第16話 ドラゴン討伐に向けて

 帰ってみると、ルルは新居を掃除中だった。

 あちゃー、気が利かなくて、ほんと申しわけない。って、それどころじゃなかった。

 ドラゴン討伐参加に至った経緯を短く伝え、二人でギルドに向かう。ルルはメイド服のままだ。


「遅くなりました」


 会議室のドアを開けると、まるでお通夜みたいな空気が漂っていた。


「来たな。

 じゃ、始めるぞ!」


 それから三時間ほど、ギルマス、ハピィフェローの面々、ギルド職員数名で、侃々諤々けんけんがくがくの議論をしていた。


 ほとんど理解できなかったが、ドラゴンが山に棲んでいること。

 その山まで行くこと自体が、かなり大変だということは分かった。


 途中で何度か夢の国に行きかけ、ルルに連れもどされた。

 だって、ほとんど分からない話ですよ。お経と同じですよ。普通、眠たくなりませんか? お坊さんには、叱られちゃうだろうけど。


 討伐に出発する前から、エネルギー根こそぎ奪われてる気がするんですが……。まあ、俺たちはサポート役のさらにサポート役だから、その辺でチョロチョロしていればいいんでしょうけどね。


 でも、ゴブリンキングの例もあるから、安心できないよね。

 あー、怠けたい。くつろぎたい。ウサ子をモフりたい。


 ギルドから出ると、すでに辺りはまっ暗だった。この国は、街灯とかないからね。なるべく大きな通りを選んで新居まで帰る。

 ドラゴン討伐へ出発するのは、三日後だって……。

 なんかね~。


 ◇


 せっかく、くつろげるはずの新居を手に入れたのに、出発当日までは目が回るほど慌ただしかった。


 ルルは平気で仕事をこなしていたが、こっちは完璧とは程遠いですから。

 ドラゴン討伐にしか使わない道具やポーションが大量にあって、その用意、仕分けと、まあ、引っ越しどころの騒ぎじゃないよね。


 今回の討伐は騎士団も同行するらしく、ハピィフェローはお城で騎士と合同訓練を行っていたらしい。

「らしい」と言うのは、こちらが荷物にしか関わらなかったからだが、とにかく半分ギルドで寝泊まりしている状態だった。


 ◇


 ドラゴン討伐へ出発する日。

 朝の集合は、ギルド前ではなく、城前広場しろまえひろばだった。

 遠くで騎士に囲まれた加藤たちの姿がチラリと見えたが、こちらには気づかなかったようだ。

 まあ、こちらは相変わらず頭に布巻いているし、荷物の後ろでコソコソしてたからね。かくれんぼみたい。

 国王が演台に立ち何か話している声も、ここまでは届かない。

 やがて銅鑼どらが鳴ると、隊列の先頭が大通りに向けて進みだした。


 討伐なので告知などしてないはずだが、どこから情報を仕入れたのか、ものすごい数の人々が道沿いに並んでいた。


 討伐隊は、先頭から、騎士数名、荷馬車、ギルド関係者、騎士団、勇者パーティ、最後にまた騎士団という順で、ゆっくり進んでいく。

 これで討伐に失敗したら、冗談にならないな。その時は、加藤たち三人を他国へ逃がさなきゃ。


 ルルと俺は、荷馬車隊に紛れこみ歩いていた。それでも、勇者パーティに投げかけられる歓声は、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどだった。


 ◇


 目的地である山のふもとにある町までは、特に何事もなかった。野営はせず、宿場町で泊まりながら、予定通り一週間で旅程を終えた。

 ここで二泊するらしい。

 後は山道なので、荷物要員が持ち物を振りわける。


 ギルド関係者は、自分の荷物を自分で持つ。騎士団と勇者パーティは、武器だけ持つ。

 山道プラス荷物増加で、荷物要員の負担は、かなりなものとなりそうだ。


 宿には馬小屋としか思えない部屋を割りあてられる。まあ、ハピィフェローのみんなも同宿だから、楽しいっていえば楽しいんだけどね。ルルと一緒の宿に泊まれるブレットの幸せそうな顔が鼻につくけど。


 滞在初日。

 夜から、あいにくの雨となった。

 まあ、晴れていても、あまりすることはないんだけどね。

 心配なのは、この雨で山道がぬかるんで、山頂まで行くのに支障が出やしないかっていうこと。


 滞在二日目。

 まだ雲は残っているが、雨は上がった。

 一日中、荷物の準備に追われる。

 町の中心部では、勇者歓迎イベントがあったらしい。こちらは、全く縁がなかった。


 次の日、俺たちは、いよいよドラゴン討伐に挑むことになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る