-7-
……雨が降っていた。
腕の中で誰かが息を引き取る。
顔が見えない。
言葉も聞こえない。
それでも悲しかった。
顔を上げる。
黒い人影が立っている。
翼を広げた人影。
感情が爆発する。
心の中に渦まく怒り。
世界の全てを壊すほどに激しい憎悪が身を焦がす。
黒い影に向けて走り出した瞬間に目を覚ます。
全身の激痛にも構わずブロードは立ち上がった。
目は見えず、全身の骨は折れ、内臓は潰れて機能していない
懐からエリクサーの袋を取り出し、中の液体を一気に呑む。
口の中が酸で焼けるが構わず飲み込む。
残りを体にかける、これで体が動く程度に再生はする。
全身の血が沸騰したように駆け巡る。
四肢の鎧から光が漏れる。
オーバードライブの金色の光とは違う。
血のように赤い光が彼に宿る。
左手の義手は獣のそれのように爪が伸び、大型化する。
ブロードは右手で大剣を握った。
ワーウルフたちは彼の異様な気配に獲物をいたぶる手を止めて唸り声をあげていた。
咆哮を上げる、獣のそれは獲物を畏怖させ動きを止める。
ブロードはその咆哮に振り向く。
その瞳は血で赤く染まっていた。
咆哮、怒りのままの叫びは獣のそれを上回る。
世界に存在する全ての命を憎むその憎悪の叫び。
ワーウルフは思わず怯んだ。
その体が二つに割れる。
袈裟方に両断されたワーウルフが崩れる。
眼前でブロードは血のついた大剣を持ち佇んでいた。
十歩はあろう距離だが一瞬の出来事であった。
ワーウルフもエルマも何が起こったのかわからずにいる。
後ろを振り向き、ぎょろりと赤い瞳が動く。
少女を守るようにワーウルフが立ちはだかった。
両腕を前に出し、体を守るように構える。
次の瞬間、見えたのは空中で大剣を頭上から振る男。
一番近い左手を反射的に突き出す。
肘から先が宙を舞った。
男が掻き消え、右に現れ空中から剣を振るっている。
首を守るように上げた右腕が二の腕の半ばから斬り飛ぶ。
背中に気配を感じた。
その瞬間、首が飛ぶ。
ブロードが地面で佇む。
飛ばされた首が落ち、力を失った体躯が音を立てて倒れた。
二体のワーウルフは何が起こったのか、最後までわかることはなかった。
そしてエルマもまた理解が追い付かない。
突如、廃教会の奥の十字架が光を放った。
「封印が解けた……?なぜ、だがこれで我が主の望みが……」
エルマが何かを呟く。
そして同時にエルマは我に返る。
ブロードもまた光に気を取られていた。
今ならワーウルフたちを蘇生できる、そうすればチャンスはあるはず。
息を吸い込む、呪歌を歌うために目を閉じて集中する。
頭に強烈な衝撃が走る。
その衝撃のまま体が壁に打ち付けられた。
頭に激痛が走る、ブロードの左手の義手が射出されエルマの頭を握りつぶそうとしていた。
余りの激痛に歌どころか声すら上げられない。
化け物め。
それが言葉となることはなく、骨と肉が潰れる音を立てて肉塊と化す。
余りに一方的な戦いとも虐殺とも言えない。
それはもはや処理とでもいうか、淡々と行われた殺しの作業のようだった。
ブロードは動くものがないと見るや、糸が切れたように倒れ伏した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます