第60話
少し遅れて北山がその後を追った。
下っている上に土は柔らかく、ともすれば足を取られがちだ。
草や木の根や石だらけで、森林だから木もたくさん生えている。
走りにくいこと、この上も無い。
それでも走るしか選択肢はなかった。
止まれば終わりだし、転んでもおそらく後はないだろう。
岩崎は感じていた。
何かが自分たちを追ってきている。
今までの人生において一度も遭遇したことがない、想像もつかないほどの恐ろしい何かが。
「うわっ」
唐突に後方から、北山の声が聞こえた。
岩崎は一瞬振り返ろうとしたが、とてもそんな余裕はなかった。
今無理に振り返えれば、間違いなく転倒する。
もしそうなれば……。
その先は考えたくもなかった。
岩崎は何かを考えると言う行為を完全に放棄した。
とにかく走り続けた。
すると突然、平坦で硬いところに出た。
県道だ。
この県道は蛇行しながら山を登っている。
山の傾斜を下れば、何度も県道に突き当たるのだ。
角度のある柔らかい地面を走っていた岩崎は、急に平坦になった硬いアスファルトに出たことによってバランスを崩し、飛び込むように地面に倒れてしまった。
――痛い。
膝、肘、手のひらなどいろんなところをアスファルトに叩きつけた。
何とか起き上がると、目の前にそいつがいた。
県道の街灯を浴びて、その姿がはっきりと見えた。
そいつについてずっと考え続けてきた岩崎の想像のはるか上を行く、人外の化け物が。
そいつは県道に沿って横たわっていた。
その造形から受ける印象は、芋虫だった。
その直径が三メートルほどあり、その長さが二十メートルはあるだろう。
黒光りする身体全体に、亀裂ともしわともつかない裂け目のようなものがいくつも走っている。
先端には長く細い触手のようなものが生えており、その先にあるのはあの女の子の首だった。
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