第26話 コルナの決断


 俺が部屋でくつろいでいると、扉がノックされた。

 小さな音だから、もう少しで聞きのがすところだった。扉を開けると、当然の様にコルナが部屋に入ってきた。


「え~っと、何のご用ですか?」


「他人行儀はよさぬか。

 それより、そこへ座れ」


 俺が椅子に座ると、コルナは眉をひそめて敷物を指している。仕方ないから、床に胡坐あぐらを組む。

 案の定、コルナは、俺の膝の上に後ろ向きに収まった。


「で、お主は、どの様に動くつもりじゃ?」


 ここは、話す必要は無いよね。適当にごまかしておこう。


「聖女様が案を出したら、それを実現するために動く予定です」


「嘘を申すな。

 お主が中心になって動くつもりじゃな?」


 勘が鋭いのか、情報分析能力が高いのか。何にせよ、ある程度こちらのことがばれているらしい。

 それでも俺は、しらを切ろうとした。


「非力な俺一人で、何ができます? 

 とにかく、聖女様の決断を待ちましょう」


 コルナは、しばらく目を閉じ、何か考えているようだったが、きっと俺の目を見て話しはじめた。

 

「私に嘘は通用せんぞ。

 神樹様のご加護を受けておるからな」


 何!? 

 彼女も、加護持ちだったか。


「加護というと?」


「特別な状況での未来予測じゃ」


 予知能力か。


「それで、何を見たと?」


「それは、神樹様との約定で話せぬ」


 それでは、本当に未来予測できてるかどうか、分からないんじゃ……。


「うさんくさそうな顔で見るでない!」


 だって、本当にうさんくさいんだもん。


「とにかく、わらわは、そちと一緒に行動すると決めたのじゃ」


 えっ!?


「しかし、コルナ様は獣人会議の議長でもありますし、今は大事な時。

 いくら何でも、それはちょっと……」


「ふふふ、見ておれ。

 その内、驚かせてやるからの」


 いや、もうすでに、いろいろ驚いてますけどね。


「ふむ、今日も良い座り心地であった。

 また、座らせてくれ」


 まあ、いいですが。何なんですかね、この娘は。膝椅子マニアですか?


「それでは、またすぐに会おうぞ」


 そう言いのこし、彼女は部屋を出ていった。

 呆れと疲れで、俺はすぐに寝てしまった。


 ◇


 翌日、俺は、舞子からお説教をくらっていた。


 昨日、別れ際に念話で『後でな』と言ったのを、彼女は、その後すぐだと思ったらしく、部屋でずっと俺を待っていたそうだ。

 コルナ様のことを話すのも、なぜかためらわれたので、俺はひたすら頭を下げた。おかげで、今日は一日、舞子の相手をすることになった。

 といっても、熊人の護衛が四人ついているから、二人きりというわけではない。顔つきで熊人を区別することは、まだできないが、彼らの会話からすると、どうやら駕籠かごを担いでいた四人のようだ。


 俺は舞子に引っぱられるように、商店が並ぶ地区へとやってきた。

 舞子は、かんざしやブローチを売っている店の前で足を止めた。ここの商店は、戸口を開けはなち、商品を並べるスタイルだ。

 舞子は、目をキラキラさせ、品物を見まわした後、俺の方を見る。

 あー、これは、あれだね。買わなくちゃいけないパターンだね。

 俺がそう思った時、突然、左手が引っぱられた。


「お兄ちゃん、私これにする」


 そちらを見ると、俺の左手にコルナがぶら下がっており、手には青いかんざしを持っていた。

 それより……。


「コルナ様、お兄ちゃんというのは……」


「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだもん」


「あのー、言葉づかい、そんな風でしたっけ?」


わらわ……いや、ウチは、お兄ちゃんとはアレだから」


 俺は、右手に違和感を覚え、ギギギギとそちらを見た。

 舞子が、目を吊りあげ、鬼のような顔をしている。

 それ、君のキャラじゃありませんよね。

 鬼聖女、絶対ダメ!


「史郎君、この子いったい、誰? 

 史郎君の何?」


「えー、この方は、狐人族の族長で、コルナ様という……」


「違うよ、お兄ちゃん。

 ウチ、もう族長じゃないもん、フフフ」


 フフフじゃないですよ。何ですか、それは。まさか……。


「族長は妹に任せて、お兄ちゃんと一緒にいることにしたの」


 な、何ですか、それは! 

 そういえば、どっかのギルマスが、似た行動をとったことがあったな。

 これはもう、異世界共通の仕様ですか?


「あなた、いったい何のつもり?

 史郎君は、私の……だから」


 舞子も、誤解を招く言い方、やめてください。

 板ばさみって、こういうこと言うんだろうね。


 『ll(・ω・)ll ご主人様ー、パレットを出そうか?』


 いや、点ちゃんまで……。

 もうお腹いっぱいです。


 俺は、もめもめの二人にはさまれ、心をすり減らすのだった。

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