第32話 開戦発表
「我がアリスト王国は、本日をもって隣国マスケドニアへの開戦を宣言する」
急に呼びだされた勇者、聖騎士、聖女の三人は、『王の間』で国王から開戦の知らせを受けた。
史郎と事前の打ちあわせで決めていたとおり、三人はわざと驚いた顔を作ったが、それを王やとり巻き連中に気づかれた様子はない。
「いつ、決まったんだ?」
相手が王でも、加藤の口調はいつも通りだ。
「いや、以前から開戦の準備はしておったのだ。
お主らに知らせるのが遅くなり申しわけないが、なにせ国の機密でな。
話したくとも話せなかったのじゃ」
アリスト王が、取りつくろった理由を述べる。
加藤たちは、史郎からの情報で王の言い訳が嘘だと分かっていたが、特に反論はしなかった。確認すべき点だけには、突っこんでおく。
「俺たちは、戦闘に参加しないよな?」
「そうしたいのは山々じゃが、国の存亡がかかったときには、ぜひ力を貸してほしい」
問題は、国の存亡の時がいつか、それを決めるのが王自身だということだろう。
「分かったよ。
しかし、どうしてもの時以外は、参戦するつもりは無いから」
加藤は、史郎から決められた通りに答えておいた。
勇者が思ったより大人しく話を聞いたので、王のとり巻きは、ほっとしたようだ。
「あ、そうそう。
戦闘に備えて実戦訓練をしておきたい。
俺たちが城の外に出て魔獣を討伐する、その許可を出してくれ」
「うむ、騎士が同行してもかまわぬか?」
「かまわない。
では、頼んだぞ」
加藤が最も肝心なことを最後に言いおえると、三人は足早に『王の間』から出ていった。
「陛下、あのようなことをお許しになってもよろしいので?」
宰相は、渋い顔をしている。
「まあ、世間知らずの若造をコントロールするなどたやすいことよ。
戦闘参加の約束さえ取っておけば、あとは何とでもなる」
「さすがでございます」
「とにかく、国民に向け開戦の触れを出しておけ。
穏健派が、ぐだぐだ言いはじめぬうちにな」
「ははっ!」
◇
割りあてられた部屋に戻りながら、加藤たちは後にしてきた、『王の間』でのやり取りを聞いていた。もちろん、点ちゃんの能力だ。
「はー、とんでもない国に来ちまったな」
「加藤、あんた本当に分かって言ってんの?」
「そりゃ、俺でも少しは考えるさ」
「それならいいんだけどね。
とにかく気をつけて行動するのよ。
怪しまれたら、本当にまずいことになるんだからね」
「分かってるって」
彼らが『王の間』を出た後、国から支給された指輪は、史郎が用意してくれた小箱に入れてある。
「しかし、この箱って便利だなあ 。
俺にも作れないかな?」
「あんたみたいな脳筋には、無理に決まってるでしょ!」
のんきな加藤に、畑山がすかさず突っこんだ。
「まあ、いいや。
俺は、体力で勝負するさ」
「だから、戦争に利用されようとしてるんじゃない。
しっかりしなさいよ、ホント!」」
口では、畑山に敵わない。
部屋に戻ると、点魔法の箱から指輪を取りだし、再び指につけておく。
「さて、討伐の打ちあわせしとかないとね」
畑山がメイドに頼み、レダーマンを呼んでもらう。
「私たち討伐で実戦訓練するんだけど、もうその話は聞いてる?」
「うかがいました。
こちらに任せてもらっていいですか」
「まあ、それでいいけど。
最初は慣れないから、ベテランのサポートが欲しいのよね」
「というと?」
「魔獣の討伐を仕事にしている人たちがいるんでしょ?」
「冒険者のことですね」
「初めの何回かは、その人たちにも討伐に同行してもらえる?」
「ギルドに依頼を出せば可能でしょう。
しかし、騎士団にも討伐経験者はいますよ」
「騎士からは、いつでも習えるじゃない。
せっかくだから、その道のプロからも学びたいのよ」
「そういうことでしたら、許可が出ると思います」
「お願いするわね」
「承りました。
討伐には騎士団も同行しますが、よろしいですか?」
「なんの問題もないわよ。
じゃ、お願いね」
「はい、分かりました」
こうして勇者たちは、着々と計画の準備を進めるのだった。
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