第5部 猿人族との戦い
第25話 獣人団結 - 点ちゃん1号登場 -
聖女救出から一週間後、アンデ、数人の犬人、俺、そして聖女舞子は、狐人族の城へ向かっていた。
目的は、緊急に招集された獣人会議への参加だ。しかし、この旅に納得できない者もいるようだ。
「あー、こんなことで、本当にいいのか?」
アンデが、呆れ顔だ。
今、俺たちは、空を飛んでいる。
点ちゃんで作った床の上に、捕まえた虎人が所持していた、豪華な敷物を広げている。
その上に、ちゃぶ台のようなテーブルを出し、そこには俺が点てた香草茶が人数分置いてある。点ちゃんは今回、優美な流線形をしており、揺れることもほとんどない。
アンデは、この緊急時にお茶を飲んでくつろいでいるということに、納得できないらしい。
まあ、でも、いいんじゃない?
俺の人生目標、くつろぐことだから。
舞子は俺の隣に座り、にこにこと機嫌がいい。
周囲の景色が見られるように、点ちゃんは透明にしてある。
「獣人世界って綺麗だね」
舞子も、俺の趣向が分かっているらしい。景色を楽しみながら、美味しそうにお茶を飲んでいる。
おれは、「ふわ~」と欠伸をすると、モフモフの敷物に横になる。
いや~、くつろぎますな~、しかも絶景だね~。
『P(・ω・) 絶景だね~』
お、点ちゃんも、そう思ってくれるか。さすが、わが心の友よ。
『(・ω・) 友よ~』
あ、繰りかえしてるだけね。まあ、いいけど。
ところで、次に飛行するときは、お湯の魔石でお風呂を沸かして空中風呂ってどうだろう。
俺がそのような妄想を膨らませていると、巨大な木が見えてきた。狐人族領の中心たる神樹様だ。
「ええ~っ!
もう着いちゃうの?」
くつろぎタイムを中断された俺は納得できないが、アンデの顔を見て、それ以上不平を言うのは止めにした。
山岳地帯を発ってからここまで、半日もかからなかったことになる。
狐人たちも、空から降りてきた白銀の機体に驚いていたが、本当に彼らが驚くのはここからだった。
四人の熊人に支えられた、金色の
熊人は舞子の前に駕籠を下ろすと、さっと後ろに下がり平伏した。
舞子は戸惑っていたが、俺が手を引くと、黙って駕籠までついてきた。
俺が頷くと、彼女は渋々駕籠に乗った。
熊人が、それぞれ持ち手に取りつく。
彼らは恐ろしく慎重に、駕籠を持ちあげた。きっと、舞子は少しも揺れを感じなかったに違いない。
俺たちは、ゆっくり進む駕籠の後を追い、城内へと入った。
後に残された狐人たちは、今まで見たこともないその光景に、目を丸くしていた。
◇
「あ、シロー……」
会議場には、すでに多くの獣人が集まっていた。
俺の姿を見たコルナが何か言いかけたが、横に控えた文官の狐人、ホクトに袖を引かれ口を押えた。
会議室は、先日獣人会議が行われた広間だったが、神樹側の壁際に、金色の台が設えてあった。
熊人が、その上にゆっくりと
白い装束を着た狐人族の少女が、駕籠に近づいていく。
獣人の長達が座る円テーブル側の
舞子が、姿を現す。
皆が、床に平伏する。
一人だけ立っているのも変なので、俺も平伏しておいた。
コルナが会議の開催を告げると、議場は聖女の付きそいをどの部族が行うかで揉めはじめた。
舞子は、台の上で困惑している。
彼女は、困惑のあまり、思わず言葉をもらしてしまった。
「史郎君……」
その聞こえるか聞こえないかの声がしたとたん、会議場がシーンと静まりかえった。俺は仕方なく、舞子が座る台座の斜め後ろに立った。
すると、今まで混乱していたのが嘘のように、会議は次の議題に移った。
「アンデ、この報告はまことか?」
コルナが手元の資料を指さし、質問する。
「ああ、虎人族の聖女様への攻撃、誘拐。
全て本当だ」
虎人族は、今回の会議に呼ばれていないのか、姿が無かった。
「また、人族が奴らの背後にいたこともか?」
「ああ、それも本当だ。
すでに二人の人族を確保している」
場がざわつく。しかし、これは、まだ序の口に過ぎなかった。
「各地で村を襲い、人をさらっていた猿人族の背後に、人族がいたというのも?」
「本当だ。
二人の人族が別々に、同じ内容の自白をしている」
「なるほど。
さて、問題は、奴らの目的だが……。
奴隷にするため、あるいは、人体実験の材料にするため、獣人を狩っていたということでいいのか」
衝撃の事実に、会議場が一瞬シーンとなるが、次の瞬間、怒号が飛びかった。
「なんだと!!」
「人族めっ!
目にもの見せてやる!」
「そうだ!
人族の世界へ攻めこめ!」
パン、パン
コルナが手を打つと、場が少し鎮まった。
「つまり、人族全員に復讐しろということか?」
「そうだ!」
強硬派の
「それなら、聖女様も狙うのだな」
「そ、それは……」
「聖女様も、人族ぞ」
「……」
「事情が事情だけに、お主らの気持ちは、よう分かる。
しかし、感情におぼれ、本当の敵を見失うでない」
「わ、分かった……」
豹人は、完全には納得していないようだが、とりあえず矛先を収めた。
「では、どういう方策と取るかだ。ニャニャ」
猫賢者が、発言する。
「あのー……」
舞子の小さな声に、皆の注意が集まった。
「さっきの方の発言にあったとおり、今回の事は、人族が関係しています。
私に任せてもらえませんか」
このやり取りは、俺と舞子で事前に打ちあわせてあった。アドリブが必要な時は、点ちゃんで念話できるしね。
「それは、聖女様がそうおっしゃられるなら、異存はありません。
しかし、どうやって手を打たれるおつもりで」
発言した熊人を、獣人たちがギロリと見る。彼の発言は、聖女の意見に疑いを投げかけたと見なされかねなかった。
「すでに、いくつか考えています。
皆さんにも、協力していただくことになります。
どうか、よろしくお願いします」
舞子が言うと、一瞬音が消えた後、爆発するように声が上がった。
「もちろんです、聖女様!」
「聖女様のためなら、我らはこの身を投げだしますぞ!」
「我々も、同様です!」
「聖女様のおっしゃるままに!」
「「「聖女様!!」」」
舞子は、余りの
「では、聖女様との連絡係を、各部族二人ずつ出してほしい」
コルナ議長のこの言葉で、議場はまた騒然としたが、舞子の小声がまた場を鎮めた。
「皆さま、よろしくお願いします」
聖女が、頭を下げた雰囲気を、御簾越しに感じたのだろう。
自分が連絡役を、という争いは一気に収まった。
「では、これにて閉会じゃ」
それだけ言うと、コルナはさっさと議場を出ていった。
舞子は、来た時と同じように、四人の熊人に担がれた駕籠で退場した。きっと、特別あつらえの部屋に通されるのだろう。
俺は念話で舞子の首尾を褒めると、後で会おうという言葉で念話を切った。
レベルアップした点ちゃんが付いているから、舞子の守りは鉄壁だ。
俺は、前回訪れた時に泊まった部屋に案内された。
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