第2話 首輪


 貴賓室で待つ俺たち四人は、やりたい放題していた。


 マウシーが出て行った後、ミミはメイド服の女性に、お菓子やらジュースやら大量に持ってこさせた。まあ、余ったら点ちゃん収納に入れとけばいいけど、ほどほどにね。

 ポルは、やってきたお菓子やジュースをお腹いっぱい食べると、フカフカの大型ソファーにうつ伏せに寝そべって「こんなに幸せで、いいのでしょうか~」なんて言っている。

 コルナはソファーの上で俺に胡坐あぐらを組ませ、そこへ後ろ向きに座ってジュースを飲んでいる。


 なんだ、この光景は。 

 点ちゃん1号に、乗ってるときみたいだな。

 点ちゃんは、マウシーが残していった「ノ」の字形の口ひげに夢中だし。


 一時間ほどして、やっと『獣人保護協会』から人が来た。中年の女性と、若い男性の二人だ。二人とも、パリッとした灰色のスーツのようなものを着こなしていた。


「失礼します。

 わたくし、『獣人保護協会』から来たマーサと申します。

 彼は、技術者のトニーです」


 俺が挨拶を返すと、トニーは、下げていたアタッシュケースから、輪投げに使う輪のようなものを三つ取りだした。


「ちょっと、調べさせてくれ」


 俺はそう言うと、鉄さび色の輪っかを手に取る。

 点ちゃん、何か分かる?


『(Pω・) ……脳の働きを制御しちゃうみたい。時間をかけて、記憶を書きかえるようになってる。位置情報発信や、音声情報発信の機能も付いてるよ』


 なるほどね。じゃ、シールドで覆っておくかな。


『(・ω・)〇⇒Ω ご主人様ー、着けた後で外しちゃう方が簡単だよ』


 お、それもそうだ。これとそっくりなものを、点魔法で作って着けておけばいいんだもんね。


「では、お願いしていいかな」


 俺は輪っかを若い男に返した。

 彼は、それをコルナの首元に持っていくと呪文を唱える。カチリという音を立て、首輪が装着される。その後、ミミとポルにも首輪を着けると、二人はそそくさと帰っていった。

 ハンカチで口元を押さえた、マウシーが入ってくる。

 部屋の中をきょろきょろ見まわしているのは、片方の口ひげを探しているからだろう。


「心ばかりのお詫びに、ギルドから宿泊施設を提供いたします」


 彼はそう言うと、地図と小さな布袋を渡してくる。


「ご用の際は、何なりと申しつけください。

 では、失礼します」


 マウシーは去り際まで、きょろきょろ辺りを探していた。

 俺は、お菓子やジュースを点ちゃん収納にしまいこむと外へ出た。


 ◇


 外から見たギルドの建物は、全体が白い素材でできていた。

 町は、地球の都会に似ていた。違うのは、まずビルの高さだ。遥か上空までの高層建築が林立している。

 しかも、そのビルには、窓らしきものが無い。ただ、のっぺりした白い壁面があるだけだ。

 文明でいうと、明らかに地球より進んでいそうだ。


 通りを歩く人は少ない。長さ二メートルくらいの卵型のカプセルが、道路の少し上を音もなく移動している。移動用の魔道具だろう。

 俺たちは、ギルドでもらった地図に沿って目的地へと向かった。

 通行人の半分くらいは、色違いだが形が同じ服を着ている。色違いのローブを羽織っている者も多い。服は、男女問わず、同じ形のようだ。

 地球の街に比べ、驚くほど静かだ。


 地図が示す場所には、庭つきの大きな平屋があった。

 シンプルな箱型で、やはり窓は無い。途中、ほとんど庭がある家を見なかったので、この家は高級な住宅なのだろう。

 もらった布袋の中に入っていたのは、二つの指輪だった。一つをドアにかざすと、壁にパッと穴ができる。


 中へ入ると、数段下がって大きなワンフロアーがあり、その奥に扉がいくつかあった。後ろを振りかえると、外の庭が見える。

 どうやらマジックミラーになっているらしい。


 室内は茶色を多用しており、落ちついた雰囲気だ。天井自体が光っている。これが、照明だろう。

 俺たちは、床と一体となったソファーに座った。

 俺が指を立て、唇に当てたので、みんなは黙っている。

 点ちゃん、調べてくれる?


『(・ω・)ノ おっけーでーす』


 十秒もせずに調べ終わったようだ。さすが点ちゃん。


『(・ω・)つ□ 盗聴用機械が十、映像用が四、用途不明が二あったー!』


 じゃ、全部消しちゃってね。


『(^▽^)/ はーい!』

 

 指を口から離して頷くと、みんな、ほっとした顔をした。


「ぷはーっ」て言ってるのはポルか。息を止めてたんだね。


「とりあえず、盗聴なんかの機械は全部はずしといたよ。

 首輪の効果で、ぼおっとしてないか?」


「大丈夫だよ。

 お兄ちゃん、ありがとう。

 でも、なんともえげつないわね、この世界は」


 コルナが指摘する。

 盗聴器と一緒に、三人の首輪も外しておいた。これは壊さずにおいて、点魔法の箱に入れて管理することにした。


「まあ、獣人をさらってる時点で、かなりやばい世界っていうのは分かってたけどね」


 俺は、この世界で一人の少年を探しだす困難に、改めて気づくのだった。

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