第6話 湖沼地帯にて
ケーナイの町を出発して三日。
俺たちは、やっと目的地の湖沼地帯に到着した。
乾いた草原の道を通って来たが、周囲に池や沼が見られるようになってきた。空気も、なんだか湿っぽい。
ここに来るまで、ミミとポルは、時間があれば二人で戦闘訓練をしていた。
ああ、ポルナレフでは、とっさの時に呼びにくいから、ポルって呼ぶことにした。ミミは、相変わらず彼を「ポン太」って呼んでるけどね。
道の真ん中に、サッカーボールくらいの、つるつるしたものが落ちている。近づくと、ぽよぽよ動いている。
どうやら、これがスライムらしい。
「よし。
じゃ、あれは、二人で倒してみようか」
すでに、二人には点を付けてある。何かあれば、点ちゃんシールドで安全を確保しよう。
ポルが短剣、ミミがカギ爪を構え、飛びだした。
ポルが振りまわした剣を、スライムは意外なほど機敏に、ポヨヨンとかわした。それを狙っていたミミがカギ爪で攻撃する。
キュ……
小さな音を立て、スライムが動かなくなる。
近よると、ゼリー状の体に四本の深い傷がある。その傷の中ほどに、道具屋で見た、水の魔石があった。しかし、カギ爪が当たったのか、その魔石は三つに割れていた。
ミミとポルも、それを覗きこんでいる。
「どうやら、スライムの魔石は、体のこの辺りにあるらしいね。
攻撃は、この部分を避けておこなおう」
「はい、分かりました!」
「了解!」
それからは、道を進みながら、スライムが見つかるたび、ミミとポルが倒していった。
道を進めば進むほど、多くのスライムが現れるようになってきた。
俺はこの状況に、少し違和感を覚えていた。いくら最も簡単な討伐と言っても、これでは簡単すぎる。いつもより、スライムの数が多いんじゃないか?
その時、前方からブゥオーッという掃除機のような音が聞こえてきた。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、何か来るよ!』
「気をつけろ!」
二人に注意をうながす。
右前方の草むらを押しつぶすように、道に大きなモンスターが現れた。
◇
それは、人の背丈ほど高さがあるスライムだった。色は黄色だろうか。 体表のぬめりがテカっているので、金色に見える。
な、何だ、こいつは?
ポルが、向かっていこうとする。
ミミがその
「痛っ!」
小柄なポルは、ころんと後ろにひっくり返った。
「あんた、馬鹿なの!
見たことがない敵に、いきなり攻撃仕掛けるって!」
珍しく、ミミが正論を放つ。
「よし。
ちょっと離れて石をぶつけてみよう」
俺がそう言うと、二人はすぐこちらに来た。
さっそく、手ごろな石を大きなスライムに投げる。
ポヨヨン
大きなスライムが震えると、石は弾かれてしまった。
その動きで気がついたが、そいつは体の横から二本の細い触手のようなものが出ている。今の動きで相手の攻撃をしのぐと、その触手で捕まえるのだろう。
折しも、一匹の小さなスライムが、そいつの前を横切ろうとした。
ヒュルン
触手が小スライムに巻きついた。
でかいスライムの下部に穴が開く。
ブゥオーッ
大きなスライムは、触手を巻きつけた小スライムを一気に吸いこんだ。穴は、すぐ閉じ元に戻った。
ポルが、青い顔をしている。
それはそうだろう。彼も一歩間違えば、ああなっていたのだから。
大きな金色のスライムは、意外なほどの速度で、こちらに向かってきた。体のどこかの器官で、エサを感知しているらしい。
問題は、この場合、俺たちがそのエサだということだ。
ミミが、腰の袋を開く。
これは、彼女がずっと大事そうに運んできたものだ。何度か尋ねても、それが何か教えてくれなかった。
中から出てきたのは、使いこまれた短弓だった。
体と地面を使い、一瞬で
ストッ
矢は、スライムの中心に突きささった。
ブフォ
スライムが、ゲップのような音を出し停止する。矢は、スライムの体にゆっくり取りこまれているようだ。
ミミが射た矢が二本目、三本目と、ほぼ同じ位置に命中する。スライムの色が、金色から緑、緑から青へと変わりだした。
濃い青になり、スライムが動きを完全に止めた時には十本近くの矢が刺さっていた。
「ミミ、すごい!
どうしたの、その弓?」
ポルが称賛する。ミミはドヤ顔になったが、説明する気はないようだ。
俺は、動かなくなったスライムを調べにかかった。ナイフで、ゼリー状の体を割き、中を見てみる。
スライムの大事な器官は、矢が当たった辺りに集中しているらしく、そこを破壊されたから、死んでしまったのだろう。
恐らく、他の部分にどんなにダメージを与えても、ヤツは平気だったはずだ。
「ミミ、このスライムのこと知ってたの?」
「うん。
母さんから、もしかしたら出るかもしれないからって注意された」
「これは、何だい?」
「ゴールデン・ヒュージ・スライムっていうの。
滅多にいないけど、Bランクの魔獣らしいよ」
もし、鉄ランクである別の冒険者パーティがこの依頼を受けていたらと思うと、ぞっとする。
「こいつにも、魔石があるの?」
「大きいのがあるそうよ」
俺は、ポルに手伝ってもらい、スライムの体を調べた。すると、矢が刺さっているところから少し下に、テニスボールくらいはある魔石を見つけた。魔石は、やや黄色っぽい色をしていていた。
「あーあ、ゴールデン・スライム用の入れ物、持って来るんだった!」
ミミが、ぼやいる。
「え?
どうして?」
「このスライムは、食材としてとても価値があるの。
でも、ご覧のとおりぷよぷよして手で持てないでしょ。
専用の容器に入れなくちゃいけないの」
少し考え、俺は能力の一端を見せることにした。ただし、それは偽のマジックバッグとしてだが。
「ああ、俺がマジックバッグ持ってるから、それに入れて帰るよ」
「え!?
マジックバッグ?
さすがは金ランクね。
でも、これが全部入るの?」
「大丈夫」
俺は点ちゃんを展開した透明な箱にスライムを中に入れると、点に戻しておいた。外からは、スライムが突然消えたように見えたろう。
俺は、わざとらしく、腰に付けたポーチをポンポンと叩いた。
「回収完了!」
「うわっ、どんだけ容量があるマジックバッグ持ってるの!
ありえないくらい高価でしょ、それ」
「まあね」
実は、容量制限はありません。だましてごめんよ。
ミミは、スライムから回収した矢を丁寧に布で拭くと、矢筒の中にしまった。
そのとき、いろんな方角から、ブゥオーッという掃除機を吸うような音が聞こえてきた。
「やばい!
でっかいスライムが、大量発生してるらしい」
俺たちは、来た道を一目散に逃げだした。
小さな沼スライムは、大きなスライムに追われ、こちらに逃げてきたのだろう。耳障りな音が、背後に遠ざかるのを聞きながら、かなり危ないところだったと気づいた。
こうして、パーティ・ポンポコリン最初の仕事は、Bランクという思いがけない大物と、ミミの意外な能力を引きだして終わった。
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