります？」

「魔術だと、Ａ地区ですね」

「地図は、ありますか？」

「はい、ございます」

　地図は、精緻に書かれたものだった。場所をタップすると、その付近が拡大される。

　目的のものを手に入れたので、俺はＡ地区へ向かうことにした。

「俺は、これから友人を探しに他の地区へ行くけど、みんなはどうする？」

「私は、ちょっと町をぶらついてみる」

　コルナがそう言うと、ミミとポルがコルナの手を取る。二人とも、コルナと一緒に行きたいらしい。

「分かった。

　じゃ、何かあったら、念話で連絡してくれ。

　気をつけてな」

「お兄ちゃんも、気をつけてね」

　借りている家の鍵でもある指輪を一つ、コルナに手渡しておく。

　ギルドを出ると、地図を片手に、目標のＡ地区に向かって歩きはじめた。ギルドがある地区は南にあるＤ地区で、中央の行政区をはさんで、北側にあるのがＡ地区の学園区だ。

　しかし、いくら歩いても、行政区にすらたどり着かない。のっぺりした白いビルが並ぶ、同じような風景が続くだけだ。

　よく地図を見ると、縮尺の倍率がものすごく小さい。なんと、百万分の一の地図だった。計算してみると、中央区まで、まだ二百キロ以上ある。

　俺は、空から探すことにした。

　人気がないビルとビルの隙間で、点ちゃん１号を出す。乗りこむと、一気に上昇させる。高層ビルの林をあっという間に抜け、空へ上がる。

　さらに上昇させ、大陸全部が見えるところまで来た。

　大陸は、ナスビのような形をしており、大きな山脈で東西に断ちきられていた。

　ナスビの右半分にあたる東側は都市群で、西側は緑に覆われている。東側全部が学園都市とすると、信じられないほどの規模だ。

　高度を下げ、Ａ地区を視認すると、そこへ向けて降りる。

　高いビルの屋上へ、静かに着陸した。屋上には柵らしいものもなく、人は誰もいない。

　俺は階下へ降りるハッチ型のドアを見つけると、点魔法でロックを解除し、中に入った。

　エレベーターらしきものを見つける。円筒形のチューブで、扉に大きく番号が書いてある。現地の文字で「１５７」とあるので、ここはは百五十七階なのだろう。

　扉に触れると、数字の色が変わった。

　少し待つと、音もなくドアが消えたので中に入る。

　上方を見ると、暗くなっており何も見えない。床だけがある構造のようだ。

　下に降りる感覚が終わると、扉が開く。一階に着いたようだ。外を走っている卵型の乗り物が見える。

　俺はビルから外へ出ると、道沿いに『学園』らしいものを探して歩いた。

　それほど歩かずに、同じ服装を着た子供たちが出入りしている建物を見つけた。

　恐らく、ここが『学園』だろう。

　一人の少年を呼びとめ、尋ねてみる。

「君、済まないが、Ａ地区で一番大きな『学園』はどこだい？」

「ああ、それでしたら、この道を少し行ったところですよ」

「ありがとう」

　少年が俺の頭に巻いた布に興味を持ちはじめたので、足早に立ちさる。

　目的地は、すぐに見つかった。

　他のビルは道に沿って立っているのに、その部分だけは五十メートルほど奥に入ったところに建っている。道に面したスペースは、噴水付きの花壇となっていた。

　五階建ての建物は、ものすごい規模を誇っていた。向こう端が見えないほど建物が続いている。

　俺は、やっと建物の入り口に着くと、受付のような所へ向かった。

　窓口は五つもあり、多くの人が並んでいる。中には、首輪が着いた獣人を後ろに立たせている者もいる。

　俺は、列の後ろに並んだ。

　三十分ほどで、順番が来る。

　ポータルを出てすぐ会った男たちと同じような、無機質な表情の若い女性が受付をしていた。

「次の方」

「こんにちは。

　俺は冒険者でシローといいます。

　この学園に友人がいるはずなんですが、探してもらえますか」

「申し訳ありません。

　学生の情報は、一切、外部に漏らせない決まりになっています」

　まるで、ロボットのように感情がこもらない声だ。もしかすると、本当にロボットなのかもしれない。

「そうですか……学園に入学するには、どうすればいいのですか」

「入学は、常時受け付けています。

　今、手続きをされますか？」

「お願いします」

　俺は、王からの紹介状を出し、自分の名前を書いた。出身地は、『アリスト王国』にしておく。

「では、入学試験は三日後となります。

　朝九時までに、ここへ来て下さい」

　女性は、さっき渡した紹介状を返してきた。

「では、手続きはこれで終わりです。

　紹介状は、三日後も必要です」

　女性はそれだけ言うと、全く抑揚が無い声で「次の方」と言った。

　俺はビルの間に入り、点ちゃん１号に乗りこむと、借りている家まで戻った。