第4部 ドラゴン討伐

第15話 やっかいな依頼


 宿に帰ると、ルルがお城から戻っていた。


 リーヴァスさんが家購入の保証人になってくれたそうだ。ありがたや。

 しかし、リーヴァスさんには、ルルのことを初め、途方もなくお世話になってるなあ。いつか、お返しできたらいいんだけど。

 ルルには点魔法のことを話しておく。


「えっ、レベル8ですか!?」


 やっぱり、レベル8は凄かったんだね。

 いろいろ試してみたことを話す。


「でも、それで何ができるのでしょうか?」


 グサッと心に刺さるよ。スキル持ってる自分自身がそう思うもん。とにかく、点魔法のさらなる検証は後回しにしておき、ひっ越しを進めよう。


 カラス亭の部屋には荷物も少ないし、ルルのポーチも使えるので、日が暮れる前には、大まかな仕事が終わっていた。

 後は部屋の掃除やおかみさんたちへの挨拶くらいか。


「ルル、今日は新居とこっち、どちらで泊まる?」


「そうですね。

  挨拶などのことを考えると、カラス亭に泊まった方がいいかもしれませんね」


 おかみさんには、近くひっ越すことは伝えていたが、いよいよ明日だと告げると、寂しそうな顔をされた。


「ここの食事は美味しいですから、ちょくちょく寄らせてもらいますよ」


「そうしとくれ。

 夕食代は、いらないからね。

 遠慮せずに、たんとお食べ」


 おかみさん、ええ人や~。


 宿泊客の中にゴブリン討伐の話を知っている人がいて、この日のカラス亭は深夜まで盛りあがった。


 ◇


 翌日、昼頃になって目が覚めた。 

 ルルはすでに出かけた後だった。寝坊だね、やっちゃったよ。

 夜更かし厳禁!

 おかみさんと旦那さんに、用意していたお礼の品を渡してから宿を出た。二人は外まで見送りに来てくれた。感謝です。


 さて、新居に行ってもゴロゴロするだけだろうから、久しぶりにギルドへ顔を出すかな。


 ◇


 ギルドは、いつもより賑わっていた。

 まあ、あれだけの討伐だからね。参加しなかった冒険者にも、刺激になったんだろうね。

 丸テーブルの一つを、『ハピィフェロー』の面々が占めていた。

 うわ~、なんかオーラが出てるよ。

 周囲からの視線も、以前とは違うみたいだね。ゴブリンキング効果、凄いな。


「おう、久しぶりだな」


 ブレットが声を掛けてくる。

 うはーっ、周囲の冒険者から突きささる視線が痛いよ。


「皆さん、こんにちは。

 先日は、本当にお世話になりました」


「お前自身も命を張ったんだから、そんなに遠慮するな。

 敬語は要らんぞ」


 まあね。あんまり丁寧過ぎると、他人行儀になっちゃうからね。


「今日は、ルルちゃ……ルルさんは、いないのか?」


「ええ、ルルは別行動です」


 ブレット以外のパーティメンバーが、意味ありげな視線を交す。ちょっと話題を変えとくか。


「ところで、気になってたんですが、ゴブリンキングの死因って分かりました?」


「それがな、いくら調べてもさっぱりだ。

 ギルドには腕の立つ解体屋がいるから、そいつにも見てもらったんだが、原因不明だとよ」


 頭の片隅に、もしかしたらって可能性は浮かんでるんだけど、あまりにも荒唐無稽な推測なので黙っておく。


「ギルマスは?」


「今日は、お城に行ってるみたいだぞ。

 こないだの討伐が、お城でも評判になってるらしい」


「そうですか」


 噂をすれば影、入り口からマックの巨体が入ってくる。こちらに気づくと、近よって来た。


「ルーキー、久しぶりだな!

 あんまりしつこくしてると、ルルに嫌われるぞ」


 そういうセクハラおやじこそ、嫌われると思います。


「しかし、面倒なことになったぜ」


「どうしたんですか?」


「この前、お前らがゴブリンキング倒しただろうが。

 あれがお城で評判になったのはいいんだが、勇者パーティの肩身が少し狭くなってな。

 それじゃ困るってんで、面倒を押しつけられたんだ」


「面倒って?」


「ドラゴン討伐のサポートをしろとよ」


 ざわついていたホールが、シーンとなった。


「ド、ドラゴンですか!?」


 ブレットが、かなり驚いている。

 ドラゴンってなんか凄そうだし……きっと凄いんだよね?


「それでな、お前ら『ハピィフェロー』は全員強制参加だ」


「「「えええっ!」」」


 周囲の冒険者たちも、ざわついている。


「俺ら銀ランクですよ!

 ドラゴンなんて、どうやったって無理ですって!」


 ブレットが、呆れたような大声を出す。


「いや、お前らが倒す必要はねえんだ。

 それは勇者の仕事でな」


「はあ~。

 しかし、サポートって言っても、ドラゴン相手だと、な~んにもできませんよ」


「まあそうだな。

 ワシもそう言ってやったんだが……。

 とにかく勇者パーティの面目を立たせなきゃならんらしい」


 うはー、馬鹿らしい。何ですか、それは。


「とにかく、七人はすぐ準備に入ってくれ。

 陛下からの指名依頼だ」


 え? 七人っていいますと……。

『ハピィフェロー』の五人とギルマス。あれ? これじゃ六人か。

『ハピィフェロー』とギルマスとキャロ? んな訳ないか。


「ルルにも伝えといてくれや」


 ええ、分かってましたとも。現実逃避してましたよ。


「しかし、俺はまだルーキーでして……」


「討伐の報酬、均等に分けただろ」


 あ、なるほど、そう来ますか……って、これはもうダメだな。


「お前たちは、二階の会議室で待ってろ。

 ルーキーは、急いでルルを連れてきてくれ」


 へいへい。しかし、何ですかね~、この展開は。俺の人生目標、くどいほど言ってるでしょ。くつろぎだって、ほのぼのだって、それに昼寝だって。

 何ですか、これは!? ここは、怒ってもいいところだと思うのよ。


「国王の指名依頼だと、さぼったりしたら確実に首が飛ぶからな」


 チェック(もうすぐ詰むよ)じゃなかった。チェックメイト(おまえはすでに死んでいる)だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る