第5話 勇者の余りもの
最高に盛りあがったところで盛りさげる。
ええ、俺です。史郎です。
でも、これって自分じゃどうしようもないじゃん。
「もしかして、すごい魔術を持っているんじゃないか?」
レダーマンがフォローしてくれるが、これってフォローになってるんですかね。
だって魔術師レベル1ですよ、レベル1。
「点……
黒ローブの小さな声が聞こえた。
点魔法って何よ。
あ、これか。視界中央に、青色の小さな点が見えている。
まあ、注意しないと見逃すね、こりゃ。
「えーっとですね。
視界に小さな点が一つ見えています」
「……」
「……」
「……」
静寂が辺りを覆う。
こ、怖いよ、誰か何か言ってくれ。
私、目が点になっちゃいますよ。お、うまいこと言った、俺。って、そんなことしてる場合じゃないよね。
「へ、陛下。
とにかく聖騎士、聖女、勇者誕生の祝祭を行わなくては」
レダーマン、ナイスフォローだが、俺はなぜだか悲しいよ。
「そ、そうだな。
とにかく祝祭の準備じゃ。
レダーマン、ハートン、よろしく頼むぞ。」
黒ローブのおじちゃんの名前は、ちょっとかわいいハートンちゃん、ってそんなこと言ってる場合じゃない?
ど、どうもすみません。
◇
その日の内に、俺を除く三人の居室が、王城本棟内に用意された。
つまり、今、ここ
ぽつ~ん。部屋が広いだけ余計に、ぽつ~ん。
まあ、のんびりできるのは、本望なんだけどね。どうするかな、これから。
臨機応変も何も、こんなことになっちゃうと、どうしようもないよね。
加藤たち三人は、すでにがっちり、取りまきに囲まれちゃってるし。
ただ、『王の間』から別方向へ分かれて退室する時、舞子がすがるような表情でこちらを見ていたのが気になるんだよね。
◇
じっとしていても始まらないから、とにかく動いてみることにした。
困ったときの完璧執事さん頼み、いってみるか。
メイドさんに、リーヴァス執事を呼んでもらう。
点魔法のことは隠し、『王の間』で起こった事を説明する。
話を聞き、しばらく目を閉じ考えていた初老の執事さんが、その目を開けると静かに話しはじめる。
「国にとって有用な能力を持たないお客様は、近くこの城からお出になるでしょうな」
さすが完璧さん。
でも、それくらい分かってるよ。
それから、「お出になる」じゃなく、「追いだされる」だからね。
「お客様は、苦境に立たされるでしょうな」
「何かアドバイスもらえませんかね。
俺、まだこの国の事すら、ろくに分かっていないんですよ」
「ふむ……お客様のために最善を尽くすのが執事の務め。
そうですな。
とりあえず、お客様にルルをつけましょう。
身の周りの仕事が減るだけでも、ご自身の行く末の準備がしやすくなると存じます」
え?
ルルをつけるってことは……。
絶妙のタイミングで、可憐なメイドが部屋に入ってくる。
「ルルや。
このお方のお世話をする覚悟はあるかな?」
「ございます」
きっぱりって、即答かよ。どうなっても知らないよ。大人の階段を昇りかけたの、つい昨日のことだよ?
もう、こうなったら覚悟を決めるか。
どうせ追いだされるなら、自分から出ていこう。
◇
身の周りの物といってもほとんどないが、地球から着てきた学生服は、綺麗に洗濯され畳んである。
というより、ルルが畳んでくれた。
上履きは、置いていけばいいよね。なにせ、もう泥まみれだし。
ルルが用意してくれた袋に数少ない持ち物を入れ、さあ出発、とドアノブに手をかけると、ドアがいきなりこちらへ開く。
「危なっ!」
て、加藤かよ。畑山さんと舞子もいる。
「あんた、どうする気なの?」
いきなり?
畑山先生、それは聞いちゃあ、はっ、ならねえよ~って……何させるの。
「いや、ちょっと散歩に行こうかと――」
「荷物持ってか」
加藤、いつものお前はどうした。その鋭さは、お前じゃないぞ。
いきなり腹にズシンと衝撃が来た。舞子が俺に抱きついていた。
「史郎君。
い、行かないで……」
涙をいっぱいに
ぐはっ。クリティカルヒット。もう、私のHP残っていませんよ。
「ま、なんだ、ちょっと別行動するだけだ。
必ず、お前らに会いに帰ってくるから」
まあ、嘘も方便と言いますからね。俺がこのままここにいては、三人の立場を悪くするだけって分かるから。
それに、いろいろ調べたいこともあるから、全くの嘘ってわけでもないし。
左手で舞子を抱きしめ、右手で頭を撫でてやる。これは、とっておきの必殺技で、舞子のおばあちゃんが亡くなって以来、使うのは二度目だ。
「本当だね。
本当に帰ってくるよね」
「ああ、本当だ」
その言葉に安心したのか、舞子はやっと離れてくれた。
「旦那様、そろそろご用意を」
って、ルルちゃん、ここで「旦那様」はないよね。こじれるの分かっててやってる?
「だ、旦那様ですって!
あなた、史郎君に何したの!?」
いや、むしろこっちがしちゃった方なんだけどね。
「あ~なんだ、俺はまだ土地に不慣れだろう。
だから執事さんが彼女をつけてくれたんだ」
「ボー、あんた、この
とにかく泣きじゃくる舞子をまた必殺技でなだめ、畑山さんからの冷たい視線は見ないようにして、加藤と向きあう。
「加藤、二人は任せたぞ」
俺と加藤なら、この言葉だけで十分なはずだ。
加藤は、珍しく真剣な顔でしっかりうなずいた。
ほらね。
「で、あの娘との関係は?」
やっぱり、加藤は加藤だった。
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