第8話 初め
俺には、理解できない事が何か所かあった。
まず一つ目、この妹のいるようになった現実では、俺と妹の間になにかあった。二つ目、生徒会長に信用されている。そして最後三つ目、日常が大きく変化した。
この点から、俺は、こう考えた。
「神庭、ここって俺のいた世界じゃないよな?」
いるかもわからない神庭にそう告げた。
妹がいったあと、ふとそんな事を思い、そう言ったのである。
「おい、神庭」
簡単に言ってしまえば、俺の推測上、ここはパラレルワールドであるというものだ。パラレルワールドとは―――複数のもしもの世界のことである。
「神庭!聞け」
そう少し叫ぶと、神庭はいつの間にかいた。
「なんだ?我は、そこらへんのニートたちとは違い、暇じゃないんだぞ」
「質問に答えろ、ここは……」
少し間を空けて、
「パラレルワールドなのか?」
神庭はにやっとして、答えた。
「正解だ」
その言葉に悪意はなかった。ただ、なぜだか信用はできない声のトーンだった。
神庭は、そのにやっとした顔で喋り始めた。
「人ってのは、もしもってのを考えるんだ。君みたいに、もしも妹がいたらと考える人もいれば、もしもあの時の告白が成功していればと考える人もいる。だがそのどれもが、他のパラレルワールドでは、叶っているかもしれない」
神庭は、にやっとした顔から一変、真剣な表情になる。
「『たとえ、誰かが傷ついても』そう、この世界を作った人は、言っていたよ」
俺は、ごくりと音をさせて息を飲む。
今の神庭は、まるで―――人のようだった。
「この世界は、君のもしもでできたものでも、誰かのもしもでもない」
だったら?なんなんだ――
「この世界の答えは、君の傍にいるよ」
――答えないのかい!でも、
「でも、答えって、まさかこの世界は人工的に作られた。本当だったら存在しない世界なんじゃ」
その回答に神庭は目を眩ませ、そして笑う。
「君が、この世界に来た理由、それは、どうしてかな?」
その質問には、深みを感じた。
「妹がいる生活をするためじゃ」
俺の答えに、神庭は、
「じゃあ、どうして妹以外の人と関わっているんだい?」
それは、どうしてだろう―――『また、会えるよ。がっくん』そんな言葉がよみがえる。あれは、確か、えっと、なんだっけ?
「君の記憶は、あと半年でこの世界の君の記憶に書き換えられる」
嘘だ。じゃあ、さっきのは―――ゆ、ゆき?って誰だ。
「そんな、それじゃあ」
どうして?なんでこんな風になった。
「嫌だ!」
大きな声で叫んだ。なにも考えず。
「だから、君には選んでほしい、半年の間に」
選ぶ?なにを?なんのために?
「この世界に残って、妹との生活を送るか、元の世界に戻って、本当の生活をするかを、決めるんだ」
すべての言葉に重みがあった。
正しい道を選択するのは、俺ってことか?
なら、
「俺は、半年間ですべて見つけ出す。記憶も真実も、本当の生活ってのも」
その言葉には、男らしい俺ではなく、俺らしい俺が見えたと思う。
「じゃあ、始めようか、半年間だけの自分探しを」
「ああ」
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