1日目午前「失業」

ついにこの時が来た。


人生で最高の瞬間だ。


「明日からは、もう来なくていいよ」


一ヶ月前の宣告が、ついに満ちた。


俺は解雇されたのだ。


「クソ食らえ、2度と来るか」


会社と蒼天を背に、歩き出す。


向かう先は、我が社から徒歩5分の公園。


自然に満ち溢れた、心が落ち着く素晴らしい場所だ。


俺の鬱積が落ち着くことは無かったが。


理不尽


残業


差別


この三拍子揃った素晴らしい企業を、去らなければならないのは非常に非常に非常に不本意である。


我が社の強みについて熟考していたら、いつものベンチに座り込んでいた。


気を取り直し、失業保険を頼りに今後の生活を練る。


が、その前に一服。


立ち上がり、地に手をつき、ベンチに足を乗せ、深く息を吸い込む。


腕立て伏せ100回


名残惜しささえ感じさせるこの鬱積を、汗と共に流す。


一回を噛み締めながら、顎を上げ、胸を深く沈め、ゆっくりと、丁寧に押し上げる。


至福のひと時である。


50回を超えた辺りだろうか、そこへ一組の親子が見えた。


俺はその幸せそうな様子に、些か羨みを覚える。


俺にはろくな出会いがなかったからだ。


だが、お財布にされる日々はもう御免だ。


だから嫉妬などしない。


人様が何をしようが勝手なのだ、自由なのだ。


澄まし顔でプッシュアップを続けると、子供がこちらを凝視。


親は慌てた様子で、誰かに電話を掛ける。


呆ける自分


泣き出す子供


睨む親


駆け込むお巡りさん


再び人生の絶頂を迎えた俺に、自由などなかった。

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