第10話 ギルドマスター


 俺とルルがギルドに帰ると、受付は昨日と同じように混雑していた。


 もういいよね、昨日やっちゃったから。ためらわずにハゲマッチョおじさんの受付に行く。それを見た冒険者たちが、ぎょっとした顔をしている。

 敢えてこう言わせてもらおう。諸君、何でも慣れですよ、慣れ。


「おっ、坊主。

 さっそく依頼を済ませてきたか」


「はい、採集依頼です。

 よろしくお願いします」


 朝、受付で手渡された、木の札を渡す。


「白雪草か。

 いい判断だ。

 ここに出してくれるか」


 大男が、カウンターの上を指さす。

 ルルが、ポーチから白雪草の大きな束を取りだす。

 それを見た冒険者たちがざわつく。


「うおっ!

 俺、マジックバッグって、初めて見たよ」

「すげー、あれ、いくらくらいしたのかな?」

「金貨五十枚か、百枚か。

 まあ、所詮、俺らには縁の無いシロモノさ」


 ハゲマッチョの反応は、一味違った。


「おっ……ルル、もしかしてルルか?」


「はい、おじさま。

 お久しぶりです」


「うはーっ、変わるもんだなあ。

 最後に会ったときは、こんなにちっちゃかったのになあ。

 ふうー、ワシも年を取るわけだ……。

 雷神様は、お元気かい」


「はい、元気にしております。

 お城勤めが忙しく、なかなかギルドに顔を出せないと申しておりました」


「ガハハハッ。

 そうかそうか。

 マックがお会いしたがってたって伝えといてくれや」


 うは!  ハゲマッチョおじさんんって、完璧執事さんと知り合いだったか。

 しかし、マッチョとマックか、それほど違いはないな。ぷぷっ。


「ルル、このハゲマ……じゃなくて、この方のこと知ってるの?」


「はい、旦那様。

 ギルドマスターのマックさんです」


 えっ?!  今、なんてった?


 ◇


 その後、ルルと俺は個室に案内され、そこでマックにこれまでの経緯を話した。

 マックのことをよほど信頼しているのだろう。ある程度までは彼に話しておいた方がいいと、ルルが言ったからだ。

 点魔法のことは、話さなかったけどね。だって、恥ずかしいだけだし。


 マックは腕を組んでこちらの話を聞いていたが、聞きおえると次のように言った。


「ふむ、勇者パレードの陰でそんなことがな。

 で、坊主はどうしたいんだ」


「どうしたいって言われましても……。

 とりあえず、衣食住のためにも、まず先立つものが無いとどうにもなりませんから。

 依頼をきっちりこなして、生活を安定させようかと」


「国に頼ろうとせんのは、感心だが……。

 なんでも一人で背負しょいこもうとするんじゃねえぞ。

 表だっては何もしてやれんが、ギルドとしてもサポートするからな。

 なんせルルちゃんの旦那様だからな、ガハハハッ!」


 ルルさんや、今、赤くなったら、このおじさんの思うつぼですよ。


「ルルも結婚ねえ。

 嬉しいような、悲しいような……」


 結婚!?


「あの~、結婚って?」


 マックがルルの髪に挿してある花を指さす。


「うん?

 ルルにその花を贈ったの、お前さんじゃないのか?」


 いえ、それは確かに私が贈りましたが。


「この花を髪に挿すってのは、結婚の申しこみなのさ」


 うへっ!? 森でルルの髪に花を挿したとき、彼女が見せた反応って、そういうことだったのか!


「まあ、恥ずかしいなら、何も言わなくてもいいがな。

 言葉は無くとも、気持ちは伝わるってな、ガハハハッ!」


「と、ところでリーヴァスさんをご存じなんですか?」


 ここは強引にでも、話題を変えさせていただきますよ。


「知ってるも何も。

 リーヴァスさんは、この国では知らぬ者のない冒険者だぜ。

 ワシも小僧っ子の時分から、ずい分お世話になったもんだ。

 なんせ、伝説のパーティ『セイレン』のメンバーだからな」


「セイレン?」


「セイレンってのは、ルルが髪につけてる花の名でもある。

 パーティ・リーダーは、初代国王だぜ」


 うわっ、そんなことになってましたか! しかし、初代国王のパーティに入ってたって、どんだけ凄いんだよ、リーヴァス執事。


「その国王が、愛する女性のために花を捧げたのが由来でな。

 国の花、結婚を申しこむ花ってなったんだ」


 なるほどね~って、もう頷くしかないね、これは。


「ということは、今の王様は、初代国王陛下のお子さんでしょうか?」


「いや、初代陛下が亡くなられて、すぐに皇太子様も病でお亡くなりになってな。

 今の陛下は、初代の甥だよ」


 どうもマックの表情が優れない。豪快さが鳴りを潜め、苦虫を嚙みつぶしたような表情だ。


「さて、とにかくそういうことなら、明日からバンバンしごくぜ!

 お前に何かあったら、雷神様に申しわけが立たねえからな」


 いや、バンバンって……俺の一番大事なものは、くつろぎなんですが。


「お、そういえば、昨日ブレットのヤツと話してたな。

 何か誘いを受けたか?」


 マックが物知り顔で、こちらに視線を送る。

 どこで見てたんだ、このオヤジ。油断ならないなあ。


「はあ、まあ。

 討伐とうばつの荷物持ちをしないかってことでしたよ」


「お、いいな。

 確か明日は、例の討伐があったよな。

 ちょいと待ってろよ」


 マックはさっと部屋から出ていったが、すぐに戻ってきた。


「明日、朝一番でまた来い。

 ブレットにはワシから言っとくからな」


「え? 

 ということは、討伐参加決定と?」


「そうだ。

 なんか文句あるか?」


 その顔でにらむなよ。強面こわもてのギルドマスターに、逆らう勇気はございません。


「よ、よろしくお願いします」


「じゃあ、今日は、さっさと帰って寝な。

 今夜は、頑張り過ぎるんじゃねーぞ」


 言ってる途中で、ルルの方をちらっと見たよ、このオヤジ。それ、地球では、完全にセクハラですからね!


 こうしてマッチョなギルマスの勢いに押しきられ、ギルド入会三日目にして討伐に参加することになってしまった。

 俺の安らぎはどこへ?

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