第015話 突破口を
「俺たちには分からなくても、元デモニアのアイツなら何かわかるかもしれない……呼び出すぞ」
「う~、逃げた方がいいと思うけどな~」
「それでダメなら逃げるさ。そんじゃ"召喚"するぞ。カイル! そのアンデッドのことが分かりそうな奴を呼び出すから時間を稼げるか?」
「何っ!? よし、わかった! だがなるべく早く頼む!」
"召喚"とは、どんなに離れていても配下を呼び出すことができる彼の魔導書そのものにある機能だ。
ただ、呼び出した相手は用が済んでも"召喚"された場所に留まるのため、重要な仕事を任せている配下などを呼び出す際などには気を付ける必要があった。
シュウが魔導書を開き"召喚"を行う。すると彼の目の前に魔方陣が現れると同時に、そこからワイズが浮かび上がるように現れた。
「おやおや、何か御用ですかな?」
「ああ、お前の知恵を貸してくれ。デモニアの魔術師が怪しげな魔法を使ってセリアンとアンデッドを合体させたっぽい。種族名はリカージョン・サージェント。"浄化"の効かないアンデッドと思ってくれ。今わかってるのはそんな所だけど、何かいい対策はないか?」
時間が惜しいため
説明が理路整然としていない雑なものであっても、そこに必要な情報さえ含まれてさえいれば、優秀な聞き手は適切に状況を把握するからだ。
「ほう! それは実に興味深いですな! くっ、その魔法を実際に見れなかったことが悔やまれます!」
「ああもう! こうなるかもとは思ってたけど、頼むから興奮すんのは後にして今は何か有効な対策を考えてくんねえかな!?」
魔法のことになると自制がなくなる──それが数少ないワイズの悪癖の一つであった。
「これは失礼しました。ふむ、"浄化"の効かないアンデッドですか。セリアンとアンデッドが合体……デモニアの魔術師……私のようなレイス系になるためのあの儀式とも様子が違う。何か他に情報はありませんか? 例えば呪文の単語だけでもいいので……」
「あー、何だっけか……」
(駄目だ、奴らの会話もうろ覚えで具体的なことは何も思い出せねえ。クソ、何で俺はこんな重要そうなことを覚えてねえんだ!)
デモニアたちの呪文には意味があったように思うが、不確かな情報ではワイズを無駄に悩ませるかもしれない──そんな考えがシュウを
しかし、そんな彼をフォローする者がいた。普段はシュウに羽虫呼ばわりされているあの彼女だ。
「遠くからしか見れなかったけど、魂の
「おいソフィ……俺は初めてお前のことを凄いと思ったぞ。お前って意外と賢いのか?」
「それって酷くない!?」
「なあワイズ、何かヒントになったか?」
「そして無視!?」
「イモータル論に魂ですか……なるほど……となれば」
ソフィの言葉に心当たりがあったのか、ワイズは手を口元に添えて記憶を呼び起こすような姿勢を取る。
「どうだ、何か思いついたか?」
「もういいよ……」
今のシュウにソフィの相手をしてやる余裕はなかった。それを感じ取ったソフィも早々に褒めてもらうことを諦める。
「確証はありませんが……あのリカージョンとやらは、ファーゼンが唱えた理論に手を加えて生者とアンデッドを融合させようと試みたのだと思います。まあ、その理論はすでに提唱した本人の手によって否定されているため高が知れていると思われますが……」
「と言うことは何かいい手があるんだな?」
「まあ、そうですね。あの融合生物は端的に言えば生者と亡者両方の特性を持ち合わせています。"浄化"で完全に消滅しなかったのは生者の部分がそれを防ぎ、肉体が復活したのは亡者の特性が働く。つまり、生者と亡者、両方の弱点を補完し合っている状態ということです」
「……結局それだと無敵ってことにならねえか?」
「補完し合っている内はそう言えるでしょう。ですが補完ができない状態になればその限りではありません」
「ほう、例えば?」
「同じファーゼンのイモータル不完全論を
「……なあ、それは俺たちにできることなのか?」
ワイズの説明を完全に理解できないながらも、シュウはそれが自分やセリアンたちには到底無理であると感じた。
(この世界に来たばかりの俺は当然として、獣人たちもなあ……アイツらはどう見たってお勉強が好きなタイプには見えないし、力こそパワーとか言い出しそうなタイプだろ)
「その点はご心配なく。セリアンたちには肉体的欠損を与えることしか求めません」
「おい、その言い方だと俺には別のことを求めてるように聞こえるぞ」
「ええ、その通りです。魂の分離という繊細な作業なるため、魔法結界も私が並行してというのは難しいのです。ですから必然的にマスターにはソフィさんと一緒に魔法結界の構築をお願いすることになりますね」
「「マジでえ!?」」
「はい、マジです」
断ろうにも状況がそれを許さない。シュウとソフィは苦悶の表情でワイズの提案を受け入れるしかなかった。
「ちなみにだけど……その結びつきが弱まる瞬間ってのはダメージを与えて向こうの体が煙になる前か? 煙になるとすぐに体に戻って回復したんだよな」
「ええ、その瞬間で間違いありませんよ。さすがは我がマスター、これなら結界の構築も余裕ですね」
「ハハハ……すげえシビアなタイミング。頼んだぞ、ソフィ」
「ハハハ……大丈夫、あくまでも私は補助でメインはシュウだから失敗するわけないよね」
「「アッハッハッハ……ハァ」」
ワイズのかなり無茶な注文は、シュウとソフィの息を合わせるという非常に珍しい現象を引き起こした。
「なあ! そろそろ何をするのか教えてくれないか!? こっちもいつまでも耐えられるわけじゃないんだからな!?」
カイルたちは、盾役を交代をしながら何とかリカージョンを凌いでいた。これ以上の時間の損失はジリ貧なのは誰の目にも明らかであり、カイルも声に焦りを隠すことができなくなっている。
「カイル! 取り合えず突破口が見えたぞ。だから頼む。もう一度ナーガの攻撃を奴にぶつけてくれ!」
「そうか! よし、任せろ!」
突破口が見えたと聞いて兵士たちの気力も回復したらしい。盾隊は声を張り上げ下がり始めていた士気を立て直した。
「「「「「さあ、来おおおい!」」」」」
リカージョンの攻撃は一撃が重かったが、知能が低下しているのか頻度はそれほど高くなく単調であったのが救いである。
しかし、次の攻撃は今までのような単調で直接的なものではなかった。魔力を溜めた大剣を振るいながら"斬撃"を乗せた"土魔法"を放ってきたのだ。
(ヤバい!)
今度こそ盾隊が潰された──魔法を放たれた瞬間にシュウは諦めかけてしまったが、事態はそれほど悪化しなかった。そう彼はまだセリアンたち力を見誤っていたのだ。
「「「「「ド根性ー!」」」」」
彼らはその言葉通り、
「ナーガ!」
そして、透かさずカイルの指示で動いたナーガが光散弾をリカージョンへとお見舞いした。
「よし……シュウ!」
カイルたちはコチラの要望を見事に果たした。ならば次はシュウたちの番──
「よし、次は俺たちだ。行くぞ、ワイズ、ソフィ!」
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