第9話
ユーディアライトはカノンのかけ声に応じるが如く、彼女の操作に従う。
全身に取り付けられたブースターを起動し、跳躍。推進装置の補助もあって、その高度は瞬く間に建物の外へと跳び立たせる。
「……! カノン、七時方向に大型獣魔の反応を検知。かなり……大きい個体だ」
「あちゃー、案の定来ちゃったか。オッケー、すぐに行く!」
初めて見る外の世界は緑が一面に広がる自然豊かな光景だが、今はそれに感動を覚える暇はない。
何故ならば、建物を出た瞬間に手前の画面には小型獣魔が呼び出した大型の獣魔の存在を示されているのが原因。モニターの表示を見る限り、その大きさは四十メートルを越える。フェイト自身が知る獣魔の情報の中では最大級と言っても差し支えのない程の体躯だ。
一体どこからあの巨体が現れたのかは定かではないが、下段のカノンはそんな情報に臆する様子は一切見せていない。それどころかやる気十分といったところか。
ホバリング状態にあったユーディアライトはドームの屋根に着地させると、すぐに行動に移る。
「なるほどー。呼び出しに応じた獣魔は牛型か。正直このタイプは苦手だから、ちょっと本気出さないと」
接近してくる方向に機体を向けると、初めて獣魔の姿を視認したカノンがぼそりと呟く。
ここでフェイトも初めて肉眼で獣魔の姿を確認する。牛と呼ばれる動物の体型をベースに緑の蛍光色の甲殻を纏わせた外観は、まさに大型獣魔らしい難攻不落さを醸し出している。
「フェイト君」
「な、何?」
「行けるよね?」
「……! うん!」
「その心意義や良し!」
不思議と負ける気はしなかった。それどころか絶対に勝てるとも思えている。何の根拠もない自信という自分自身の気持ちに初めて出会えていた。
再び推進機に出力を入れ、機体は跳躍する。高いジャンプ力を誇示するかの如く、機体は一気に獣魔へと肉薄した。
「フェイト君! レバースイッチ01!」
「っ、これか!?」
インテリアは
両腕の装甲に折り畳まれていた爪状の武器が展開され、そのまま獣魔の表皮に突き立てる。これは先ほどの小型獣魔に致命傷を与えた武器だ。
しかし、いくら獣魔に致命傷を与えたことのある得物であっても、全ての獣魔にまで通じる訳ではなさそうである。現に突き立てた刃は先端のわずかな食い込みで終わっており、甲殻の貫通とまではいかなかった。無論、効いている様子も見せず、悠々とドームの方へ向かっている。
「硬い……!」
「まだまだ! 私の
敵の堅牢さに怯むフェイトだが、
ユーディアライトは右腕の爪を引き抜くと、その少し上の部分に再び突き立て、今度は左の爪を先ほどと同様の動きを交互に繰り返して獣魔の体を登っていく。
そのまま頂点にまで達したユーディアライト。そこから見える周囲の景色は壮観ではあるが、如何せん動く生物の上。揺れが酷い。
「つ、次はどうするの? 相手が硬すぎて爪は効いてないけど……」
「安心して。このユーディアライトは近接戦闘がメインじゃないのよ。フェイト君、左の操縦桿にあるカテゴライズキーを押したまま『11318』って入力して」
「こ、こう?」
言われた通り、揺れる機体の中で数字を入力。すると目の前の画面に『AMR』という何かの略称と思われる文字が表示された。
そして程なくしてそれは現れる。
「ん? これは……えっ!?」
「おーし、今回はきちんと正確に来れたみたいね」
どこからかともなく『AMR』の表記がなされた正体不明の何かが機体に向かって飛んできたのを画面は表示してくれた。どうやらカノンはそれの正体を知っているようではあるが、フェイトには何が来たのかはさっぱりである。
「武器の接続準備よろしく! 私はあれを取るから!」
「えっ、武器? あれが?」
そう言うとカノンは機体を動かしてやってくるロケット状にも似た謎の物体──彼女曰く武器──を受け取る姿勢を取り、フェイトが若干の混乱をする次の瞬間には……。
「せーぇのぉッ!」
近付いてきたそれに向かって、カノンはユーディアライトを跳躍させた。それもブースターの補助無しでのジャンプ。それなのに機体はかなりの高さを跳び、そしてそれを掴む。
がこんっ! という何かが外れる音が鳴った時には機体はすでに降下を始めており、数十メートルもある高さから自由落下していた。
「ちょ、何してんの! 早くホバリング状態にしなさいよ!」
「あっ、うん!」
流石にブースターの補助無しで受ける落下の衝撃は危険なようで、カノンからの注意を受けてしまう。咄嗟に出力を上昇させて着地出来たが、それでも衝撃は完全には殺しきれなかった。
身体に受ける衝撃に耐えつつ、ユーディアライトが手にした物を確認する。
「痛っう……。もう、出力とかは全部任せてるんだから、気を付けてよね」
「ご、ごめん。それよりも、これって……!」
「そう、これが私の本当の得物。──対大型獣魔専用アンチ・マテリアルライフルよ」
キーの入力で召喚したのは、獣魔用の対物狙撃銃。全長約十メートルはあろう巨大な兵器だ。
一体これはどこから飛んできたのだろうか。そんな疑問が浮かぶも、喚び出し指示をした本人は構わずそれを装備。慣れた動作で射撃体勢を取る。
「いい? これはそんじゃそこらの兵器とは違ってかなりのじゃじゃ馬武器で、調整が圧倒的に難しいわ。おまけにさっきの輸送ロケットの衝撃に耐えられる強度と威力がある代わりにリロードや射撃までの待機時間が長い上に連射も出来ない。使いづらいけど、我慢して」
「う、うん……」
後部から降りてきたゴーグルを付けて出力の調整に移るフェイト。下段のカノンも同じようなゴーグルを付けて射撃に集中し始めた。
視界は上半分が固定された希望着弾地点。下半分はカノンが実際に狙っている照準視点となっており、ゆらゆらと揺れ動いている。その周囲にはエネルギー充填率やリーディング時間などが表記されており、フェイトの役目はこっちだ。
マテリアルライフルの操作は補助側としてもすでに経験済み。やり方は分かっている。操縦桿のレバーを徐々に握り締めて、メーターの位置を微調整していく。
集中。狙うは獣魔の内部、その臓器。いくらあの巨体であっても、中身を攻撃されてしまえばひとたまりもない。
カノンは言った。自分についてくれば今まで疑問に思ったことを全て教えてくれると。
だから乗った。
しかし、それと平行して思うこともある。それは自分が裏切ったFHKのこと。
巨大獣魔の到達地点、FHKのドーム。今のあそこにはまともに戦える兵力はない。
カノン曰く、箱に閉じこめられた生き方を強要してきた組織とはいえ、あそこには521番がいる。彼女だけでなく、これまで十五年間を共にしてきたチルドレンたちがいる。
故に、彼女らを見殺しには出来ない。一度燃え上がった大人への悪意は、他のチルドレンに向くことはなかった。
「──今だッ!」
刹那、下画面が上の照準に重なった瞬間、カノンはそのトリガーを引いた。
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