第61話

岩崎があっけにとられて見ていると、その触手が物凄い勢いで伸びてきた。


今は岩崎のすぐ目の前に白くて血の気がなく、まるで仮面のような女の子の首がある。


首は口をもぐもぐさせていたかと思うと、無造作に何かを吐き出した。


地に落ち、懐中電灯の光に照らされたそれは、二つの球体だった。


確認するまでもない。


人間の目だ。


おそらく北山の。


触手が縮み、女の子の首は化け物のすぐ前に移動した。


そして裂け目ともしわともつかないものが、一斉に開いた。


そこにあるのは数多くの巨大な目玉。


その大きな目は恐ろしいことに人間の目に、あの幼い女の子の目にそっくりだった。


そして同じく数多くの巨大な口があった。


こいつは目と口が身体全体にあるのだ。


口は人間一人ぐらいなら余裕で飲み込むことが出来るほどの大きさがあり、中には鋭い牙が幾重にも生えていた。


それはこいつが、何処からでも得物に喰らいつけることを意味している。


あまりにことに身動き一つ出来ないまま岩崎が見ていると、そいつが動き出した。岩崎に向かって。


――!


その時、後方から強い光が差し込んできた。


振り返ると大型トラックのヘッドライトと思われる二つの光が、こちらに向かって来ていた。


クラクションが二度鳴らされた。


岩崎は慌てて山際に逃げた。


運転席から、あんなにも大きな化け物が見えないわけがない。


普通なら驚き、反射的にブレーキを踏むことだろう。


しかし最初から山道とは思えないスピードを出していたそれは、止まるどころか明らかに加速してそのまま化け物に突っこんでいった。


――えっ?


重くて大きな衝撃音が響いた。


見ればトラックが真正面から化け物と激突していた。


――タンクローリー?


岩崎がトラックと思っていたものは、大型のタンクローリーだった。


胴部に岩崎が行きつけのガソリンスタンドで見かけるのと同じロゴが描かれている。


状況が理解できないままに岩崎が見ていると、少しの間の後にタンクローリーのドアが開き、男が一人転げ落ちるように降りてきた。


男はこっちに向かって走りながら、叫んだ。

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