3日目午後「冷静沈着」
半裸の男が一人、黄昏ている。
この神秘的な場所にそぐわない恰好が、ギャップを感じさせる。
―――俺は一体どうしたのだろう。
気付いた頃には緑の巨人がぶっ倒れ、泣きじゃくってた二人は居なくなっていた。
そこに転がってる巨人は、微動だにしなかった。
俺がやったのだろうか。
とても恐ろしかった覚えがある。
大きな人
というより、熊のような感覚だった。
少し状況を整理したい。
恐怖であまり覚えていないが、コイツに目を合わせたところまでは覚えている。
しかし、それ以降何も覚えてはいない。
気持ちを落ち着かせるため、少し移動をした。
得体の知れない巨人と一緒は、勘弁して欲しい。
そして、似たような場所に辿り着き、整理する。
簡潔にまとめると、マッチョのおっさんにあしらわれ、オナラで俺は異世界に転移した。
ということで正解なのだろうか。
いや、あまりにも無理がある。
そして、少年と、少女。
あの二人を見る限り、保護者とはぐれたか、子供に武器を持たせ、狩りをさせる文化があり、何か予想外の出来事が起きた。
そのどちらかだろう。
なけなしの思考力で、熟考する。
そして、俺が現れた時、2人は俺のことをオークと呼んだ。
この世界に来た際に、姿が変わってしまったのだろうか、しかし自分の腕や脚を見る限り、違和感は特に感じられなかった。
俺があの緑の巨人なわけが無いだろう。
それとも、2人が錯乱していたのだろうか。
しかし、2人が恐怖していたとはいえ、ここまでの相違点が見受けられる以上、あまり現実的には思えないので、その可能性は低いのだろうか、それともこの世界で日本の常識は通用しないのだろうか。
考えれば考えるだけ、疑問が湧き出てくる。
あと、帰り道どうしよう。
一旦思考停止する事にした。
暫しの深呼吸をした後、再び脳を再起動させる。
もう1つ気になる事がある。
俺の目に浮かんだ、文字。
日本語で、オークと書かれていた。
その真下に、Lv3と書かれていたが、その意味について、理解はできなかった。
そして、あの2人については、その文字は浮かび上がらなかった。
恐怖がそれを、呼び起こしたのか、はたまた偶然か。
と、そこで全体の80%以上が、タンパク質で出来ているだろう、と思われる俺の脳みそが、ついに悲鳴を上げながら停止し、再起不能になった。
まぁ、とりあえずスクワットだ、スクワット。
両足を肩幅程度に広げ、腕を頭の後ろで組み、膝がつま先より前にでないよう、配慮しながら、ゆっくりと下ろす。
イメージとしては体育座りをするような、そんな意識を持つとやりやすい。
お尻が、膝までくればハーフ、踵までいけばフルスクワットになる。
ハーフスクワットとフルスクワットの違い及び、それぞれのメリットは、簡潔に言えば、ハーフがお尻とハムストリングス(太ももの裏)フルが大腿四頭筋(前側の太もも)が主に負荷がかかる。
無論、正確に言えばどちらも脚全体に負荷をかけられるのだが。
頭の中で、自分にそのようにレクチャーしながら行う。
今回は、フルスクワットを行っている。
100回を超えたあたりから、大腿四頭筋が戯言を吐き始める。
そして150回ほどで、限界を迎える。
しかし、めげずに200回まで突き進む。
限界突破だ。
残業並みの辛さに、途中で投げ出したくなるが、正当な報酬が待ち構えているのが、我が社の残業との決定的な相違点だ。
全てを出し切り、その場に倒れこむ。
地面に生えている根や草が、背中を突き刺し、多少の痛みが走る。
しかし、それに抵抗するだけの力を残した筋線維は、もはや一本もない。
これぞ至福の時間。
幸せを感じながら、暫くの間男は、脳と共に身体まで停止させ、深呼吸を繰り返していた。
そして、意識が遠のいていく。
意識を取り戻し、筋線維が元気になる頃には、神秘的な光は幻想と化していた。
まずい、ここまで暗くなるとは予想外だ。
男がゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
見回す限り、闇であった。
幾分かの恐怖を覚えながらも、動かなければ状況は悪くなる一方だと思い、取り敢えず光源を探し歩き出した。
頼りない方向感覚を頼りに、獣道を進む。
時々あたる葉や木々が痛い。
時々射す月あかりが、唯一の懐中電灯だ。
暫くすると、やっと光源と言えるものに辿り着いた。
そこは、とても美しい場所であった。
おそらく日本には存在しないだろうと思われる、透明度の高い湖が、そこに座っていた。
その直径は100mに満たず、水深は、最深部で2mくらいに見える。
結構適当な憶測だが、そのくらいだと思う。
そこは、湖と呼べるほどの威圧感はないが、俺の知る世界より、遥かに神秘的であった。
浅いし、どちらかと言うと、泉に近い。
というよりここは泉なのだろう。
ふと、水面に映った自分を発見する。
そして違和感を覚える。
そこには、上裸の筋肉隆々な男が1人。
そういえば、服を着ていなかった。
公園で腕立て伏せをする際に、邪魔なので脱ぎ捨ててしまったのだ。
そして、もう一つ気づく。
俺は、緑の巨人などでは無かった。
やはり、俺はおかしくなかったのだ。
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