第58話
「そんなの決まっているじゃないですか。向こうが来る前に、こっちから仕掛ける。やられる前にやるんですよ。それしかありませんね」
そう言うと北山は笑った。
むこうがこっちを見つけるより前に、先にこっちが向こうを見つけて、猟銃とダイナマイト、ついでに刃物つき棍棒で攻撃して仕留める。
そうすることは決まった。
それについては二人とも異論はないのだが、向こうよりも先に見つけるための具体的な作戦と言うものは、特に何もなかった。
「そういう気持ちがあるかないかで、いざと言うときにずいぶんと違ってくるもんなんですよ」
と北山は言う。
この老人と言っていいほどの男は、これだけ追い込まれている状況にもかかわらず、何故だか少し楽しげである。
敵がある程度ではあるが明確になったので喜んでいるのか、全く先が見えない状況だったのがどうやら短期決戦になりそうなのが嬉しいのか。
あるいは岩崎が想像できないような理由が別にあるのか。
それは岩崎にはまるでわからなかった。
わからなかったが、そういう北山はやけに頼もしく見えた。
それはそうだろう。見るからに腰が引けているやつと、鼻歌でも歌いだしそうな人間と、どちらを頼りにするのか。
そんなことは考えるまでもないことだ。
昨日と同じく懐中電灯とライトで照らしながら、山の中をもくもくと進んだ。
宣戦布告をした以上、あちらが真っ先に仕掛けてくることも頭に入れておいたのだが、それはなかった。
「少し休みますか」
飽きるほど歩き回ったころ、北山がそう提案してきた。
岩崎は同意した。
疲れていたからだ。
二人で用意した水分、おにぎり、バナナなどを口にふくんでいると、不意に何かが聞こえてきた。
「……」
「……」
お互いに顔を見合わせ、同時に神経を耳に集中させた。
鳥の声? 小動物の鳴き声?
聞いてみてもそれが何かはわからなかった。
わかっていることは、その声がこちらに近づいてきているということだ。
――夜行性の野生動物じゃないのか。
岩崎はそう思いたかった。しかしそうではないということがわかるまでに、それほど時間はかからなかった。
――女の子の声?
そう思いついた途端、いきなりぬっと現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます