第3部 狐人の国

第14話 狐人族領への旅


 俺たちのパーティ『ポンポコリン』が、狐人領へ向け出発する日が近づいた。

 今までで一番の遠出になるので、俺は十分準備をした。点ちゃんとも、いろいろ打ちあわせておく。とりあえず、ミミとポルには、点を二つずつ付けておく。


『(^▽^)/ ご主人様ー』


 何だい、点ちゃん。


『つ(;ω;) 最近、私のこと、忘れてませんでしたか?』


 ぎくっ。

 そ、そんなことないよ。


『(・ω・) だって、この前の捜索だって、私を使えば、あっという間でしたよ』


 ……そういえば、そうだね。まあ、でも、あの時は、他の冒険者たちも働いてたからね。点ちゃんに頼むと、彼らの仕事がなくなっちゃうじゃない。


『( ̄ー ̄) ホントにそんなこと考えてました~?』


 ぎくっ。

 点ちゃんは、もの凄く役に立つからねー。


『(´艸`*) えー、そんなことないですよ、ウフフフ』


 ところで点ちゃん、舞子に付けてた点は、どうなったの?


『(・ω・)つ・ 舞子ちゃんがポータルを通る時に、力を失ったようです』


 あーあ、あれが使えてたら、一発で見つけられるのにね。


『d(u ω u) 舞子さんと一緒にポータルへ落ちた人に付けてた点も、同じように力を失ってますから。

 ポータルとポータルの間に、点を無効化する何かがあると思われます』


 なんで、点ちゃんは大丈夫だったの?


『(・ω・)ノ 私を生み出したご主人様と一緒なら、ポータルを通っても大丈夫みたいです』


 なるほどね。俺の中の点ちゃんと、誰かに付けた点ちゃんは、少し違いがあるわけか。

 あ、そうそう。今まで試してなかったけど、世界の壁を越えて念話することはできないの?


『(・ω・) それも、先ほどと同じ理由で無理みたいです』


 残念。それが出来たら、ルルや娘たちと話せたのに……。

 でも、この世界に来ても、点ちゃんと一緒だったのは心強いよ。


『(*'▽') エへへへ』


 点ちゃん、ありがとうね。


 ピカッ


 うはっ! 久々に、来たー!

 俺の体を、まぶしい光が包む。なかなか、光が収まらない。収まるどころか、さらに光が強くなる。点魔法のレベルアップがあると、なぜか俺の身体が光るのだ。

 目を閉じていても、耐えられないくらいまぶしくなった瞬間、光が収まった。

 今回のは、特に凄かったね。

 点魔法、レベル10か。これがこの魔法の最高レベルかな? どんなことが出来るんだろう?


 点ちゃん?

 あれ? 

 点ちゃんが、答えない。

 点ちゃん、聞いてますかー。

 ……。


 なんだ、これ?

ど、どういうこと?


 ◇


 点ちゃんがいなくなったことは、俺にとって想像以上のダメージとなった。

 いつも一緒にいた友達が、突然いなくなる。それは、こんな気持ちなのだろうか? 

 強い喪失感は、俺から気力を奪っていた。

 なぜ俺が元気をなくしたか、その理由が分からないミミとポルは、自分たちがはしゃぎすぎたのが原因かと思い、大人しくしている。

 アンデも心配して、体調が優れないなら、町に残っていいと言ってきた。

 けれども、狐人族領への旅を心待ちにしている、ミミとポルのことを思うと、そうもいかない。


 俺は終日部屋にこもり、ベッドに横になっていた。俺の中で、点ちゃんの存在が、これほど大きくなっていたなんて……。

 なぜ、点ちゃんは、いなくなったのだろう?

 俺が、あまり相手をしてやらなかったせいか?

 ポータルを通った影響が、後から出たのか?

 レベルが上限に達したことで、消滅してしまったのか?

