第59話
岩崎の目の前に。
真っ白い幼い少女の顔が。
「うわっ」
思わず情けない声を発してしまった岩崎とは対照的に、北山はすぐさま無言で猟銃を構えて、発砲した。
弾が女の子に当たったのかどうかは、わからなかった。
はっきりしていることは、それまで岩崎を見ていた女の子が、北山を見たということだ。
ずずずずず
何か大きくて重いものが移動しているような音が聞こえた。
すると女の子の首が、後方にすっと消えた。
岩崎は遅ればせながらとりあえず、棍棒をしっかりと両手で握り、上段に構えた。
北山は猟銃を下に置くと、右手にダイナマイト、左手にはライターも持ち、その姿勢で待機した。
ずずずずず
再び何かを引きずるような重い音がした。
しかもそれが確実に近づいてくる。
音のする方向を見ていると、突然女の子の首が再び岩崎の前に現れた。
そしてすぐ目の前にあったそれは、上方に急上昇したのだ。
――えっ?
次の瞬間、岩崎は身体に強い衝撃を向けた。
岩崎は吹っ飛ばされて、山の傾斜を転がり落ちた。
しばらく転がり続けたが、やがて止まった。
止まったところは、山を縫うように縦断している県道の上だった。
少し遅れて、北山が転げ落ちて来た。
岩崎と同様にアスファルトの上で止まり、少し呻きながら起き上がり、言った。
「ダイナマイトが!」
北山の手にダイナマイトはなかった。
下に置いていた猟銃も、もちろんない。
岩崎が持っていた棍棒も、衝撃を受けた際に手放していた。
つまり武器はない。何一つないのだ。
ずずずずずずず
また音がした。それはこちらに向かって来ていた。
「逃げましょう」
岩崎はそう言うと、山の傾斜に向かって走った。
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