グレムリン4
「セラちゃんが鬼ね!」
え? え? と困惑するセラを残し、みのりちゃんが居間から駆け足で出ていく。セラは僕と風花の顔色を順番に伺う。他人の家を勝手に散策することを遠慮しているのだろう。僕と風花はなるべく笑顔を心掛けて頷いた。
「自由に探していいよ」
「ごめんね? 遊んであげて」
「あ、ありがとうございます」
セラは目をつむり、しゃがむと、「いーち。にい。さん。しい」と小さな声で数を数え始めた。
「どうしようかねぇ」
数え終えて、みのりちゃんを探しに行くセラを見送りながら思わず呟く。
「手も足も出ないとはこのことよね」
「雪だるまだけに?」
「雪女です!」
「ちょっ! 声が大きい!」
風花が顔を赤くして叫ぶ。部屋の温度が低下しないことから、風花が本気で怒っているわけではないとわかる。
金髪の少女についてわかったことは、名前が橘セラフィということ。
どうやら母親とはぐれてしまったらしいということ。警察はどうしても行きたくないと言うこと。
こっそり電話するといった方法も考えたが、警察に届け出られない理由がまったく予想できないので一端保留という形にしたほうが良いとは風花の提案。
やはり妖怪視点からすると警察はまずいという場面があるらしい。
(セラちゃんは妖怪じゃないと思うけどなぁ……)
こういったトラブルの時に家に大人がいない状況の不便さを痛感させられる。
どうしようか? どうする? という不毛な問いかけ合いを二人で続けていると玄関の戸の開く音がした。
意味のない話し合いの間にかくれんぼの鬼は一回交代した。笑顔のないセラが、はしゃぐ少女と対照的だった。
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「で、探し人は見つかったの?」
迷惑にも再び我が家を訪れた浩二、に尋ねる。
「いや、みつからねえ」
浩二は、隣の部屋で遊ぶみのりとセラへと視線を向ける。心なしかその注意はセラへと傾いているように思われた。
「あの子は?」
「迷子」
「警察は?」
「うーん。拒否されたんだよね」
隣に正座する風花に、アイコンタクトで同意を求める。
「はい。なんだか事情があるみたいで……」
先ほどのセラに対する視線が一瞥であったなら、今度は観察というべきだろうか。浩二はもう一度セラを見た。
うーん。あー。と浩二が腕を組み、何かに悩むように唸りだしたのに対して、僕と風花はと向かい合う。どうしたの、と言った風に首をかしげる風花に首を横に振ることでこたえる。
この男は勝手に何かを解決し、そうして導き出した道筋に向けて周囲を巻き込み行動する。質が悪いのは、その行動は往々にして事態を好転させる。だから振り回される僕らは、今回もまたいつものように、浩二の思惑通りに動くのだろう。
いや、今まさに何らかの思惑の上に動いているのだろう。風花が僕の家に来たのはこの男によるところが大きい。今しがた風花と浩二の会話で確定した。
またしてもこの男の手のひらの上に! そう忌々しさを感じる一方。
よくやった! 偶には役に立つじゃないかという気持ちもある。
この世には切る事の出来ない人間関係というものがある。
こいつとは付き合っていられないから、縁を切る。と単純には決断できないのが常の世だ。そんな世知辛い状況の中で、より多くのメリットを享受する、あるいはデメリットを最小にするにはどうすればいいのか。
悶々と考えていると。
「どうしたの?」
と風花に顔をのぞかれる。
「ちょっと世渡りについて考えていた」
「百面相みたいになってたよ?」
「次は千面相を目指すよ」
「ちょっと意味わからないかな?」
「今のは自分でもちょっとひどいと思う」
風花が空になった浩二のグラスに麦茶を注ぎなおすと、二秒と経たぬうちにそれが飲み干される。浩二はグラスを勢いよく机に置き、言った。
「決めた」
「なにをさ?」
意識して嫌そうな顔をして聞き返す。動作と言葉、両方に対する抗議の意味を込めた。口に入れた食べ物が痛んでいた時の表情金の動きを思い出すことを意識した。
しかし、僕の努力は虚しく、全く意に返した様子がない浩二が言った。
「とりあえずあの子の面倒はお前たちが看ろ」
「は?」
「え?」
セミと、みのりちゃんの声の中に、僕らから抜けて出た音が取り残された。
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