 最後の考えは、俺の心をさいなんだ。


 ◇


 狐人領へ向け出発する日が来た。

 俺は、ふらふらつく足で階下へ降りていった。


「おい、無理するな。

 顔色が悪いぞ。

 途中で倒れられると、かえって迷惑なんだからな」


 アンデが、心配してくれる。

 こちらは、それに答える余裕もなく、首を左右に振った。


「おい、お前たち二人が、シローをしっかりサポートしろよ!」


 アンデが、ミミとポルに話しかけている。


「うん、分かってる」

「はい、気をつけます」


 二人は、いつにないほど真剣な顔をしている。パーティリーダーの俺がこんな状態では、自分がしっかりするしかないと考えているのだろう。


「じゃ、行くぞ」


 ギルマスのアンデ、二人のギルド職員、俺たち三人の合計六人が旅のメンバーだ。犬人族の族長が高齢のため、今回の族長会議では、アンデがその代理を務めるそうだ。

 この世界では、アリストがある世界より、ギルドの力が強いのかもしれない。


 旅は途中雨で一日遅れとなったが、魔獣も出ず、しごく平穏なものだった。

 幹線道路を利用したこともあるのだろう。道の状態もよく、一団は順調に距離を伸ばした。そんな中、遅れがちにフラフラ歩いている俺をなにくれとなく助けてくれたのは、ミミとポルだ。

 俺は、パーティメンバーの有難さを痛感していた。

 どうにか元気づけようと話しかけてくる、ポルに応えてやることはできなかったが、旅程の最後の頃には、俺もなんとか普段の足どりが戻ってきた。


 狐人族領が近づくと、景色は草原から森へと変わりはじめた。

 森の中に、特徴ある家々が見えはじめる。

 おとぎ話に出てくるような小さな家は、屋根がコケのようなものでできている。

 窓には、ちらちら人影が見える。きっと狐人だろう。


 ◇


 最初に会った狐人は、角材でできた柵の前に立つ兵士だった。

 犬人に比べると小柄だが、見るからに俊敏そうだ。剣も、レイピアに近い細身のものを腰に差している。頭には、三角耳が出るようにあつらえた、革の帽子をかぶっている。


「こんにちは。

 通行証を、見せてもらえるかな?」


 男は、丁寧な口調で話しかけてきた。ギルド職員が、六人分の手続きを行う。犬人族のおさからの委任状を見せると、狐人の男は慌てて柵の中に入っていった。

 少しすると、あきらかに高位文官とわかる、上等な布の帽子をかぶった狐人の男を連れてくる。


「こんにちは。

 ようこそ、狐人族領へ。

 私が案内役を務める、ホクトでございます。

 どうぞ、こちらへおいでください」


 俺たち一行は、狐人の文官に案内され、町の中へと入った。


 ◇


 町は、人族や犬人族のそれと、かなり違っていた。


 どこにでも大きな木が生えており、その木に寄りそうように、こじんまりした家が建てられている。

 道は、木々を縫うように蛇行して作られている。森と町が一つになった感じだ。


 俺たちは、ひときわ大きな木が林立する地区へと入っていった。

 町は、落ちついている中にも活気があり、多くの狐人が行き来していた。人々は、前を合わせた、着物のような服を着ており、耳が出る帽子をかぶっている。

 犬人族や人族が珍しいのか、俺たちは、かなり注目を集めていた。


 家と家との間隔が次第に広くなり、それにつれて、一つ一つの家が大きくなってきた。

 やがて、道の両脇に大木が二列に並んでいるところに来た。その並木の間を歩いていくと、天を突くような巨大な木が現れた。

 その根元をとり巻くように、白壁しらかべの建物が立っている。建物は折り重なるように建てられており、それがこの国の建築技術の高さを物語っていた。

 その建物に続く門を潜る。白壁は近くでみると、絶壁のように、そそり立っていた。


「壮観でございましょう?

 我らが領地、自慢のお城でございます」


 自慢するだけはある。城という既成概念が壊されるほどの印象だ。

 白壁の一部が音もなく奥に引っこみ、四角い開口部を作った。一行は、その中へと招きいれられた。


 白壁の内側は、ゆるいカーブを描く通路となっていた。壁の反対側には半透明なガラスが並んでおり、それが延々と続いている。

 俺たちは、白壁とガラスに挟まれた回廊を進んでいく。

 前方に現れたがっしりした扉が開くと、その中には大きな空間が広がっていた。上を見ても、天井が見えない。

 差しわたし五十メートルはありそうな広間の奥に、大きな椅子が置いてあり、そこに小さな狐人の少女が座っていた。

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