1日目午後「予想外」

テーブル席で、談合している男女がいる。


「今日はゴブリンを狩りに行こう!」


少年が目の前の少女に、意気揚々に提案する。


「決まりね」


少女はそれに応えるように、席を立ち上がる。


少年は少女と共に、カウンターに紙切れを運ぶ。


「頂戴します、ゴブリン退治で宜しいですね?」


少年の承諾と共に、受付の女性が手続きをとる。


二人はギルドを出て、街の門口の警備兵を横目に、1歩を踏み出す。


あまり広くない草原地帯を超え、森に入る。


木々をかけ分け進み、開けた場所、つまりギャップに出た。


そこで少年は鉄製の剣と盾を、少女はその後ろで木製の杖を持ち、何かを待ち構える。


再び木々をかき分ける音が聞こえた。


少年は、その音を聞き逃さなかかった。


盾を前方へ突き出し、音源へ飛びかかる。


その正体はゴブリンだと確信した少年は、幾分かの余裕を見せるよう態々剣を振り上げて見せた。


しかしそれはすぐに後悔に変わる。


緑色の小人だと思ったそれは、まるで相反したような、大きく逞しい肉体が姿を現す。


「なんでオークがッ」


少年は、緑色の巨人に振り上げた剣を叩きつけるが、岩の様な感触を覚えた後、弾かれた。


少女は足を竦め、嗚咽する。


オークと呼ばれるその生物が、手に持った木製の棍棒を振り上げ、それを叩きつけようとしたその刹那。


ギャップの真上から日光が降り注ぐ。


それはとても眩しく、神秘的であった。





―――――――


「上裸で子供を嘱目し、上下に揺れていたとの事ですか」


俺はお巡りさん(笑)に、事情聴取と言う名の罵声を浴びせられた後、親子に頭を下げる羽目になった。


そして、二つの反省をした。


1つ目、下げるの大胸筋だけで十分であった事。


2つ目、「腕立て伏せをよくも馬鹿にしたな、覚えていろ」つまり、そういう事。


大いに反省した俺は、生まれ変わる事を決意。


俺の本名「塚円つかえん絵馬夫えまお」なんて名前はもう捨てる。


筋肉を愛し、人の痛みを分かち合う寛大な男。


今日から俺は筋肉きんにく痛夫いたおだ。


見事生まれ変わった俺は、再びベンチに座り今後の生活を練る。


が、まだ17回残っている腕立て伏せを消化しなければならない。


立ち上がり、地に手をつき、ベンチに足を乗せ、深く息を吸い込む。


先程の様に、ゆっくりと胸を下ろしたその瞬間。


俺は急に強くなった日光と共に、宙に浮いた。


そう、浮いたのだ。


肘を曲げ、頭から足先まで一直線の姿勢のまま、上裸の男が浮いている。


素晴らしい、これで3度目のゲームオーバーだ。


コンテニューなど存在しないがな。


眩しく、そしてどこか神秘的な光に包まれた俺は、目の前が真っ白になった。

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