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ぼんやりした頭がひんやりとした感触に違和感を覚えて意識が戻っていく。

目を開けると青い髪の女性が目に入った。

「大丈夫?まだ寝てていいわよ」

頭が酷く痛むため眠りたかったが、頭に湧き上がる疑問に飛び起きる。

「みんな、どうなった?」

混乱する頭でようやく捻り出した言葉だが、シェリーに体を押し戻された。

「駄目よ、無理に起きないで」

「……シェリー、大丈夫なのか?」

「うん、あなたのおかげ。フギンもアネットさんも無事よ」

「そうなのか……」

断片的には覚えていた。

身を焦がすような怒りと獣を切り伏せた感触、

固い何かを握りつぶした感触。

……余り思い出さない方がいいだろうか。

「怪我はいいのか?」

「あなたが一番酷かった。私たちは大丈夫」

ブロードは一人だけ半日近く長く眠っていたのを知る。

「起きたのですね、ブロード」

アネットが手に盆を持って歩み寄ってくる。

食欲をそそる匂いがした。

「食べる!」

「まだ聞いていませんよ」

アネットは苦笑しながらも上半身だけ起こしたブロードに盆を手渡した。

軽く炙ったパンに野菜スープ、焼いた干し肉だ。

携帯食に手を加えてそれらしくしただけのものだが、何しろ腹が減っていた。

スープを飲み干し、パンと干し肉に噛り付く。

「……よくそこまで食べられるわね」

シェリーは二人前を軽く平らげるブロードに唖然とする。

「傭兵稼業は食えるときに食っておくのが鉄則だ。

 戦場で飯が食える時間は貴重だからな」

アネットが再び盆を持ってやってくる。

何も言わずとも盆を受け取り、野菜スープを飲み干した。

「……一つもらってもいい?」

シェリーが控えめに言う。

ブロードはにっと笑って盆を差し出すと、シェリーはパンと干し肉を手に取った。

「ところでブロード、これについて何か知っているかしら?」

アネットが取り出したのは金色の眼球を模したモニュメントだ。

ブロードは、手に取って眺めてから言う。

「なんだ、これ」

「ええ、これが災厄の瞳、その対になるものよ」

災厄の瞳、その半分。

これが紅の災厄、かつて世界を滅ぼそうとした存在の力を封じた秘宝ということか。

改めて災厄の瞳をまじまじと見る。

金色の玉に模様が描かれ、プリズム模様の光彩、瞳が金色をしている。

そのままでも眼球を模しているのはわかる。

「これの対ってことは眼孔みたいな台座なのかな?」

ブロードはもう一つの災厄の瞳について推測を述べる。

返答は無かった。

ブロードが眠っている間に三人は教会を調べていたという。

すると十字架の裏には隠し扉があり、中にはこの災厄の瞳が入っていた。

扉は無理やりこじ開けようとした痕跡もあった。

無数の引っ掻き傷、焼け焦げた跡、冒険者たちによるものだと推測できた。

「彼らは災厄の瞳を見つけてたってことか?」

教会が極秘裏に依頼した凄腕っという評判は確かだったらしい。

「けれど開けることができなかった」

そのために教会で往生していたところを……ということだろう。

三人が黙っているところにフギンが歩み寄ってくる。

「ブロード、平気か?」

ああっと答える。

フギンは四人分のコーヒーを用意していた。

「まぁ座ろう。話を進めて大丈夫なんだな?」

シェリーはええっと肯定する。

何かしらブロードを除いて話をしていたようだった。

ブロードはコーヒーに口をつけて話に備える。

「甘い……」

「ああ、すまん。甘すぎたか」

「俺はいつもブラックなんだ……」

神妙な雰囲気が一瞬で崩れてる。

シェリーは溜息をつき、アネットは微笑を深めた。

「全く、真面目に話をするわよ」

シェリーがそういって表情を引き締めた。

「ブロード、大事な話をするわよ」

ああっと甘いコーヒーを口にして答える。

「あの力は、何?」

やっぱりそうか、とブロードは思う。

フギンも同じ考えだろう。

アネットはこちらを見ない、自分の判断でいいということだろう。

少し考えてブロードは正直に答えることにした。

「実はよくわからないんだ」

三人はブロードの言葉を待つ。

「死にかけるとたまに出てくるんだ。雨の音がして、

 頭の中がどうしようもなく熱くなって、体全体が焼けるように。

 何もかもぶち壊したくなるんだ……わけがわからないぐらいに……」

ブロードは自分の体を強く抱く。

自分の中から湧き上がる暗い衝動が、体の中を暴れまわる感覚を思い出す。

自分が自分以外の何かに満たされる感覚、

自分の体が自分以外の何かの意思で動く感覚、

悪い夢のように、体に染みついた火傷痕のように、心に絡みついていた。

シェリーが背中を叩く。

「もういいわ、ありがとうブロード」

ありがとうっと言いながら何度も背中をさする。

「……とんでもない力だが、それに助けられたんだな」

それ以上、深く聞くことはしなかった。

「それで、俺のことはどうする?」

落ち着いたブロードがフギンとシェリーに聞く。

やましいことがないとはいえ、人の域を超えた力を振るうことは知られたくなかった。

だが二人は教会騎士として報告をする義務がある。

フギンとシェリーは顔を見合わせて答えた。

「この件は教会には伏せる。気にするな、奴らは俺たちが協力して倒したことにする」

「万が一、教会に呼ばれても私たちが弁護する。心配しなくてもいいわ」

ぎこちない笑みを浮かべる。

「そうか、わかった」

ブロードは顔を腕に埋める。

そしてそのまま呟いた。

「二人とも、ありがとう」

二人は笑みを浮かべた。

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