第13話 それは広い空でしかない

小さい頃から、病弱だった私は、ある時、病院内の中庭で私より一つ上の男の子に出会った。

その子は、確か、いつもは、病院の患者出入り可の屋上で座って空を見つめていた男の子だ。


「ねえ、そこの君」


男の子は、唐突な言葉を吐く。

私と男の子は、中庭のベンチにぽつりと座っている。

「今日は、天気がいいね」

それは、まるで人と喋るのが得意では、ない人のように、戸惑いながら喋りかけてきた。


「そうですね」


私は、あっさりきっちり返す。

「あのさ、空、好き?」

「いいえ」

「じゃあ、星好き?」

「いいえ」

「じゃあ、太陽、好きかな?」


その子供が大人に聞くような質問を繰り返す男の子は、まるで、私に対して興味を持っているようだ。


「最近、せいてん?が続いてて、俺は嫌だな」

「なんでですか?」


男の子は、笑って答える。


「だって、この空は広いだけだよ?」


それってどういうこと?



*



俺は、なんとなくいつものように、お昼休みに屋上に来ていた。

昨日の一件を、俺は考えていた。


「偽物ね」


本物とか偽物とかは、俺には関係がないことだった。

ただ、この場所で、妹といる空間が、なんとなく心地よかった。


俺は、屋上に寝転がり、晴天の空を見つめる。


「暑いな」


夏、それは、雨と太陽が交差する季節、そういつも思っていた。


俺は、両手の親指と人差し指をくっつけて、四角をつくる。そこに映る空は、ただ単に収まりきらない空だ。


「この空は、本物なの?」


なぜだか空に問いかける。

一人でいるこの空間は、この世界にきて生活していた時間とは、違く感じた。

まるで、俺一人になった気分だ。


「お兄ちゃんって呼ばれてぇ」


先輩って、呼ばれたい。

小野原くんと上から目線で、言われたい。

學!と元気よく、呼ばれたい。

小野原くんと照れながら呼ばれたい。


―――――これが、今の俺なんだ。


この空が、ただの広い空でしかないのと同じで、俺は、今。


単なる、偽物でしかない。


「どうしようもねぇのな、俺って」


願いが叶ったらその分の代償があると聞くが、それは、多分正しい。

努力は、報われてもなにか失うのが確かなんだから。


「それは、違う世界の俺でしかない。とでも言っておくか」



そうだ。俺は、この空のように、単なるがついてしまう状況に今、いるのだ。


なにも、できねぇよ、やっぱ。



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