第9話 聖騎士の森
俺とルルは、朝からギルドに来ている。
さすがに早朝ということもあり、冒険者は少ない。カウンターも一つしか開いていないようだ。
昨日いた受付の女性二人はいない。初老の小柄な女性が、一人だけ座っている。この世界にも、シフトってあるんだね。
ルルは、オリーブ色の長そでシャツに皮ベスト、腰のところには、ポーチと大きめの鞘入りナイフを付けている。下は、ハーフパンツにハイソックス、編み上げブーツを履いている。
なんか、
こちらは今日も頭に茶色い布を巻き、上は城でもらった室内着、下は学生ズボンだ。
靴は城でもらった茶色い革製のものだから、なんかチグハグだ。
後で服と靴を買っておこう。
ファッションにこだわらない自分でも、これはひどすぎる。
「旦那様、こちらの依頼がよろしいかと思います」
採集依頼:白雪草十本
場所 :聖騎士の森
報酬 :銅貨五十枚
期限 :二週間
ルルに依頼書を読んでもらう。
「聖騎士の森って、どこにあるの?」
「歩いても、街からそれほどかからないですね。
特に強いモンスターも出ない、安全な森です。
報酬は低いですが、最初の依頼ですから」
ですよね。欲張って、いきなり死んじゃったら意味ないもんね。
「じゃ、これでいこうか」
依頼書を壁から外し、窓口へ持っていく。
城下町周辺の地図も買っておいた。銀貨一枚って、約一万円でしょ。高すぎないか? すでに今日の赤字は決定だね。
町から森まで歩く道のりは、湖に向けて爽やかな風が吹き、とても快適だった。
聖騎士の森へは、三十分もかからずに着いた。ウサ子と出会った森より木々が低い。もしかすると、人の手が入った森かもしれない。
森の中は思った以上に明るく、ラベンダーを思わせる独特の芳香が漂っていた。
「この木は、『守りの木』と呼ばれています。
魔獣避けを作るのに使われるんですよ」
なるほど、魔獣はラベンダーに似た香りを嫌うのかもしれないね。
「もう少し入ったところに、ひらけた場所があったはずです」
少し歩くと、木々の間から草原が見えてきた。草原は、様々な草花に覆われており、日本ならさしずめハイキングコースになりそうだ。
ゆっくりと草をかき分けていたルルが立ちどまる。
「旦那様、これが白雪草です」
彼女が指さした所を見ると、草の間に白い可憐な花がある。茎の高さが、十五センチくらいしかない。草陰に隠れるように、ひっそり咲いている。
これを探すのは大変だな。
「よく見つけられたね」
「白雪草は丈が短いので見つけにくいのですが、こちらの黄色い花をつけた草の近くに咲いていることが多いのです」
さすが完璧メイド。
「花は根から採らず、この辺りを切りとってください。
そうすれば、また来年も花を付けますから」
「了解。
じゃ、手分けして探してみるか」
それから、草原で白雪草採集をおこなった。
これが、思った以上に面白い。黄色い花があれば、ほとんどの場合、白雪草も見つかる。だから、黄色い花が見つかる度にワクワクすることになる。
うおぉー、採集民族の血が騒ぐぜ。
夢中になっているうちに、かなりの量、白雪草が採れた。これは、元が取れてるでしょ。
「旦那様、そろそろお昼にしませんか」
ルルから声がかかる。
え? いつの間にお昼を用意してたの?
芝生のようになっている場所に布を広げ、即席のダイニングとした。
ルルが、ポーチからバスケットを出す。
あれ? それっておかしくない?
バスケットの方が、明らかにポーチより大きいよね。
こちらの視線に気づいたのか、ルルは少し恥ずかしそうにポーチの説明をしてくれた。
「このポーチは、マジックバッグです。
マジックバッグは、見かけより大きなものが入るようになっています。
これで、だいたい縦横高さ、私の背くらいのものが入ります」
それはすごいな。
「高価な物なんでしょ?」
「はい、とても。
これは、私が成人した時に、おじい様から頂きました。
なんでも若いとき、ダンジョンの宝箱から入手したそうです」
そう言うと、ルルは愛おしそうにポーチを撫でた。
おおー、ダンジョン! ダンジョン来たよ。って、それより完璧執事さんが、元冒険者とはね。人は見かけによらないね。
あれ? そういえば、今、成人って言わなかった?
「ルル、女性に年齢を聞くのは失礼なんだけど……何歳なの?」
「十六です」
えっ?! 一つ下?
「でも、成人って言ってたよね」
「この国では、十五で成人となります」
うへーっ! 今、聞いといてよかったよ。
成人してるからって、軽々しく大人の階段を昇っちゃいけないね。危ないとこだった。
ルルがポーチから出した水筒のお茶を飲みながら、二人でいろいろ話をした。彼女は、日本に興味があるようで、自動車やテレビの話をすると、目をキラキラさせて聞きいっていた。
陽が傾きだしたので、そろそろ帰ることにする。
お手洗いに行ったら、国の花が咲いてる所があったので、一つ摘んで帰る。
え、汚い手で? 綺麗な小川できちんと手を洗ってから採りましたとも。
待ってくれていたルルの髪に、花を挿す。
ブロンドの髪に薄紫の花が映え、とても綺麗だった。
ルルは、最初驚いたような顔をしたが、すぐに頬をピンク色に染め、お礼を言った。
「……ありがとうございます、旦那様」
うわっ! これ、やばいよ。さっき年齢聞いてなかったら、この草原で大人になっちゃうとこだった。
今日一日で、ルルとの距離が少し近づいたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます