第3話

そして次に、それはいったいどんな男なのかという話題の真っ最中に、ちょっとした事件が起こった。


近所のスーパーでママ友たちが集まって買い物をしている最中に、ふらりと神城がやって来たのだ。


ママ友たちは「こんにちは」「ここのところ寒いですね」「まだ産まれないんですか?」「お腹が大きいと、なにかと大変でしょう。一人住まいですし」などと全員で逃げられないように取り囲んで話しかけ、みなでここぞとばかりに神城の腹を触ったのだそうだ。


神城はその間、無口無表情を貫き通し、抵抗するだの逃げ出すだのといった動きは、いっさい見せなかったと言う。


そしてなんの遠慮もなく腹を触った主婦たちの言うことは、一人残らず一致していた。


それは「本物の妊婦の感触としか思えなかった」と。


偽妊婦説は木っ端に消え去り、先の流れもあってか「父親は誰なのか」「何故一人で住んでいるのか」「どうしていつまで経っても赤ん坊が産まれないのか」と言う話が中心となった。


特にいまだに赤ん坊が産まれないのは主婦を含めた近所の人たち全員が不思議に思い、その話題が尽きることはなかった。


そして信じられないことに噂の赤ん坊が産まれたのは、年を越えて春が過ぎ、初夏に入ったころであった。


最初、七、八ヶ月くらいと言っていたころから、さらに十一ヶ月が過ぎていたのである。



赤ん坊が産まれたといっても、誰かがその赤ちゃんを見たわけではなかった。


神城の異常なまでに膨れ上がっていた腹が、小さくなっただけだ。


六月のある日、神城の姿が見えなくなったのだ。


普段からその姿を見かけることはほとんどないのだが、今回はいつもと様子が違っていた。


まず神城の車が見当たらなくなった。


そして夜になっても家に灯りが点らないという日々が続いた。


どう見ても家を空けている状態で、そのまま十日ほど経ったある日、神城が突然家に帰ってきたのだ。

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